女神様のお城、結衣の家
午前10時半。心地よく目が覚めた。
よく寝たなー。ベッドに寝そべったまま、カーテンを引っ張って開ける。麗らかな春の空。太陽が眩しい。
今日からゴールデンウィークか・・・。時間はたっぷりあるし、まずはのんびりだらだらと過ごすか。
休みの日のお気に入りの過ごし方である。
ゆっくりと着替えて階下へ行こうとした時、スマホが鳴った。
俺に電話してくるやつは一人しかいない。
やはり、妹の莉奈であった。
「もしもし?」
「もしもし、お兄ちゃんー。莉奈でーす。その声は起きたばっかしだね。あたし、今どこにいると思う??」
「寝起きでなかったとしてもわかるわけないだろ!」
「答えは結衣ちゃん家でした!お兄ちゃんも今から来てよ!」
「なんでお前が結衣の家にいるんだよ」
「いいからいいから。すぐ来てね!結衣ちゃんも早くって言ってるから」
結衣が?いったい何の用だろう。
「水無瀬さんの家ってどこなんだ?」
「駅前の一番おっきいマンションの二番目におっきい部屋」
「うん。わからない。住所とか、何号室とかそういう情報プリーズ」
「駅前のChateau de Rouge (シャトー・ド・ルージュ)の1402室」
「シャトーなんとかの1402ね。たぶん行き着けると思う」
「おっけー!じゃ、できるだけ早くね。今ちょうど勉強教えてもらってるから」
「嬉しそうな声だな。絶対嘘だろ!!」
そんなわけで、スマホをポケットに入れて、軽くコーヒーだけ飲むと外に出た。
駅は南に歩いて15分ほど。この辺りはほとんど住宅地だが、駅近くにはショッピングモールや映画館、ゲームセンターなどもある。都会、というほどでもないが普段の暮らしには困らないし、人混みもそれほどでないので、住みよい街、と思っている。
水無瀬さんのマンションは・・・あれか。あの高級そうなマンション。エントランス周りは綺麗に剪定された木々や花が取り巻いており、ちょっとした庭園のようだ。
大理石の壁が美しいロビーに入る。Chateau de Rougeと銘板がある。
モニターで1402と押すと・・・。
「はい?あ、勇真ね。どうぞ」
扉がガラリと開いた。
高速エレベーターで一気に14階へ。
一番上の階だった。1401〜03の3部屋しかない・・・。
「お邪魔しまーす」
「どうぞー」水無瀬結衣の声。
「うわー、いいところだねー。女神ちゃんってこんなところに住んでたんだ」
「女神ちゃん」はスルーされて、リビングに案内される。大きな窓にソファ。そこには妹の他に、もう一人・・・。
「あ、紹介するね。こちらは大宮麗香ちゃん。同じ階のお隣で、幼馴染なの」
「大宮麗香です。高1です。よろしくお願いします」
「上牧勇真です。結衣の知り合いです。よろしく」
「勇真は知らないだろうけど、麗香ちゃんは私たちとおんなじ高校だよ」
「そうだったんだ。見たことないな」
大宮さんはロングヘアで、水無瀬さんより少し背が低く、莉奈よりは少し高い。落ち着いた雰囲気でソファに腰掛けている。
ちなみにバストがなかなかである。
「あと、麗香ちゃんはいいとこのお嬢さまだから、勇真なんかは手を出したらだめよ」
「どんな紹介の仕方だよ!俺に対する印象最悪だろ」
「一応言っといただけ。ところで勇真、朝ごはんまだでしょ?いろいろあるから食べてっていいよ」水無瀬さんがテーブルの方を指差す。クロワッサンに、フランスパンに、彩のきれいなサラダ、スクランブルエッグ、ポテトとソーセージ・・・。すごい豪華だ。
「さてさて、誰が作ったでしょうー?」莉奈が聞いてくる。
「お前以外の誰かだな」
