孤児院のベンチ
ソフィアナが、マリーをベンチに誘えば、護衛のミックは、ベンチを護衛らしくなく、埃をはらった、そして、持っていたハンカチまで敷いた。
ソフィアナには無い。
「…………」
ソフィアナは、あからさまな、ドミニク…いや、ミックをジト目でみるが、ミックはお構いなしだ。
『せっかく、協力してやろうとさ…
お節介してんのに…ふ〜ん。そういう態度とるんだ…へーへー』
だが、このままで、ソフィアナは、全然構わないのだが、マリーが座りづらいだろう。
ソフィアナはイワンを呼び、自分の持っていたハンカチをひかせた。
「さて、マリー様。ドミニク様との婚約破棄に付いてでしたよね⁈」
その言葉に、ミックの顔が、ドキッと肩を揺らし、青ざめた。
当初は、オブラートに包むつもりでいたが、(以前から変わらないのだが、)城からと、今のミックの態度に若干イライラしていた。
ソフィアナは、わざわざ“婚約破棄”と言う言葉を使った。
そして…
「あ。イワン、私の従者が、迷わないように、この孤児院の入口辺りに、警備しながら、立っていてくれるかしら⁈ハス達だから、すぐにわかるわ。」
と、イワンを遠ざける。
これで、ミックは護衛として、マリーとソフィアナから離れられない。
「マリー様ごめんなさい。で、まずは、どうやって、ドミニク様に、接触するか…ですよね⁈
お伺いはたてて、らっしゃるのに、会ってくださらないんですよね⁈」
”会ってくださらない“辺りを強調すれば、後ろで胸に何か刺さった様に、手をあてているが、無視だ。
「はい。何度も、お会いして、お話しがしたいと、お伝えしているのですが…」
マリーは、肩を落として首を振る。
「それは、明らかに、“嫌っている態度”ですよね…。どうとも思っでなければ、会えますし、まして、好きな相手や、好意がある方に、その様に、用もなく断るなど…」
ソフィアナの言葉に、ミックの目は、見開かれ顔は、青ざめる。左手は、胸を押さえ、右手は宙を舞うように停止した…。
「はい。私もそう感じています。もう、きっと…私など…」
マリーの言葉に、青ざめた顔が、白に変わり、カタカタと震えだすミック…。
ソフィアナには、奇妙な生き物に、みえてきた。
「マリー様は、ご自分の気持ちを話したいだけなんですよね?
なのに、会ってもらえず、もう、嫌われてしまったから、顔を見せるのは、申し訳ないと、困っている…。」
ソフィアナの目線は、考えるフリをしながら、チラチラミックをみている。
「では、私から、ドミニク様に、マリー様の気持ちを伝えてみるのはいかがでしょう⁈」
との言葉に、そうしろ!っとでもいいだけに、うなずくミック。
そう簡単に、マリー様は、渡さない。日頃の恨みとばかりに、ソフィアナは続ける。
「ですが…。私も、ドミニク様には、よく思われていませんからね…。話など、聞いていただけるとは思えませんし…。」
また、妙な体勢で、固まるミック…。
「やはり、私…。近いうちに、お手紙にて、婚約破棄は、いつでも、ご了承する旨を記し、お城よりお暇しようと思います。
ドミニク様も、煩わし女は、お嫌いでしょう…。
せめて、これ以上嫌われてしまわないようには、したくて…。
ずっと、病気で、ドミニク様との未来を夢見れなかった私は、全て諦めていたのです。
今更、自分が、未来を夢見たいなんて…
ドミニク様の未来の中にも、自分が存在したいなんて…、思っては、いけない事だったんです。」
目を潤ませ涙を必死に堪えているマリー…。
「マリー様…。あなたが、みたかった夢は、共にある事だったのに、ドミニク様は、別れる決意をされているなんて…なんでおかわいそうなんでしょう…」
もう、ミックの顔は、締まりがないほど呆けて、パニックになっているようだ。
