01 白いドーム
第2話です。ここから数話はプロローグっぽいやつが続くと思われます!
「ようこそ、我が転界へ。」
「なあ、それまたやるのか?さっき聞いたからもう言わなくていいぞ。」
「貴方のせいでこうなったのでしょうが!」
「???」
今俺の目の前には、神社の巫女さんが着るような白ベースに赤でアクセントが入った貫頭衣を身にまとった幼女がおり、仏頂面で話しかけてきている。それに加え、そのコスプレのような出で立ちと幼女という姿形に、全身からイライラとしたオーラが立ち上っているのだから、できるならば関わりたくない存在であった。
だが世は非情である。この幼女は俺を離してくれないらしい。まったくどうしたらいいんだ……
時は少し遡る。何故かいきなり吹き飛んだ俺は、あの後説明を求めるべくこの幼女の下に戻ってきた。曰く、俺が吹き飛んだのはこの幼女が軽く殴ったかららしい。「普通こんなふっ飛ばないよね?!」と訴える傍らで、俺がこんなのに殴られて吹き飛ぶくらい軽くなっちゃったのかな?など考えていると、幼女がこう言ってきた。
「初対面の人に向かっていきなり幼女はないでしょうが!幼女は!それに、貴方が私に軽く殴られただけで吹き飛んだのは、私が貴方達ヒトを生み出した存在。そちらでいう神、或いは奇跡、或いは真理と呼ばれる存在だからです。いち被造物の貴方が、創造主である私に殴られて吹き飛ぶのは当然の結果なのです。」
どこかで聞いた事があるようなセリフ…いやいやそうではなく、まるで俺の考えを読んだかのようなレスポンスだな。 だがなんだか香ばしいし胡散臭いぞ。『私は神で、お前たちを作った』だぁ……?
「それならなんで俺は死んでないんだ?人間は神に殴られても死なないように出来てるのか?というか、何故俺に神様が見えてるんだよ、こんなの聞いたことねぇよ。」
「ああ、それなら単純明快、子供でも分かるお話ですよ。それはですね…」
………?
「貴方が死んだからですよ。巳納鳥楓さん?」
…なんだそりゃ、そんな訳ないだろ。
「フフフ…それでは仕切り直しです。 ようこそ、我が転界へ。」
「悪いな。俺はお子様の戯言に付き合ってる時間はないんだよ。」
「信じないんですか。」
「当たり前だろ、きっとこれは悪い冗談だ。」
「…どうやら、打ち所が悪かったようですね。さっき殴ったせいで記憶を無くしてしまったのでしょうか?もしくは、少し馬鹿になっているのでしょうか?」
幼女もとい自称神様が何かブツブツ言ってるが、こちらからは何を言ってるかよく聞こえない。その間にこの部屋全体を見回して出口らしきものがないか探してみるが、このドーム状の部屋には窓どころか、部屋がドーム状であることを示すあらゆるものが存在しなかった。つまり、ただ漠然と『ここはドームだ』という認識があるだけらしい。
興味深く、また注意深く眺めていると、どうやら独り言タイムが終了したようだった。
「自身の死に納得できないのなら、自分の身に何があったのか、もう一度考え直してみては?」
自分の身?うーん。ここに来てからはこの自称神様に殴られて、吹き飛ばされて…
「そこでは無く、ここに来るまでです!」
ここに来るまで?ていうか、これ絶対こころ読まれてるだろ。
「そんなことは置いといて下さい。」
……えっと、確か、酷い激痛に襲われて
「あっ」
そうだ、カップ麺できるのを待ってたら突然時計が歪みはじめて、意味も分からず痛みに苛まれたんだった。
「思い出しましたか?」
「じゃあ、此処って…」
「そうです。ここは死後の世界にして、始まりの世界。転界です。そして、私がここの支配者にして貴方達の創造主、カナイリアスです。」
そうか。俺は死んじまったのか。突然痛みに襲われるなんて、なにか異常な病気だったのだろうか?
…呆気、なかったな。これが俺の運命だったのか…
フッと息を吐いた。死という事実を受け止めるように、生への執着を諦めるように。
「でも、これだけは認められない。」
「???
