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女神様、後悔する

「お、お前かー!!!」

俺の叫び声でクラス中が水を打ったように静まり返る。


だが、そんなことを気にしている場合ではない。水無瀬結衣が「女神様」だとは。


「何か用?」

水無瀬さんが頬杖をついて聞く。俺は一瞬言葉に詰まった。クラス中に向かって「お前が女神様だったのか!」とは天地がひっくり返っても言えまい。


「え、えっと・・・なんでもないです。なんでもございません」ここは方針転換して引き下がった方が良さそうだ。

「何なのよ。刑事ドラマで犯人を見つけたみたいな声をあげといて」水無瀬さんが口を尖らせる。

「い、いや。人違いでしたので・・・大変失礼しました」何事もなかったかのように引き下がろうとした。


ところが・・・。

「ちょうど私も話があるんだけど」水無瀬さんが逆に向かってきた。

「俺はありませんが・・・」

「私はあるの。ちょっと来て!」

「来てって・・・これから授業があるのに」

「まだあと5分あるわ。早くしてよ」5分で叩きのめすのだろうか・・・。


そんなことを思いながら有無を言わさぬ水無瀬さんについて教室を出た。



うちのクラスは高校2年C組。ちょうど隣に空き教室があり、人目を気にせず話ができる場所になっていた。水無瀬さんはそこに入った。

幸い?かどうか朝のこの時間に使用者はいなかった。


「で、話って?」扉を閉めて問いかける。

よりによって、水無瀬さんが俺に話だなんてどういうことだろう。実は女神様のモテパワーを手に入れてから、こういう時が来ないかなーと、ちょっと期待したりしていた。学校一の美少女が俺を呼び出して、そして、「好きです・・・。私と付き合ってください」・・・なんてことはさっきの水無瀬さんの雰囲気からすると、とてもなさそうだ。


ところが水無瀬さんの返答は俺の予想を遥かに超えていた。


「私のモテを返してよ!!」


「へ?」目が点になる。

「だから返してよ!私のモテを!!」


???


事情が全く飲み込めない。

それどころか、あろうことか、あの水無瀬結衣が机に腰掛けて突然泣きじゃくり始めたのだ。入学して以来、ほとんど話したこともなかったのに!?

この世界は一体どうなっている??


「お、おい。どうしたんだよ。急に」

とりあえず俺も隣の机に座って問いかける。

「上牧が・・・余計な願いごとして・・・女神が・・・」


・・・

いつもの頭脳明晰な水無瀬さんからは考えられないような支離滅裂さ。ま、泣いてるんだから驚くことではないか。

言葉をつなぎ合わせて、脳内で正しい文に翻訳するとおおよそ次のような事情だった。


先週の日曜日、水無瀬結衣は自分が女神様になる夢を見た(水無瀬さんらしい、とも言える)。それは楽しい夢だったのだが、途中で誰かの願いごとを叶えるまで元に戻れないことに気づく。

それで、ちょうど一番近かった上牧勇真の家に行って願いごとをさせた。俺がモテたいと言った例の願いごと。

ところが、女神様はその能力をただで叶えられるわけではなかった。


モテを上牧勇真に「転移」してしまい、自身はモテを失ってしまったのだった。


確かに近頃水無瀬さんは影が薄くなったような気がする。俺が急にモテだしたことであまり気づいてなかったが、最近男子生徒が水無瀬さんを話題にしていない。


「そ、そういうことだったんか・・・俺と立場が入れ替わってしまったのか。そりゃお気の毒」笑いそうになるのを踏みとどまる。

「あんたが愚にもつかない願いごとするからよ!」少し泣き止んで言葉がつながったようだ。

「と言われてもなあ・・・。願いごとしていいって女神様に言われたら、普通するじゃん」

「どうして、明日のテストで100点取れますようにとかじゃないの!なんでモテなのよ。イケメンならまだしもあんたに限って!」

「そりゃイケメンはモテますようにって願いごとする必要ないから」

「・・・」どうやら、正論だったようだ。


始業ベルが鳴った。授業が始まる、と思ったけれど水無瀬さんはそれに構う様子がなかった。


「とにかく、私、これから一生モテなかったらどうするの!白馬に乗った王子さまにも出会えないし、結婚もできないし・・・」

水無瀬さんの恋愛願望ってメルヘンチックだったんだ・・・と発見している場合ではない。水無瀬さんがまた本気でしくしくやりだしたからだ。


「えっと・・・俺の責任ではないような気もしなくもないけど、あんな願いごとして悪かったよ」なだめすかしてみる。

「・・・」

「えっと、ま、しばらくしたら効き目も切れて元に戻るんじゃないか。ほら、俺は別に中身も外目も冴えるようになったわけじゃない。水無瀬さんも同じく先週までと変わらず、学校一かわいくて、成績優秀でスポーツ抜群。どっちがモテるべきかは一目瞭然だろ。そのうち落ち着くべきところに落ち着くよ」


別に根拠があるわけではない。だが、俺だって女神パワーが無限に続くとは信じられなかった。ラッキーと思わないでもなかったけれど、チート技というのはいずれバグ修正されるものだ。


やっぱり、水無瀬さんがモテて、俺はクラスで目立たずひっそりと過ごす日常が一番いい、と(泣いている水無瀬さんを前にしては)そう思った。


「ほ、ほんとにそう思う?」少し効果があったのか、水無瀬さんが涙に濡れた顔を上げた。

「うん、何事も安定な状態に落ち着くから」全く根拠がないが今はそう信じよう。

「じゃあ、今日と明日だけ待ってみるわ」

「たった2日!?」


猶予がない。さすがに2日では自然に収まらないような気がする。

「うん。だから明日中に何とかしてね」水無瀬さんが雫を落として微笑む。目が赤くなっているのもかわいいな。反則技出してきた・・・。


「じゃ、授業行こっか」立ち上がる。

「待って。顔が直るまでここから出られないから上牧もここにいてよ」

「え?それって1時間目終わるまでかかるよな」

「もちろん。これも上牧の願いごとのせいなんだからね!」


期せずして水無瀬結衣と50分も二人きりでいることになってしまった。たった1時間前とは世界が変わってしまったかのよう・・・。


これからどうなるんだ。俺の高校生活は!?

ブックマーク、評価いただけますと作者は泣いて喜びます。


(嘘です。普通に喜びます)


よろしくお願いします!


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