妹は屈指の料理下手だ。
「えーん。あたしも手伝ったのに!これはね、麗香ちゃんが作ってくれたの。中学では料理クラブで、これくらいお手の物だって。さっき電話で勉強って言ってたのは料理の勉強だったの。麗香ちゃんがプロだから」
「い、いえ。そんなたいしたことありません・・・うちのシェフがよく教えてくれるだけなので」
シェフ!?いったいどんなとこに住んでるんだ。どうりで大宮さん礼儀正しくておしとやかな感じなんだ。
「じゃ、いただきまーす。大宮さん、すごいね。高校でも料理クラブ入るの?」
「えっと・・・私は何かスポーツを始めたいなと思っています。両親には茶道部に入れって言われてるんですが・・・」
はにかんでいる。
「ちょうどバドミントン部に誘ってたところだよ。そろそろ入部の時期だから」水無瀬さんが先輩顔をする。
「初心者でも大丈夫だったら・・・」
「いろんなレベルの人いるし全然オッケーだよ!」
「あとで3階のプレイルーム行ってバドミントンしよっか」莉奈が提案する。
よく知ってるな・・・。大宮さんとも既に仲よさそうだし、ここには何回か来ていたに違いない。
「いいねー」と水無瀬さん。
「楽しみです」と大宮さん。
「あと、カラオケもできるよ」水無瀬さんが言う。
「やったー!莉奈歌うの好きだからうれしいな」
「お前はやめといた方がいいんじゃないか。超マイナーなアニソンしか歌わないから」
「お兄ちゃん、よく知ってるねー!」
「嬉しそうにするな!!」
「お二人さん仲良し兄妹だもんね。そうだ、いいこと思いついた。莉奈ちゃん、勇真の弱点とか、黒歴史とかなんかない?」水無瀬さんがいたずらっぽく笑っている。
「人の弱みを握ろうとするな!!」
「莉奈ちゃんの好きな抹茶シュークリームあげるから」
あ、やばい。莉奈にシュークリームちらつかせると・・・。
「はーい。お兄ちゃんと言えば、ナーサリーライムって言う・・・」
「あ、やめろ!暴露するな!!」
「なになに?」水無瀬さんが身を乗り出している。
「・・・って言うエロゲが好きでした」
ああー、莉奈の裏切り者め・・・。
「勇真の変態っ!!」と結衣。
「エロゲってどういう意味ですか??」と大宮さんが知らないふりをする。
「ずっと昔の話な。気にしない気にしない。莉奈は口を慎まないと、学校帰りのシュークリームはこれからなしな」
「じゃあ、莉奈ちゃんには結衣が毎日2個ずつ買って来てあげる」
「やったー!」
う、一枚上手だったか。シュークリームに目がなさすぎだろ。
「ごめんな、大宮さん。初対面から変な印象ばっかり与えて。俺、いたって普通の人間だから」
自分でフォローするしかない。
「あ、気にしないでください。私、今まであまりこう言う話に馴染みがなかったので、楽しいです」
まじか!?楽しまれてる!?
・・・
くうーっ、今日はやられっぱなしだ。女神様め。莉奈を手懐けて、過去のあぶり出しまでしてくるとは。
何かやり返せないものだろうか。ここは水無瀬さんの家・・・なんかぎゃふんと言わせるか、恥をかかせるような要素がないものだろうか。
部屋をくまなく見渡す。ふと、目にとまるものがあった。
あ、あれはなんだ?部屋の隅っこに立て掛けてある・・・カラフルな杖のようなもの。どこかで見たような気がする。
わかった!あれだ。女神様の杖だ。いつかの夜の。
逆転の機会を捉えた・・・よし、あれでさんざんからかってやろう。
正しくは「Nursery Rhyme -ナーサリィ☆ライム-」です
Fate/Grand Order のスキルではありません
あと、杖が何だかわからない方は第1話ご覧ください




