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異世界で試したい幾つかのこと  作者: Einzeln
第1章
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03 セリアス

 青い森林が風に揺れる。木々の隙間から溢れる太陽の光が優しく大地を照らし、動植物が生み出す自然の香りが頬をくすぐるように撫でている。どうやら俺は横たわっているらしい。

 心地いいな。


 ……ここが、セリアスか。


 何故だか開きの悪い目をきょろきょろと動かすと、ハツラツな木の幹が目に入る。ここも、あっちも、そこも、それから反対には、、、

 …身体全体を包むような、暖かく、柔らかい感触。よく分からんが優しい温もりを感じる。


 見た限り、どうやら森の中らしい。全くあの神畜生の奴、なんてところに飛ばしてくれてるんだ。高校3年間ロクに彼女も出来なかったインドア派陰キャ童帝にサバイバル知識があるとでも思ったか!


 今は日があるからいいが、夜になれば移動することもままならないだろう。


 いても立ってもいられなくなった俺は、鬱憤を晴らすように動こうとした。


 「あぅ。」


 どこからか声がした。


 「あぅ、ぅあ。」


 舌っ足らずな、赤子らしき声。

 一体声は何処(いずこ)から?


 声の主を探そうと再び視線をさ迷わせるが、瞼がやっぱり重いようで開きが悪い。


 むむむ…

 「あうあう…」


 うーむ…開かぬ。

 「ぅぁう…」



 「□□□□□?□□□?」



 …なんだ?さっきの赤子の声とは違う、大人の、しかし若い女性と思われる声。それがちょうど頭の上から聞こえた。

 今度はなんだと視線を上に向けると、優しい笑みを浮かべた女性が俺を覗き込んでいた。


 まず目に入ったのはその可愛らしい顔。次に陽の光で淡く輝く金髪。続けて顔の影になっていてもきらめく金の瞳。第一印象を纏めると可愛さ7:美しさ3と言ったところか。若干幼く見える顔立ちなのがキーポイントだろう。

 顔の細部までを見尽くした後は視野を広げて全体を観察していく。視線を下げるように移動させると、そこにあったのはなんとも実りのいいお胸。

 どうやら俺は彼女を見上げるように寝ているようだ。


 …ん?てことは、俺いま膝枕されてるってこと!?


 瞬間、先程まで体験した感覚がパズルのピースが一気にハマったように繋がった。


 …そうか。あの温もりと柔らかさはこの女性の太ももであらせられたか。

 高校3年間。その青春を棒に振った陰キャにこんな経験ができるとは……この幸運を神に感謝せねば。


 俺は感動にその身を揺らして泣いた。涙が留まることを知らない。溢れ続けるそれはやがて川となり滝を作るのだろうか?


 「□□!?□□□□□?」


 うん?どうやら俺が泣いたからか、女性が焦った素振りをみせた。

 そして何を血迷ったのか、服の胸元に手をかけ、自らの乳をさらけ出したでは無いか!しかもそれだけでは飽き足らず、俺を軽々と持ち上げて顔を『ソコ』へ近ずけていく。

 驚いた俺は半ば反射で目をかっぴらいた。だが、やはり瞼は上がりきらなかった。


 あわあわしている俺を他所に、ついにその乳へと唇が触れた。ぐるぐる巡っていた思考は動きを止め、頭が真っ白になった。一体何が起こってるんだ…

 「ちょ待てよ」とも言わせて貰えないまま発生した強制イベントに放心する。


 ……そして当然のように俺は乳を吸っていた。


 …は?いやいやいや、違う違う違う!誤解ですお巡りさん!私の体が勝手に!!

 怒涛の勢いで脳内で繰り広げられる言い訳。静止しようと駆け巡る思考。だが体は止まらない。止まってくれない。


 一体どういうことなんだ。訳が分からない。訳が分からないが、とにかくこのことが世間に知られれば社会的信用は地に落ちるのは確実。だが、だからこそ今は女性の気分を害さないことが重要だと咄嗟に位置づけして、様子を見る為、恐る恐る上を仰ぎ見る。


 そこにあるのは憤怒の顔…ではなく、視界いっぱいに広がる白く透き通る肌と胸。

 そして、柔らかな慈愛のこもった微笑みだった。



 俺は、母親だと悟った。

 ただのひとつの迷いなく。


 そして必然的に、俺は彼女の子供だった。



 彼女が背中を優しく叩く。彼女の…母親の母乳を飲み終わった俺は、その刺激に合わせるようにゲップをする。

 ミルクの味は……正直よく分からん。無味?それとも味覚がまだ完全な仕事をしていないのだろうか。


 暖かな木漏れ日が母子を照らす。木々はザワザワと音を奏でるが、それは雑音ではなく心に安らぎをもたらす子守唄のようだ。

 …心地いい。


 母親からも穏やかな雰囲気が漂っている。それは肌と肌を通じて俺に伝わるようで、この幼い体は安らぎに微睡んでいった。


 これが俺の、セリアスに転生したあとの初めの記憶だった。

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