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マリー様の決心

本日2個目の更新です。

いい区切りがなく、少し長くなってしまいました。

開け放たれた窓から風が部屋を通る。


心地よかった風が、少し肌寒い感じになったことを告げる様な木々の紅葉は、とても見事だった…。

そんな木々から、葉を揺らした風が、マリーの手首から落ちたハンカチを舞わせる…。


そのハンカチが、ゆっくり左右に揺れながら、床に落ちたのを見届けたマリーは、口を開いた…。


「ねー、サラ…。」


幼少時期から、長年支えているサラに、マリーは、隠し事が出来ない。


姉妹の様に育った2人。

サラは、侍女として、主人を大事に思う気持ちと一緒に、マリーを大切な妹の様にも思っており、マリーも、姉の様にサラを慕っていた。


サラだけは、マリーの全てを知っていた。


「はい。マリー様…」


サラは、マリーの目線を追い、マリーが言わんとしている事を悟る…。


ギュッと眉間にシワをよすながらも、冷静でいる様、表情を変えない様に努める。


「ここ最近、多いわね…」


「はい…」


サラの返事は、消えそうな程小さい…。


「新しいハンカチをお持ちします。

また、数枚刺繍されて置きませんと、あと2枚になってしまいました…」


マリーは、サラに隠し事をしていない。

サラには、このハンカチが示している、意味がわかっていた。


『自分が代わりに作れるなら、何枚でも、何百枚でも作るのに…。』

サラは泣きたい気持ちを押し殺す。


「そう…」


マリーは、窓から外を眺めながらそう呟き、そっと窓を閉めた。


「サラ…、ドミニク様に、会いに来て下さるよう話しをして。私の状態は伏せてね。」


「ドミニク様に今の状態を隠したまま、身を引かれるおつもりですか…!?

