モテ回復作戦・・・私は寂しいけど
5月1日金曜日。明日からゴールデンウィークだ。
いっぱい遊ぶぞー!と言う前にひと仕事が待っている。結衣に告白して、ゴールデンウィーク明けからは自他認める熱々カップルに!?
もちろん、結衣のモテ回復作戦の一環ではあるけれど、今日1日はそれを忘れて本気でアタックする予定だ。
山崎に、元非モテの底力を見せつけてやる!
と意気込んでいたが、教室に入って水無瀬さんと顔を合わすと、さすがにどきどきしてきた。今日中に本当に告白するんだという現実感が胸に突き刺さってくる。
「おはよう、勇真」
「おはよう、結衣」
「今日は数学の小テストの日だね。ちゃんと準備できてる?」
「まあね。いくらかは」
「なんか心もとないね。休み時間に私が教えてあげよっか?」
「いや、大丈夫だよ」
「遠慮しないでいいって。私、教えるの上手いんだよ」
「ほんとに大丈夫だって!」
なんか今日はいつもより優しくないか?普段なら「やっぱり準備できてないんだー。ひどい点になるよー」なんて感じで笑ってるのに。
「明日からゴールデンウィークだけど、勇真はなんか予定ある?」
「特にない。学校がないのが一番嬉しいかな」
「そう?私は寂しいけど。勇真に会えなくて」意味ありげに聞こえる発言・・・。
「今、他に誰も聞いていないから、作戦の一環発動しても意味ないぞ」
いつもと様子が違う気がする。これだと、告白のハードルが上がるではないか。
なんか、ガチの雰囲気になりかねない。
俺の心を読んでいて、今日告白されるから、あらかじめそれっぽい雰囲気にしようってことだろうか?そして一気に奈落に突き落とすとか?!
・・・まさか、俺は告白するなんて顔にも態度にも出してないし、そこまで見抜かれていることはないだろう。
午前中、気持ちが落ち着かないまま、1時間、2時間と過ぎて行った。
昼休みもいつもより慌ただしい気がした。山崎と食堂に行って、うどん定食をさっと食べ、教室に戻る。
他の生徒たちも落ち着かない様子だが、こちらは午後一の数学の小テストのせいだろう。早めに昼飯を済ませて、机で勉強しているものも多い。
「今回の小テストは1学期の成績に加味されるらしいぞ」山崎が頭を抱えている。
「それは毎度のことだろ。もうすぐ定期テストがあるのになんで小テストまでやるんだろうな」
そうは言ったものの、俺もさすがに教科書を見返す。
えっと、テスト範囲は・・・うわ、これは何だ?
60ページにまたしても書き込みが!
上牧くん、私、今まで知らなかったけれど水無瀬さんと付き合っていたんだね。
私なんかが出てきてごめんなさい・・・。相川美羽
あ、これは相川さんを完全に傷つけてしまったやつだ。いつかこの時が来るとは思っていたけれど・・・。
こうなったら、何とか山崎に頑張ってもらって、相川さんに幸せになってもらうしかない。
「山崎・・・」
「どうした?俺は答えを暗記するのに忙しいんだ」
「頑張れよ・・・今がチャンスかも」
「言われなくても必死に覚えてるよ。お前は大丈夫なんか?」
「テストの話じゃなくて、相川さんのこと!ちょっと話がある」
「このタイミングで?話は聞くけど」山崎は驚いたように顔を上げた。
「いいか、よく聞けよ。この前お前が言ってた通り、俺が水無瀬さんに告白するところを見せてやる。放課後、屋上で。それを参考にして、同じやり方で相川さんにアタックするんだ。明日からゴールデンウィークだし、今日が絶好のチャンスだから」
「い、いきなり来たな。本当に今日なのか?」
「うん、今日が相川さんの心の空白期間だ。決行あるのみだぞ」
「よくわからないが、水無瀬さんを落とした上牧が言うんなら、何か間違いない理由があるんだろうな。分かった。心の準備をするよ」
「準備ならテスト準備だろ!さっきまでの解答丸暗記の熱意はどうした?」
「それどころじゃないだろ!!」
俺もそれどころじゃなかった。
予鈴がすでに鳴っている。昼休みはあと数分。決心が変わらないうちにスマホを机の下で取り出してメッセージを打ち始める。
〔上牧勇真〕今日放課後少し時間ある?ちょっと屋上に来てほしいんだけど。よろしく!
俺の方からメッセージを送るのも(妹がなりすましをした時以外は)初めてだ。送信ボタンを押す前に少しためらう。これで後戻りはできなくなるわけだ。
送信・・・クリック。
水無瀬さんを誘い出してしまった。
窓際の席をちらりと見る。水無瀬さんが制服のポケットからスマホを取り出して確認している。画面を見ただけで、返信はせず、またポケットにしまった。水無瀬さんの方は今のを読んでもテストに集中できるだろうか。
俺の方はどのみちひどい点数になりそうだ。
チャイムが鳴って、数学の服部先生が入って来た。これから生徒たちをたっぷり苦しませるテスト用紙を抱えて。
・・・
50分後・・・。テスト撃沈。
そしてついに来てしまった放課後。
「よし、今から行く。屋上の時計台の影に隠れていろよ。間違っても姿を現わすな」
放課後になるなり、山崎に言う。
「おう、わかった。目を皿にして、耳をダンボにして隠れてるよ」
山崎が両手を耳の横に付けている。
「そこまでしなくていいから。逆に怪しいから。普通にしてろ」
いよいよ時が来た。
職員室に行って、屋上への階段の鍵を拝借しようと探すと、既にない。さっき教室から水無瀬さんが出ていくのを見たし、先に屋上に行っているんだろう。
気持ちが高ぶってくるのを感じた。




