モテ回復作戦・・・まさか、本気で言ってる?
暗い螺旋階段を上がり、鉄の扉を開くと、ぱっと明るい光が差した。数メートル先に、校庭から見える時計台があり、山崎はその影に身を隠した。
南側の鉄柵に水無瀬さんがもたれかかっている。風が吹き抜けてきて髪を揺らした。
「結衣」後ろから声をかける。
「勇真?ど、どうしたの?こんなところで」
振り返ったけれど、ちょっとうつむいている。
俺は前に進んで、結衣のすぐ前で止まった。シャンプーのいい香りを微かに感じた。
「結衣、急に呼び出したりしてごめん。実は折り入って言っておきたいことがあって・・・。好きです。俺と付き合ってください」
一瞬沈黙があった。太陽の光が二人を透かすように照らしている。
「え、えっと・・・あの・・・作戦の一環として、だよね」
「作戦って何のこと?」
声を落としてとぼける。結衣のまつ毛がはっきり見えるくらいに、もう一歩近づいた。
「ま、まさか、本気で言ってる?」
「好きです。結衣が」
「う、うん」
うん、だって??・・・これは成功ってことか!?まじかよ。
「えっと・・・下に戻ろうか」階段の方を指差す。現実が飛んでいって、夢のような心地だった。
「うん」
山崎は既に姿を消していた。山崎にとって、これ以上ないほどの予行演習になっただろう。
「・・・結衣、今のでちょっと雰囲気出ただろ。これでもっと自然な感じで作戦を進められるんじゃない?この前喫茶店での契約じゃなくて、ちゃんと告白したんだから。モテ回復作戦、きっとうまく行くよ」
「え?あ、もちろん、そうだよね。作戦の一環よね。急だったから一瞬びっくりした。この前空き教室で勇真が『自然なカップルになるためのいい方法考えとく』って言ったのこれのことだったんか」
「もしかしてだけど・・・今言うまで気づかなかった?」
「ま、まさか。私も作戦の一環で受けたの。うん、上手く演技に乗ったでしょ。私も」
「演技どころか迫真に迫ってたぞ」
「そ、それは勇真の言い方が真に迫ってたせいよ」
教室まで戻ってきた。みんな部活に行くか帰るかして、中には数人しか残っていない。
「これから部活だよな。ごめん、引き止めちゃって」
「うん、部活行ってくるわ」
「俺も帰宅部行くわ。またゴールデンウィーク明けにな!」
水無瀬さんがちょっと上の空で固まっている。
「ね、ねえ勇真?」
「うん?」
「さっきのちょっとは本気だったでしょ?」
いつもはこうやって優位に立とうとしてくるので、一本取られないように気をつけないといけないのだが、今は、というかさっきからちょっと様子が違うような気がする。
「ま、まあね。少しは」
「ちなみに何パーセント本気?」
「えー?そこまで聞く?そうだなあ・・・20パーセントくらいかな」
「私も消費税くらいは本気だったかも・・・」
「今の、俺が10パーセントって言ってたら結衣は5パーセントって答えてたよな。後だしじゃんけんみたいでずるいなあ」
「あははー、ばれた?ねえ、勇真。明日からゴールデンウィークだけど、一日くらいどっかで遊ぼっか。作戦の一環・・・ではなくて、純粋にちょっと休憩ってことで」
「おう、俺はいつでもいいよ」
水無瀬さんがラケットを持ってバドミントン部に行き、俺は帰る準備をした。廊下を出たところで、山崎に会った。
「お、上牧か。さっきは良かったよ。俺も若干可能性を感じてきた。今日部活が終わったら、屋上にって相川さんを誘っといた」
「さすがだな。頑張れよ。で、成功したらカラオケと焼肉よろしくな」
「おう。ただし、失敗だったらお前がおごれよ」
「まじで?そんな約束はしないほうがいいぞ。縁起でもないから」
その日の夜、夕ご飯をテーブルに並べていると、妹の莉奈が帰ってくるなり俺の方を見て手招きした。
「お兄ちゃん、告白上手く行った?」
「うん、なんとか。水無瀬さんの答えはオッケーだったよ」
「よかったー、実は私がちょっと手助けしたんだよ」
「どういうこと?」
「今朝ね、結衣ちゃんに『今日何かあるかもしれないから、お兄ちゃんに優しくしておくのが吉かも』ってメッセージ入れたの」
「そうだったのか?莉奈が!?」
なるほど、そういうことか。それで水無瀬さんがいつもより優しかったり、ためらわずに屋上に来てくれたりしたわけか。
水無瀬さんも何が起こるかうっすらと感じて、心の準備をしていたのかもしれない。そうでなかったら、俺の告白に対して、「突然何言い出すの?作戦にのめり込みすぎて本気で好きになっちゃった?」とか言ってたかもしれない。
「莉奈もお節介なことするなあ・・・ま、成功だったからお礼言うよ」
「うふふ、莉奈気が利くでしょー」
「ちなみに、抹茶シュークリーム冷蔵庫にあるから」
「ほんと?ありがとうー!じゃ、私もお返ししないとね。・・・後でリラクゼーションエステしてあげる。最近、はまってるの」
「誰がされるか!」
「じゃあしてくれる??」
「おけ。いいよ。・・・とでも言うと思ってるのか?!」
中2なのに発言が過激になってきてる気が・・・。シュークリームで喜んでるのとギャップがひどいな・・・。




