セイエラとジョセフとトマス
「母さん助けてくれよ。なんとかしないと、このままじゃ…話だけでもきいてくれ!」
「勝手に出ていたくせに、今さらなんだと言うんだ。私は、忙しいんだよ。帰りなさい。」
ソフィアナは、目の前の状況に、目が点になっていた。
あの、おっとり優しいセイエラが、声を荒げている。しかも、母さんと、呼ばれている…
事の起こりは、いつもの様に、ソフィアナの部屋の整理をしていた、侍女長のセイエラを慌てて、執事のジョセフが呼びに来たのだ。しかも、やや怪訝な顔で…。
いつも、冷静で、無表情のジョセフが、慌てているだけでも、おかしいのに、話を聞いたセイエラも、慌てて挨拶をして、部屋を出て行った。
気になったソフィアナは、
そっと、セイエラのあとを追い…。
先程の場所に出会したわけである。
セイエラに、キッパリ断られ外に放り出された男は、トボトボと歩き出した。
ソフィアナは、その男の事、セイエラとのやりとりなどが気になり、トボトボ歩く男の跡を屋敷の者に気づかれないように追った。
男は河原に、腰を下ろした。
足元で、何かゴソゴソと手を動かしている。
片方の靴が脱げた。
また、足元で、ゴソゴソと…。
もう片方の靴を脱ぎ、男は靴を揃えると、そっと立ち上がり、肩を落とし背中を丸めながら、川の方へ歩いて行く…
『入水自殺⁈』
「いやいやいや、まってまってまって‼︎」
慌てて、ソフィアナは、男にかけよった。
男は、ビックリしながら、振り返ると、止めて居るのが、小さな女の子だと分かり、無言で、また、川へ向きを変えた。
「ね!何やってるの⁈ダメよ。」
「そーそー、ダメですよ。
そのままじゃ浮いちゃいます。重りを…」
「え⁈テリー⁈って、
ちがーーーう!そうじゃない!」
いつのまにか、テレッサが付いてきていた。
「あっ」
男は、テレッサの言葉に、はっとした様に、キョロキョロと周りを見渡した。
「あなたも!重りさがすな‼︎
テリー、居たなら、丁度いい。この人止めるの手伝って。」
「……ソファアナ様。
生きているのに、自分の命を大事にしない者など、ほっておけばいいんですよ!
私、嫌いなんです。そんなキレイな服着て、苦労した手もして無くて、必死に生きて無いくせに、死に逃げようなんて…
明日をも分からず、死から逃げようと、必死な人に失礼です。」
テレッサにそう言われて、男の服装を見るに、確かに貧乏で、困窮した様には、見えなかった。
充分な食べ物をもらえなくても、
粗末な服を着ていても、
小さな子供には、大変な仕事でも、
足を骨折しても、
働き場から、追い出されないように、懸命に働いていた、テレッサには、男の環境はまだ、甘く見えたようだ。
「テリー、人は、それぞれ、耐えがたい物事も許容範囲も違うのよ。
確かに、はじめて出会ったテリーの様に、痩せ細りボロボロの服を着て、骨折してるのに、殴られて外に捨てられ、それでも、働きますと、泣いてすがっても、蹴り飛ばされ、それでも懸命に…愚痴もこぼさず、生きてるテリーの様に、懸命に生きてる様には見えないけど…。」
「な⁈え⁈」
『こんな小さな子が、骨折しながら働く?』
男が、困惑しながら、テレッサを見たすきに、ソフィアナは勢いよく身体強化をかけ、お腹にぶつかり、男をその場に座らせた。
「とりあえず、死ぬのは、話をしてからでもいいでしょ⁈私の目の前では、死なないで!」
ソフィアナの勢いに、負けた男は、大人しくなり、ソフィアナと並んで座った。
「僕の名前は、トマス。セイエラとジョセフの2番目の子供だ。その服の刺繍の紋章をみるに、君は、あの家のお嬢様かな⁈どうせ死ぬから、こんな喋り方でも、許してくれ…」
そういいながら、肩を落とし、小さな声で、ポツポツ話した。
