タイ 〜マリー視点〜
ソフィアナ様が、出発なされてから、数日。
出発される時に、身代わりのハンカチについて、教えてもらった真実。
あの不思議な糸は、ソフィアナ様とのお茶会でお願いして、沢山用意してもらいましたから、手元に沢山あります。
代金は、いらないと言われたから、気持ちだけでも…と、身代わりのハンカチを作って渡したら、まさかの使い方です。
今、出来上がった、このハンカチは、もちろん、私の大事な婚約者様のドミニク様に渡す為の物…。
以前に、渡したものは、切れてしまったと嘆いていたから、喜んでくれる…と、思いたいです。
でも…、彼は王族…。
手に入らない物なんかない…。
こんなハンカチ…必要かな…?
なんて思うと、なかなか渡せなかった、でも、効果があるなら、話は違う。
使って、もらえたらいいのだ。
彼の身代わりに、なる物が、作れる事が嬉しい…。
これは、私しか作れない物…。
涙を拭いたあとの物は、なんだか、抵抗があるけれど、血を付けるのも抵抗があり…。
どうしようかと、悩みに悩み…。
でも、針で指先を刺すくらいは、たまにするから…。
色々考えながら、迷いに迷って、結局少しだけ柄に紛れる場所に、血を付けた。
これと一緒になら、あのタイを渡してもいいだろうか…。
ずいぶん前に、ソフィアナ様から身代わりの魔法陣の図案をもらった時に、”ずっとお互いを近くに感じられるおまじない”と、言われた魔法陣の様な、花の様な図案…。
ソフィアナ様から、教えられた、図案を施したタイを作てはいた。
それは、ドミニクが、式典で使うタイだ。
恋人や、妻からのタイへの刺繍には、特別な意味がある。
“貴方にくびったけ”
“あなたは、私の物”
など、独占欲を表す意味合いがある。
以前は、いつ居なくなるかわからない自分が、ドミニクを独占する様な事をする事に気が引けて、なかなか渡せれなかった。
気持ちを通じ合わせても、恥ずかしさと、ドミニク様から、重いと思われてしまうのが、怖くて、なかなか、渡すタイミングが掴めなかった。
もちろん、あの不思議な糸で、刺繍するように言われていたので、それで刺繍している。
見た目も、すごくキレイだ。
ハンカチのついでなら、重く感じずに、受け取ってくれるかもしれない。
ハンカチと、タイを可愛くラッピングして、ドミニク様の部屋へと向かう。
今日は、執務がお休みで、部屋に居ると、サラが、調べてくれた。たぶんフラン経由だと思う…。
控え気味に、ノックをするが、返事が無い…。
もう一度ノックをするが、やはり返事がない。
困りながら、サラと顔を見合わせていれば…。
「あれ?マリー様?とサラさん?」
後ろから声をかけられて、驚きながら振り向けば、フランが、何かの資料を胸に抱かえながら、立っていた。
「まあ。フラン。ご機嫌よう。ドミニク様は、どちらに行かれたか、ご存知?」
「はい。マリー様、たぶん。寝てます。」
「え?」
今は、昼を少し過ぎた時間です…。
「最近、心配ごとか、何かで、寝れなかったみたいですね。昼間は、仕事が有りましたし…。久しぶりの今日はお休みなんで、返事が無いなら、たぶん寝てますね。」
「あ…。そうなんですか…。では、また日を改めます。」
せっかくの、体を休める時間を奪うわけにもいかない…、今日は、諦めて、また日を改めようと、フランに告げれば…。
フランは慌てて、
「あ!待って下さい。もし、もしお時間が許すなら、僕の替わりに付いていてもらえませんか?特に何かするわけではなく、居るだけでいいので…。ええーと…
僕まだまだ仕事が、こんなにありまして…」
それは、それは、困った顔で、フランに見つめられました。
「ですが…せっかくのお休みに私が、いていいのでしょうか…⁈お邪魔では?」