そんな事をなさらなくても、ドミニク様は、全てを受け入れて下さると……」


つい、感情的になるサラに、マリーは、優しく微笑み、優しく言葉を遮る。


「サラ…。

ドミニク様が、私を大切にして下さってる事は、わかっているわ。全てを受け入れて最後まで、一緒にいてくださる事も…。

でも、その後は⁈

彼は王族よ、いつまでも1人で、いる事は、許されないわ…。彼は私を思えば、きっとずっと1人でいる事を選んでしまうわ…。

それなら、まだいい…。もし、私の後を…追ってしまったら…。

本当は、もっと早く彼には、嫌われなければ、いけなかったのよ…。

彼の隣は、居心地が良くて…ついつい長居をしてしまったわ…。


これば、私が、元気なうちにしなければいけない事なの。起き上がれない、病床では、説得力に欠けるもの…。」


マリーの真剣な目に、サラは、言葉をつづけられない…。


「賜りました…」


「ありがとう。サラ…。私には、あなたがいてくれるから、大丈夫よ。」


サラは、下を向き、部屋を出て行った。


マリーは、自身で刺繍した、身代わりのハンカチを手首に巻き、最後の一枚の身代わりのハンカチを握りしめ、小さく呟いた。


「どうか、ドミニク様が、ずっと幸せでありますように…。愛しています。」

ハンカチの刺繍に、マリーの涙が、数滴消えて行った。







しばらくして、マリーの泣き顔も、戻った頃。

公務に区切りをつけたドミニクが、マリーの部屋へやってきた。


「マリー、君から会いたいなんて、珍しいから、ついつい直ぐに来てしまったよ。本当は、もっと早く来たかっったんだが、どうしても外せない公務で…。」


いつにも増して、笑顔のドミニクは、マリーの部屋に会えて嬉しいオーラを撒き散らしながら、やってきた。


「お忙しい中、およびたてして、申し訳ありません。ドミニク様…」


淑女の礼をとるマリーに、ドミニクは近づき、


「マリーからの呼び出しは、嬉しいだけだから、気にしないで。

それより、“様”無しで、ドミニクとは、いつ呼んでくれるのかな⁈」


戯けながら、マリーの肩を抱くドミニク。


マリーは、そっと、ドミニクの顔を見上げる。

この笑顔を忘れないように、脳裏に焼き付けるように。


「何?何?マリーどうしたの⁈そんな熱い視線で見つめられたら、ついつい、抱きしめちゃうよ…。」


ドミニクは、言い終わる前にすでに、マリーを抱きしめている。


マリーは、されるがまま、そっと、ドミニクの背中に手を回した。気付かれないようにそっと、ほんの一瞬。目を瞑り、ドミニクの体温を感じる。


「あれ⁈マリー?どうしたの?いつもなら直ぐに、離れて行くのに…⁈

体調がわるいの⁈ごめん。立たせたままだった。まず座ろう。」


ドミニクは、マリーの腰に手を添えそっと、マリーをソファーに座らせた。



「マリー大丈夫?」 


心配そうに、覗き込むドミニクに、マリーは、胸が痛む。


「ドミニク様、私のお願いを聞いて頂けませんか⁈

最初で、最後。ただ一つだけのお願いです。」


「うん⁈どうしたの?マリーのお願いなら、いくつでも叶えておげるよ。」


ドミニクは、ニコニコしている。

滅多に頼ったり、お願いをしてくる事の無いマリーからの願いだ。

マリーが甘えてくれているようで、嬉しいのだ。



「約束ですよ⁈」


「ああ。いいよ。」



「ドミニク様…。

婚約を破棄して下さい。マリーをルイダーニュ公爵家に、帰らせて下さい。」


「な!!」

ドミニクは、思いもよらないマリーからのお願いに、今までの笑顔が凍りつき、顔面蒼白になっている。


「お願いします。」


「いっいやだ!いやだ!いやだ!いやだ!」


ドミニクは、一歩下がる、自身の感情をそのまま口にするしか、なす術がないように、同じ言葉を繰り返す。


「さっき、お約束して下さいました…。」


「違う。そんなお願いは、聞けない。

嫌だ!ダメだ!なんで⁈マリー。なんで…。なんで…。」

ドミニクは、いやいやをするように、首をふり頭を抱え込みながら、しゃがんでいる。


しばらく、じっと、頭を抱えこんだあと、

はっとしたように、急に顔を上げた。


「まだ…まだ、セヌッシュが好きなの…⁈」


マリーの眉間に少しだけシワがよるが、ドミニクは、そんなものに気付く余裕はない。


マリーからの呼び出しに、浮かれ、2人で過ごす、楽しい時間を想像して来ていたのが、真逆なのだ、ドミニクの動揺は、とても大きなものだった。


『それは、とても昔の話しなんですが…』

「ご存知だったのですか…⁈」



ドミニクの心に、マリーのこの一言が突き刺さる。


ドミニクは、噂で知っていた。

マリーが、婚約者となった直後から、ずっと…。


ただし、怖くて、確認していなかった。

マリーの心を…。

あの頃からずっと、一度も、確認した事がなかった。


拒絶されたら…。

セヌッシュを好きだと、マリーの口から言われてしまったら…。

自分は立ち直れないから…。


確認しなければ、確認さえしなければ、愛されなくても、婚約者と側には居られる。

ドミニクは、そばにさえいてくれたら、それでいいとすら思える程に、マリーだけを思っていたから…。


マリーも、そんな事は、知っている。

周りには、あまり感情を出さないドミニクだが、マリーにだけは、素直に気持ちを伝えていたから…。

そして、自分が彼の特別であるり、自分だけが素直な気持ちをもらえる事も、素直に嬉しく、愛しく思っていたから…。

だから、余計に、彼が大切で、彼に何できず、役立たず、それどころか、彼に大きな傷しか与えないであろ自分が、嫌で仕方なかった…。


なんど、健康に産まれていたらと…。

せめて人並みなら、自分の気持ちを素直に伝えれたのに…と、何度思ったか…。


ドミニクに、いつか別れを告げなければと、思っていたマリーは、けしてドミニクに、気持ちを伝えなかった。幸いドミニクから、聞かれる事もなかったから…。


「マリー、僕が嫌い?

ううん。いいよ。セヌッシュを好きで良いから…このまま、顔も見たくないほど、僕を嫌いじゃないなら、このまま、せめて、元気になるまで…。元気になるまででいから、ここにいて…。」



「ドミニク様…。申し訳ありません。

ご存知の通り、私は、この後、元気になることはありません。せめて、短い間でも、家族と過ごす事をお許しください。」


「ここを出たら、城の治療師の治療が受けれない。

そしたら、君は…君は…。ダメだ。嫌だ。

せっかく、最近は、発作も、体調不良もないのに…。城の治療師の治療が効いているんだよ。だから、きっとよくなるよ。」


マリーは、ドミニクに、体調を隠している。


ドミニクといる時は、無理をしてでも、体調不良を悟らせないように、努めていた。

それを知った、ソフィアナが、無理をしない様にと、あの魔法陣と刺繍糸を見つけできてくれたのだった。


ドミニクは、最近のマリーは、発作もなく体調は、安定していると思っているのだ。


「ドミニク様、こちらを…。何もお礼ができませんので、せめて、気休めでも、あなたの苦痛の身代わりになれば…。私が、刺繍したハンカチです。」



マリーは、最後の一枚の身代わりのハンカチを差し出した。

ドミニクは、それを受けとりながら、俯いてしまう。


「ドミニク様…私は、家族の元に戻りたく…」

もう一度、ドミニクを説得しようと話し出すと、マリーは、ドミニクに抱きしめられた。


「いやだ。マリー。君を愛してるんだ…」


本当は、ドミニクの腕にすがりついて泣きたい衝動をぐっと堪えて、もう一度、

「ドミニク様…。どうか、私の願いを…」


と、言葉を紡いだ所で、手首にしていた、ハンカチが、ハラリと落ち、胸の苦しさに、意識が保てなくなった。マリーの意識は、簡単に暗転した。


ハンカチが落ちた事と、マリーの体が揺らいだのを後ろから見守っていた、サラが、気がついた。


「マリー様!!!!!」


サラは、ドミニクが居るにもかかわらず、許可も取らず、主人の元へ走りよった。


サラの大声に、我に帰るドミニクは、自身の腕の中で、ぐったりと意識を失い、浅い呼吸しかしていない、真っ白な顔色のマリーに、全身の血の気が引いた。


「マリー…マリー… 。マリー!!!!」

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