奴隷商
ハスの案内で、奴隷商の屋敷の前まで来た。
「あそこです。」
門より少し離れた場所で、ハスは大きな屋敷を指した。
貴族の屋敷のような作りだ。
とりあえず、奴隷商に入ろうと、門の方に歩くと、塀と門の間に人が倒れていた。
「誰か倒しているわ?門番かしら?」
ソフィアナの言葉に、そちらをみたハスが、
「父さん!」と声を上げ駆け寄った。
ハスの父らしき男は、体中に、青アザをつくり、目は片方、腫れあがっていた、熱があるのか、ハアハアと荒い息をはき、口からも、鼻からも血を流していた。
「酷いわね…暴力をふるわれたのかしら?」
ソフィアナは、そっと、ハスの父に触れた。
荒かった息は落ち着き、顔の腫れはひいてきた。意識だけは、戻らないよう、眠らせていたが、体の傷は治っていった。
「ソフィアナ様…。母だけでなく、父まで…なんと…なんとお礼を言えばいいか…」
「そんな事はいいから、とりあえず、お父様を安全な所にお連れして、奴隷商の中に入るわよ。お父様のあの状況を見る限り、妹さんは、中に居るとみていいわ。」
奴隷商から、少し離れた路地に、父親をそっと横たわらせた。治安のいい場所ではないが、時間もないし、仕方ない、貧乏人であるハス達家族は、お世辞にもいい服は着ていない。倒れていても、金目のもの目当てに何かされることはない。
だが、とりあえず周りに木箱などを置いて姿を隠しておく。
「正面から入ったのでは、私達の顔を奴隷商は知っているから、正体がバレてしまうわね…。
やり方は沢山あるけど…、妹さんを危険に晒したくないわ…。せめて、屋敷のどこに居るかわかればいいのだけれど、妹さんの顔がわからないから…」
ソフィアナは、とりあえず風魔法の千里眼を使い、屋敷の中を探ってみた。
至る所に、見張りや傭兵の様な者がいた。
その時、門の前に馬車が止まった。一般的な簡素な馬車で、中から、数人の男が、でてきた。
出てきた男達は、2つの頭陀袋を抱えていた。
千里眼で、頭陀袋の中を見ると、小綺麗な少年が入っている事がわかった。
「あの袋に、それぞれ、男の子が1人づつ入っているわ。あれは、どういう事かしら?」
「はい。たぶん、それは…。誘拐して、売るつもりかと…」とハスが小声で答えた。
「私達も、あれで、運んでもらいましょうか⁈」
「え?」
「ハス妹さんの特徴、一応教えておいて。」
「だ、ダメです。そんな危ないこと…ダメです。ソフィアナ様に何かあったら大変です。」
ハスは、青ざめながら、ソフィアナを止めたが、「なら、あなたは留守番なさい」と、言われ、それなら、付いていくと、諦めたのだった。
「ちょっとそこの。お兄さん方」
「なんだてめ〜………。」
「連れてきたのは男の子3人、女の子1人の4人だった。」
ソフィアナが、誘拐犯にそう囁くと、数人いた男達は、
「あっああ。4人だった。4人…。」
と、目の焦点が合わなくなった。
ハスは少し顔つきを変え、ソフィアナは髪の色を幻影魔法で、変装して誘拐犯に捕まった。
子供4人は、客間の様な所の床に放り込まれた。
投げられる瞬間に、ハスはソフィアナの下敷きになり、ソフィアナが、床にぶつからないように庇っていた。
「ハスいいのに…」小声で言うと、
「こら喋るんじゃない!」とソフィアナに棒を振り上げた。ハスはすかさず、ソフィアナを庇う。
バシっと、ハスが叩かれた。
「ハス…」
「大丈夫です。」
また、ハスが叩かれては、かなわない。ソフィアナは、そのまま下唇を噛んで、黙った。
袋に入れられていた少年たちも、袋から出され、今は意識を取り戻している。2人とも青ざめてはいるが、騒いだりはしなかった。
その時、ギーと扉が開いた。
「本日、旦那様はお忙しいので、私が鑑定と買取を代わってさせて頂きます。」
「ああ。いいぜ、せいぜい高く買ってくれ!」
『今鑑定って言った?ヤバ。』
ソフィアナは慌てて、コートのフードをかぶり、髪をフードの中に隠した。そして、ハスに抱きついて、泣き真似をした。
ハスは何事かわからず、とりあえず抱きしめなら、ソフィアナの背中をさすった。
鑑定士兼執事であろう男が、子供達に近づいてきた。
「ほうほう。この2人は兄妹ですか?兄は土属性で、妹は、何もないようですね…。前にも見たことがあるような…。まあ、とりあえず…いいでしょう。
そして、こちらは…これは珍しいこちらの少年は、水と風属性持っていますね…しかも見目も麗しい。こちらは火と闇ですか…。水と風、火と闇?2属性を持ち、しかも希少の闇…闇…」
ハスの幻影魔法が解けているが、ソフィアナを心配して俯いているため、気付きそうになったが、思い出せず、思考を後回しにした。そして直ぐに、後の2人を鑑定した事で、鑑定士の顔が一気に引きつりはじめた。
「お前達この子供、どこから連れてきた⁈貴族の馬車でも襲ったのでは、あるまいな!?」
「いや、いつも通り、下町の路地で、ウロウロしている奴をさらってきたぜ、周りに親らしき奴も居なかったし、2人だけだった。」
誘拐犯は、2人しかいないはずが、4人いる事に違和感を抱くが、それよりも、鑑定している、奴隷商の執事が慌てた事に、気がそれ、それについてあまり考えなかった。
『いつも通り⁈いつもこんな事を…』
ソフィアナは、静かに話を聞いていた。
「この少年2人、珍しい属性持ち、しかも複数…年頃も同じだ…もしや第1王子、第2王子では…。今頃お城は大騒ぎだ。顔も見られ、ここもバレ…。
どうする⁈返すか⁈他国に売るか…いや、今更だ。殺すか⁈」
奴隷商の執事は、目を見開き顔を青くしていた。
「だっ旦那様に、旦那様に、報告だ。それまで絶対逃げない様に、こやつらをこのまま見張っていろ!」
奴隷商の執事は、慌てて部屋を出ていった。
ソフィアナは、鑑定で、魔力持ちと、バレない様に、やめていた幻影魔法をもう一度かけ、フードを外し体を起こした。
『王子達がなんで捕まってるの…。お兄様は、確かお熱だと…』
ソフィアナが、2人の王子をみると、王子達も、ソフィアナをみていた。
そして、闇属性があると言われた少年は、顔を歪めた…。
『あ。バレたかな⁈幻影魔法は、闇属性だから、もしかして、結構使える⁈え⁈』
第2王子ドミニクであろう少年が、もう1人の王子と言われたベルンゲラに耳打ちした。
風属性で、内緒話を聴くと、
「兄上、この少女、闇属性の幻影を使っております。」
「何⁈先程、鑑定士は魔力無しと…」
『あーやっぱりバレてるよ…。まあ、引きこもりな私は、王子の顔も知らない。逆に言えば、向こうも知らないから、私が、ブランバード家であるとはバレない。よし、無視だ。』
ハスは、「お、お…王子?」と小声で呟いていた。
『さて、これからどうするか…
王子を殺されるわけにはいかないし…。
あ。いい事考えた。』
ソフィアナの周りに、微かに風がおこった。