どうやら、トマスは、友人に騙され、働いていた商店に、多大な借金をさせてしまったらしい。
その商店の店主には、世話になりっぱなしなので、さらに迷惑をかけてしまうとわかり、今日は、金の工面に、方々に走り回っていたが、工面できず、自責の念に、押しつぶされそうになっていたようだ。
借金をした相手も、合法ではないらしく数日間の借金で、数百万グコになったらしい。
グコは、こちらの値段標示だ。日本で言うなら100グコは、100円くらいだが、こちらで、パン一つの価値が、日本円で、1.3円位だから、数百万グコの価値を日本円に直すと、数千万円から億くらいの価値だ。
しかも、はじめに、渡されたお金は、500グコ。日本円なら、500円で、こちらの価値で、日本円に直すと、だいたい5万円
それが、数日で、500万円まで、膨れ上がれば、数千マ万や、億を一般家庭が、数日で借金した事になる。今後も、どんどん数日で、利子がかさめば、返す事なんてほぼ無理だ。違法もいいとこだ…。
「親元を家出同然に飛び出して、頼れた義理なんて無いんですが…もう、どうしたらいいか…。このままでは、店は乗っ取られるだけで無く、店の娘さんは質草にとられ、旦那さんも…奴隷か何かに…あああああ。」
『うん⁈』ソフィアナは、半歩後ろから、冷気が漂ってきた、気がした。振り返れば、
「あなた、呆れるくらい甘いわね‼︎」
表情を無くした、テレッサから、信じられないくらい冷たい声が聞こえる…。
「旦那さんも、娘さんも、奴隷や質草に出されてしまうかも知れない様な状況で、自分だけ、なんの意味もなく、こんな所で死んでどうする気?
申し訳なく思うなら、旦那さんの代わりに奴隷になるくらいしたらいい‼︎死に、逃げようとするな‼︎」
テレッサから、辛辣な言葉が飛んでゆく…。
「テリー、人は、極度の混乱状況になれば、わけわからなくなることも、冷静な思考がなされない事もあると思うの…だから…
そんな、悲しい顔しないで…」
ソフィアナは、テレッサの背中を摩った。
トマスの話を聞き、どう考えても、お金を貸した商店が、悪どいことは、わかった。
しかし、日本の様な法律は、無いため、借りたら、借用書通りに返さなきゃならないらしい…。
役所や裁判所に訴えてはどうかと聞いたが、トマスからそう言われた。
「話を聞いてくれてありがとう。母に見放され、死ぬしか無いと思ったが、旦那さんや娘さんの替わりになる事ができると分かった。まだ、僕にもできることがあった…ありがとう。」
トマスは、そう言いながら、立ち上がり、働いている商店へ向かった。
ソフィアナは、産まれてから買い物をしたのは、エスターの家に行く時に、クローゼットとクッキーの材料を買っただけで、支払いも、適当に、テリーに任せた。市場の詳しい事は、分からない。
一度帰って、ハスにでも、相談した方がいいだろうと、その場は、トマスの働く店の名前と場所のみ聞き、屋敷に帰る事にした。
「ねえ、テリー、トマスは、えらいと思うわ。私があの家のお嬢様とわかっていながら、私に頼ろうとはしなかった。だって、私たち、まだこんなに小さいのよ。誘拐でもしようと思えばできたんじゃ無いかしら⁈」
「ソフィアナ様を誘拐ですか?素人…いえ、玄人でも、なかなか無理ですよね。」
「あ。まあ、確かに…。
私を誘拐は、無理ね。
そうじゃなくて、私の魔力とか、彼は知らないのよ。見た目は、普通のか弱そうなお嬢様と、小さな侍女よ。切羽詰まっていたら、犯罪にも手を染めそうなのにってことよ…。きっと根は正直で、しっかりしてるのよ。ただ、パニックを起こすと、正常な判断ができないだけ…。ま、それは、普通、誰でもか…。
なんとか、してあげたいわね…。」
そんな話をしながら、屋敷に帰り、さっそくハスを部屋に呼んだ。




