ドミニク6歳とマリー7歳
今日は、兄上8歳の誕生パーティーだ。
実際は、誕生パーティーと言う名のお見合いパーティーみたいなものだ。
御学友も、決められるために、数人良家の息子もきているが、令嬢の数は倍だ…。
今日集められている令嬢は、どの子も、家柄的には申しぶんなく、令嬢教育も、きちんと受け、将来、才色兼備になり得る者ばかりだ。
家柄的にいえば、公爵家か伯爵家あたりが選ばれるのが、確率的に高いわけだが…。
まあ、夫婦になる以上、仲がいい方がいいだろうと、大人の妥協みたいなものもあり、この中から、兄上のお気に入りが、現れれば、そのまま婚約の流れになるはずだ…。
だが、兄上は、いつになく、作り笑顔が、清々しい…。
幾人もの令嬢に囲まれて、紳士的に振る舞ってはいるが、僕にはわかる。
あれは絶対、逃げたいと思っている。
兄上は、腹黒な僕とは違い素直で、見目麗しく、優しい、努力家で、何をやらせてもそつ無くこなし、優秀で、人当たりもいい。
見た目も中身も、ザ王子様なわけだ。
ちなみに、優秀だけど、あまり人当たりの良くない僕は、遠巻きに、近寄るなオーラを撒き散らしながら、このガーデンパーティーを庭の隅から、観察中だ。
僕の背後には、幼なじみで友人のアルドール伯爵家の兄弟セヌッシュ10歳とフラン7歳が、護衛も兼ねて立っていた。僕の様子に苦笑いしているが、知らん顔だ。
僕は、会場を客観的に見回していた。
ふと、1人、他の令嬢の輪から外すれている者に、目が止まった。初めて見る顔だ。
普段から、何らかのパーティーがあるなかで、彼女は見た事がなかった。
薄いグリーンに黄色の差し色のドレスを着た天使のような令嬢だ。
彼女は、パーティーの中心にいる兄上には、背中を向けて、庭の薔薇を観て微笑んでいた。
優しい雰囲気の、彼女に、あの柔らかい感じのドレスがよく似合っている…。
彼女が薔薇に微笑んだ瞬間、僕の周りから音が消え、彼女から、目が離せなかった…
なせ、目が離せないのか…僕には、わからなかった。
しばらく見ていた後、後ろに居る、セヌッシュに、彼女が誰かを聞いた。
「あれは誰?」
「ルイダーニュ公爵家のマリー様の事でしょうか?確か、フランと同じ歳で、体が弱く今年の始まで、母方の親戚が、領主をしている田舎へ預けられていたと聞いております。おっとりとして物静かで、人より花を好む人物であると伺っています。
ちなみに、私か、フランの婚約者候補の者でもあります。」
「へー。……。セヌとフランの…。なら、少し話してみようかな…」
僕は、2人の婚約者候補者で、あると聞いて、少しムッとしたが、そんな気分は、無視して、座っていた椅子から立ち上がると、マリーの側に行った。
「ねー何みてるの?」
「薔薇でございます。」
「………。」
「………。」
『え⁈この僕が、話かけてるのに、挨拶するでもなく、こっちを見るでもなく⁈会話を続けようとすらしないだと⁈』
「………。」
「………。」
『なんだこいつ。もーいい。』
振り返り、先程の椅子へ戻ろうと、踵を返すと、同時に、
ブーンと、嫌な音が聞こえた。
顔の近くを蜂が飛んだ。
「なっ!わ!蜂だ!」
思わず腕を振り払おうとした僕の手が、止められた。
「シッ。静かに、暴れず、ゆっくり後ろに下がって下さい。蜜蜂です。こちらが、刺激し無ければ襲ってはきません。」
腕を掴まれ、やや僕より高い位置にある顔が、近づき、囁くように耳元で、そう言われた。
甘い匂いと、掴まれた腕から伝わる熱と、急に近付いた為に揺れた髪が、僕の顔をくすぐり、なんとも言えない気分になる。一気に体の熱が上がったのがわかる。
セヌッシュもフランも、瞬間の事に、呆然として、対応しきれないでいた。
不意に近くにあった、熱と、香りが遠のいた。それを寂しいと思い「はっ」と、思い我にかえる。
蜂が、居なくなったため、マリーは離れただけだ。
「これは、ドミニク殿下…。殿下とは存じず、ご無礼をお許しください。お怪我はございませんか?」
マリーは、この時はじめて、僕の存在を確認したのか、改まり、キレイな姿勢で頭を下げ、挨拶をしてきた。
「そなたは、私を庇っただけだ、無礼はない。許す。それに怪我もない。れっ礼を言う。」
「お礼など、もったいない事です。では、私は、これで、失礼いたします。」