「カナイリアス、貴様が神なのは認めグハッ、、、」
「………しつこい男は嫌われますよ。楓さん。」
これで話は冒頭に戻る
「はぁ、もういいです。兎に角、貴方が死んだこと、理解して頂けましたか?」
「あぁ、それは。」
これだけおかしなことが起きていて、夢にしてはリアルすぎた事、何よりさっきのパンチがしっかり痛かったことも含め、何か超常的なことが確かに起こっていること思う。
それに、カナイリアスが言っていことは何故だか自然と腑に落ちるのだ。
…だからこそ怪しい。とも考えたが、現状俺にはこの空間から抜け出す方法も分からないし、カナイリアスが何か言いたそうにしているから取り敢えず納得して情報収集でもと思ったのだ。
「良かったです。それでは…」
「あーいや、ちょっと待った。その前にだな、気になることがある。少し質問させて貰えないか?」
「まぁいいでしょう。幸い時間は沢山ありますからね。それで、質問とは? 何なりとお聞きしましょう。」
「じゃあ一つ目。俺はこれからどうなるんだ、もしかして地獄にでも落とされるのか?」
「いいえ、違います。その事も含めてお話しようと思ったのですが、先程も言った通り、ここは死後の世界にして、始まりの世界。貴方にはこれから別の世界に行ってもらいます。あなた達の言うところの異世界転生というやつです。」
異世界転生! まるでこないだまで見てたアニメじゃないか!ということは、お決まりのアレがあるかもしれないな…。それに、その転生先も大事だな。やっぱり、転生って言ったら魔法とかが使えなくちゃね!
「えっと、じゃあ、二つ目。その、転生先ってどんな所なんだ?」
「貴方に転生して頂きたい世界はこの、地球と環境は似ていますが、文明が未発達で、科学技術よりも魔法の発達した世界です。
環境は海と陸が6・4。複数の大陸を有していますが、ヒト種が存在するのはこの東西に長い大陸のみで、大きく四つの勢力に分かれています。一つ目は、獣人族などの種族が住む砂漠地帯。二つ目は、エルフなど妖精達が住む森林地帯。三つ目は、人族などの住む平原地帯。四つ目は、竜人族が住む山岳地帯ですね。あと、竜族が住んでる渓谷もあります。」
おお、これぞ、THE ファンタジーって世界だぁ。魔法も使えるって言ってたし、有意義な異世界ライフを楽しめそうな予感がガンガンするぜ!
「へぇー、良さそうな所だな!じゃあ、最後の質問。今までの質問とあんま関係ないけど、知っておきたい事。
俺、どうして死んだの?」
そうなのだ。いきなり痛みに襲われて気づいたら死んでました。じゃあとても納得できない。これでも俺は卒業を控えた立派な高校生だったのだ。こんな風に突然死する訳がなかろう?きっと理由があるはずなんだ。
「…………」
あれ?なんで答えてくれないんだろう?もしかして、実は話す事も憚れるような酷い死に方でもしたのだろうか? う〜ん?……
カナイリアスは焦っていた
(ッく!この少年、なんでこのタイミングでその質問をするのよ!間違っても『ちょっと手違いで…手元が狂っちゃって、てへ?』何て言えるわけがなああい!
ど、どうする、私!ここは正直に言うべきか?それともはぐらかすべきか?いやでも、やっぱり本当のことは言えないよなぁ。
うん。口が裂けても、『本当は貴方を異世界召喚しようとしてて、魔王という仮面を被った次元の歪みに突撃して自爆して貰おうとしてたんだけど、ちょっとばかしミスって貴方を殺しちゃいました。
一度肉体が消失すると召喚は出来ず、転生しか選択肢が無いんです。でもそれだと間に合わないから、そっちはまた別の人間を見繕うことにしました。だから貴方は適当に別世界へ飛ばすことにしました。ガンバって強く生きてね!』…なんて言えないね。
仕方ないけど、ここは適当にはぐらかさせて頂こう。)
「貴方は…」
お、ようやく喋り出した。結構待たされたな。
「貴方は、神である私でも口に出すのが憚られるような理由でお亡くなりになられたのです。申し訳ありませんが、この質問にはお答えしなくてもよろしいでしょうか?」
…何故か、若干顔が引きつって見える微笑み方のような気がする。
もしや、神すら憐れむような有様だったのか……それならば答えて貰えぬのも仕方ない。
「そうか。それならしょうがないか。わかった、その質問はもういい。」
「感謝します。それではもう質問はいいですね。今からは転生について説明させて頂きます。」
こうして、俺の異世界転生の準備が始まった。