「あ。絶対邪魔だなんて、思われないので、大丈夫です。保証します。逆に喜ぶので、大丈夫です。………寝ていた自分を後悔するほどに…」
「え?後悔?」
最後の方は、小さな声で、聞き取れませんでしたが…
「いえ、いえ、なんでも、ありません。扉開いてますから、よろしくお願いします。あと半刻したら、起こす約束ですから、それも、できましたら、よろしくお願いします。」
「え!?あっ。え…はい。わかりました。」
と、返事する前に、フランは、廊下を去って行ってしまいました。
サラと目を合わせて、どうしましょうと問いかけてみれば、サラは、フランに確認に行くという。
私には、とりあえず、中に入り、ドミニク様の側にいるように言われた。
半刻しても、戻れなければ、ドミニク様を起こす人が居ないのは、困ると、サラは言う…。
確かに、起こすように時間を指定しているなら、何か、予定があるかも知れない…。
サラに言われるままに、そっと部屋に入って、ドミニク様を探した。
ドミニク様は、部屋のソファーに、無防備に寝ていた。
前髪に右手を埋もれさせながら、かきあげたままの体勢だ。左手は、ソファーから下に垂れている。
長い足は軽く組んでいる。つい、つい、うたた寝をしたと言う感じに見えた。
初めて見た整った顔の寝顔は、いつもの凛々しい顔ではなく、あどけなくて…
いつもの、隙がなくキレイな顔より、可愛らしかった。
ついつい、近くに座り込み、顔を覗き込む。
これが、盗み見ているのだと、気が付かないまま、すやすやと、寝息を立てるドミニク様を観察してしまう。
『かっ…可愛い…』
声には、出さなかったが、無意識に口の形は言葉をつむいでいた。
愛おしいと思い見つめる対象には、こんなにも触れたくなるのだと、はじめて知る…。
触れてしまわないよう、起こしてしまわないよう、ドレスを握り締めて、手に力を込めその場に縫いとめる。
不意に開いていた窓のすきまから風が吹く、起きている者には、心地よい温度だが、寝ている者には、少し肌寒いのでは無いか…。
キョロキョロと見渡せば、フランが、普段から準備しているのだろうブランケットが、向かいのソファーの肘掛けにあった。それをとり、そっとドミニク様に掛けた。
「う…う…。フラン?ありがと……」
ドミニクは、寝ぼけているようだ。
起こさないように、そっとしたのに、声をかけられたから、私は、中腰のまま固まった…。
心臓は、口から出そうなくらい早く鳴っている。
すぐに、規則正しい寝息が聞こえてくる。
安堵して、また、先程と同じように、顔の近くの床に膝をつき、寝顔を覗き込む…。
ふふふ、なんだか、心が満たされて、幸せな気分です。
そんな風にしばらく見つめていれば…。
ドミニク様の長いまつ毛が、震えて、薄く開いた。
起きた?少し残念なような…。でも、その瞳に映りたいような、相反する気持ちになり、そっと目線を合わせた。
「ああ、僕のマリー」
寝起きの少しかすれたような、いつも違う甘ったるい声で、名前を呼ばせて、ドキドキしてしまう。
髪をかきあげていた手が、私の左頬に添えられ、そっと撫でられ、優しく微笑まれた。顔に一気に熱が集まり、あたふたしてしまう…。
でも、動けなくて、恥ずかしそうにしばらく見つめ合えば、ドミニク様の顔が急に、驚いた表情に変わった。
「え!?マリー?本物?」
年内ラストの更新です。
[活動報告で、予報にしといてよかった…。
本当は、昨日までだったんです。年内ラスト…。笑
ちなみに、とりあえず、明日まで更新します。その後は、未定。]
今年一年、お付き合いありがとうございました。
また、来年も、お付き合い頂けたら嬉しいです。
良いお年をお迎え下さい。