「まって!話しを…いや、ちゃんと礼を言わせてくれ、後日、城へ招待する。」
「たいしたことは、しておりません。お礼のご招待など、私には、過ぎたる物…ご辞退させて頂きます。」
マリーは、優雅に挨拶の姿勢を保ちながら、僕の顔も見ずに会話をする。
「な!」
「ドミニク、騒がしいけど、どうかしたの⁈」
「あ。兄上…。なんでもありません。蜂に襲われそうになったのを彼女が、庇ってくれたので、その礼をしていただけです。」
「へー。ドミニクが、礼をね…。
ふ〜ん。
キミ、顔を上げて、名前は⁈」
「はい。ルイターニュ家のマリーにございます。
ベルンゲラ殿下、本日はお招きありがとうございます。そして、お誕生日おめでとう存じます。ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。」
マリーは、一度兄上の言葉に従って顔を上げたが、兄上に挨拶するため、また、優雅に頭を下げた。
「挨拶は気にしなくていいよ。弟が世話になったね。後日お礼をさせてもらうよ。では、僕はこれで…。ドミニク、マリー嬢のドレスの裾が汚れているよ。君を庇ったからだろう、失礼の無いように、きちんと対応できるね?」
兄上は、有無を言わさず微笑み、その場を立ち去った。
その微笑みが、『お前、令嬢に恥をかかせるなよ。わかってるな⁈おい‼︎マナー教師の数増やすぞ!』と言ってるようにしか見えない…。
「はい。兄上。
マリー嬢、ドレスを汚していたのに、気が付かなくてすまない。城の応接室まで、一緒に来てくれないか?」
「は…い…。仰せのとおりに…」
マリーは、俯いたまま、ドミニクの後ろに続いた。
パーティー会場となっている庭から、しばらく歩いて、城の中に入る。
城は広く子供の足では、1番近くの応接室も、遠かった。
僕の半歩後ろを歩いていたはずの、マリーが、やや遅れた。歩調が早いのかと、歩調を緩め振り返れば、マリーは、青い顔をして、俯き、呼吸が荒かった。
「マリー嬢…なんだか、顔色が優れないが、大丈夫か?」
「は…はい。」
マリーはかすれるような声で、返事をして、歩き続けていた。
だが、3歩、歩かぬうちに、そのまま前に倒れた。マリーを気にしながら、前を歩いていた僕は、急に、倒れ込むマリーを慌てて支えた。
しかし小さな子供でも、お互いが子供なら、支えるだけが、精一杯だった。
近くに居た衛兵を使い、マリーを応接室ではなく、近くの宿泊用の客間に連れて行き、ベッドへ寝かせ、衛兵には、城の医者と別室にて待っているであろうマリーの家の者を呼びに行かせた。
医師より先に、別室に控えていた、マリーの従者が現れた。
恭しく挨拶をした後、従者は、マリーは、生まれながら心臓が弱い事を話した。治癒魔法を用いても、今を維持するのが、やっとであると…
到着した、医師に診察される間、部屋を出て、廊下で待った。
城の医師は、国内でも優秀な治癒魔法使いでもあった。だが、その彼からも、今の状況を維持するのが、やっとだと言われた。
治癒魔法により、体調が戻ってきたマリーは、目を覚まし、倒れた謝罪をした。
「お見苦しいところをお見せしました。ドミニク様には、私を受け止めて頂いたとか…。大変申し訳ありませんでした。」
ベッドから、体半分起こした状態で、マリーは、そう言った。
「いや、こちらこそ体調を知らず、連れ回すようなことを…」
「お城のお医者様は、やはり優秀なのですね。いつもなら倒れて、治癒魔法をかけてもらっても、2日は寝込みます。倒れてすぐに、意識がもどるなんて…。ありがとうございます。」
マリーは、ドミニクに謝らせないために、目一杯の笑顔を向けた。
その笑顔から目が離せなかった。
なんとかしたかった。
幼い思いだが、ずっとそばに居たいと、強く思う。
「決めた‼︎
倒れさせた、責任をとって、マリー嬢を僕の婚約者にする。
そうすれば…僕の婚約者なら、城の医師の診察も、治療も受けれる。」
その後、とんとん拍子に、婚約は決まっていく…
マリーの思いは置き去りにされて…
婚約が正式に決まり、程なくして、体調が、少し安定したのを理由にマリーは、また母方の親戚が、領主を務める田舎へ、一人療養に行ってしまった。




