モヤモヤドミニク
ドミニク視点です。
時間は、少し遡る…。
ソフィアナ嬢が、カルマイヤ国に出かける一週間前だ…。
セヌッシュが、帰った。
マリーが城に来るのと入れ替わりに、ずっと辺境地へ剣の修行に出ていたが、今回、兄上と、ソフィアナ嬢が、カルマイヤ国に行くための護衛に、呼び戻された。
セヌッシュの魔力は、木属性で、知的に高く植物を自在に操り敵に攻撃するタイプで、属性が無いが身体能力の高い者や攻撃力に優れた火の属性の多い騎士には珍しい。
負けず嫌いで、やたら剣の腕を磨きたがり、現在では、ハンスに次ぐ剣の実力者だ。
幼なじみで、彼と僕との仲はいい。
彼自身、誠実で優しく、正義感に溢れたいい奴だ…。だから余計に、僕の婚約者マリーの、初恋の相手だ、と言う点だけが、いつもモヤモヤする。
たぶん彼が、マリーと入れ替わるように、辺境地へ修行に出たのも、そんな僕の心を察してと言う理由も、少なからずあったのだろう…。
そんなセヌッシュが、現在、ソフィアナ嬢の部屋にいる。
別にそれはいい。マリーの部屋じゃ無いだけましだ。
だが、マリーが、ソフィアナ嬢の部屋で、お茶をしている時間に、たまたま、セヌッシュは挨拶に行ったらしく、現在部屋で、3人…
お茶会をしていると…。
フランから報告を受けた。
フランは、人嫌いな僕の学友にして、側近兼、従者兼、執事兼、護衛。みたいな事を全部こなす、こちらも優秀な男だ。
そして、セヌッシュの実弟だ。
見てくれも、頭も良い2人は、僕ら兄弟(ベルンゲラ兄上と、僕ドミニク)に、負けず劣らずよくモテる。
だが、浮いた話し一つない。
セヌッシュは、剣一筋で、まだそんな気は無いと婚約せず、フランは、僕のお守りに手がかかるを理由に、婚約をしていない。
フランに至っては、失礼極まりない理由だが、まあ、僕のわがままで、4役以上こなしている、彼は、確かに多忙だ…。
そんなフランは、兄を大層尊敬している。
そんな兄が帰った事、会えた事が嬉しくて、フランは、報告という名の世間話しをしたのだが、内容が、“マリーとお茶している”だ。
僕は、冷静を装いながら、青ざめるしかない。
つい、この前、ソフィアナ嬢のおかげで、マリーとの心の距離を縮める事はできた…。
調子に乗って、くっくっ口付けまでしたが…
だが、マリーが、セヌッシュと会って、やはりと、気が変わってしまったらどうする?
マリーを信じていないわけではないが、僕は僕に自信なんか無い…。
王子とは言え、所詮は第二王子。兄上に敵うとこれなんか無い。
人嫌いで、人付き合いも下手。わがままで、男として、セヌッシュやフランにすら、勝てる気がしない。
唯一勝てると言い切れるなら、マリーへの思いくらいだが…。
世間一般に言えば、僕のは、重い分類らしい。
以前ソフィアナ嬢から、冗談半分に言われた…。
そして、兄から、ソフィアナ嬢は、マリーの味方だから、マリーが、セヌッシュを好きなら、そちらとくっ付けるつもりだったと、聞いた事がある。
だから、今、ソフィアナ嬢と、マリーと、セヌッシュだけで、お茶わやしていると思うと、気が気で無い。
「少し、気分転換に散歩してくる…」
斜め向かいの執務机で、仕事をするフランに、そう声をかける。
「おともは?」
「いらない。すぐ近くだ、そのまま仕事していていい。」
「わかりました。たすかります。この書類締め切り近いんです。」
「すぐ戻る」
僕が人嫌いで、一人でうろつくのは、いつもの事なので、フランは、心得たもので、付いてこないていいと言えば付いてこない。
本当は駄目だが、彼も忙しいし、僕は1人が好き。利害が一致して、城の中なら限定で1人にしてくれる。
僕は、そっとソフィアナ嬢の部屋に向かった。
部屋の外には、イワンがいた。
部屋の扉は、少しだけ開かれている。若い男女が、同じ部屋に居る時は、後ろめたい事が無い事を示すためのちょっとした、貴族中のルールだ。
偶然通りかかったふりをしながら、フランに話しかけた。
「フラン、こないだぶりだな…元気か?」
「ハ!元気です。現在自分は、仕事中ですが、どうかされましたか?」
普段、仕事中に話しかけるなんてしない僕が、話しかけたら、確かにどうかしたのかと思う…
「いや。どうもしてない。悪かった。マリーは中?」
「はい。本日は、ソフィアナ様とお茶会をされています。入られますか?それとも、お呼びしますか?」
「あ…いや…。呼ばなくていいし、僕は仕事があるから…。ただ元気だった?」
「はい。変わらず元気でいらしゃいましたよ。」
「そ、なら、いいや。じゃ。僕が通った事は言わなくていいから…」
「承知しました…。」
と。立ち去ろうとした時、中から、切れ切れな話し声が、漏れ聞こえた。
「まあ。素敵。セヌッシュ様が、そんな方(奥手)だなんて!!」
ソフィアナ嬢の、元気なよく通る声が聞こえ、続いてマリーの声が…
「わた………は、大好きです。うれしいです。でも………。」
マリーの声だ、ソフィアナ嬢とは違い大人しく話すマリーの声はしっかりとは聞き取れないが…
間違いなく、“大好き”とは、聞こえた…。
「こっこんな、高価なもの…頂けません、こまります。」
か細い誰かの声もするが…
「では、………。私とあなたに合いそう………選んで…。私とお揃いはいや?」
お揃い?セヌッシュと、マリーが?
僕にすら、そんな甘えた事言ってくれた事無いのに…
僕の心臓は、止まったと思った。
もう聞いていられない…。そのまま立ち去るが、
どう部屋まで帰ったか、覚えてない。
真っ青な顔で、部屋に帰れば、フランが心配して近寄ってきた。
「ドミニク様⁈どうされました?お加減でも?」
「大丈夫だ…」
「いやいや、全然大丈夫な顔してませんって!」
「フラン悪いが、1人にしてくれ…」
「わかりました。僕はお茶でも準備してきます。」
フランは、素直に部屋を出て行ってくれた。
僕の頭の中には、マリーが、セヌッシュに言った、“大好き”が、こだましていた…。
せっかく気持ちが通じ合い、マリーが、僕の正式な婚約者になったのに…。
幼なじみで、良き友のはずの、セヌッシュが、帰った事すら疎ましく思ってしまう…。
僕はどんどん落ち込んで行った。
片思いだと、割り切っていた時よりも、彼女からの思いをもらった今の方が、ずっとずっと辛くて…。
唯一マリーが、作ってくれた、切れたハンカチを執務机の引き出しから、出し握り締めた…。
「マリー…僕をみて…」