仕方ない。ずっと自分は、マリーから好かれていないと思っていたのに、マリーが望む未来は、セヌッシュとだと思っていたのに、今、マリーは、ドミニクとの未来を考えていると言っているのだ。
『だが、なぜか、自分か、婚約破棄を望んでいる話になっている。
婚約破棄したいのはマリーじゃなかったか?』
何がどうなり、そうなったかわからないが、ドミニクの中に、マリーとの婚約破棄なんて、チリほども無いのだ。
パニックになるのも仕方がない。
「まっ!ちが…!」
言葉を発しようとした瞬間。
「ミック!」
ソフィアナに、強めに呼ばれて、パニックながらに、頭をそちらに持っていく。
ソフィアナの目は、「勝手に状態をバラす事は許さないと言っている。」『確かに、こんな卑怯な話し合いはない。話し合いどころか、盗み聞だ。』
「はっはい。」
かろうじて、返事をした、ミック。
「ミックあなたは、本日の夕食後のドミニク様の予定を知っていて⁈」
「え…!?えーえーっえっと…。本日は、ご予定は無いかと…。」
「そう。あなたなら、ドミニク様に、マリー様をとりつげないかしら⁈帰ったらでいいのだけど、ドミニク様に、マリー様とのお話をする時間を取ってもらって。」
「たっ、賜りました。」
『くっ、悔しいが、ソフィアナ嬢よ…感謝する。あのままでは、自分の幸せを自分で台無しにするところだった…次からは、態度もできるだけ普通にする…。ように心がようと思う。たぶん…』
「マリー様、マリー様の健気な心に、ミックが、何とかしてくれるみたいです。よかったですね。
今日は、子供達と、童心に帰る勢いで遊びましょう」
ソフィアナは、ニッコリ笑いながら、マリー様の手を引いて、孤児院の入口に、到着していた、テレッサ、ハス、ラス、エスターに、マリーを紹介した。
彼等4人が来てから、孤児院での動きは、やはり素晴らしく、ソフィアナやマリーにも、出来ることを分担してくれるので、楽しく仕事をしていた。
そこへ、孤児院では、大きい子組が何らかの仕事を終えて帰ってきた。
大きい組の子達が、ハスたちをみれば、驚きながらも、大喜びであった。何故か顔見知りで、たまに先生とか師匠とか呼ばれていた。
そして、その子達の腕には、白くふんわりしたパンが、抱きかかえられていた。
聞けば、小さな草やキノコなどの簡単な魔物を狩り、セブァセス店で、クズ魔石をお金に換えてきたそうだ。今は、それが仕事なんだとか…
孤児院だと言えばパンを安くしてくれる、王都で唯一、柔らかいパンを売っているパン屋は、これまた、有名なパン屋で、毎回チビ達の分も買ってくるのだ。と答えた。
ソフィアナは、ふと思う…
『あら⁈いつの間にか、クズ魔石の交換品が、パンからお金になってる…。
軌道にのればって話だったのをちゃんと覚えていてくれたのね〜。リサさん家のパン屋も有名になったのね〜。』
と、嬉しく思って居たが…
実は、ソフィアナが思ってる以上に、利益が、セブァセス店も、パン屋も大きくなっていた。
そして、利益の0.1%だけをもらう約束になっていたソフィアナの店用の、この世界の銀行口座は、えらいことになっていたが、そのお金の管理は、ハスとテレッサとトマスに任せていたので、ソフィアナは全然知らなかったのだった…。
大きい子組の子供たちは、あのお店とパン屋のおかげで、食事や仕事に困らなくなった事や、街の治安が良くなった事、テレッサやエスターから簡単な字を習ったり、トマスからは、簡単な計算を習ったり、ハス、ラスからは、剣術を習わせてもらえることを教えてくれた。
『知らない間に、うちの従者達が大活躍している…』
テレッサに、問いかけてみれば、
「自分がソフィアナ様に、してもらった事のほんの少しをまわりに返しているだけです。
私どもなと、ソフィアナ様のお手伝い以外何もできていません。」
と冷静に、謙遜して返された。
テレッサは、そう言うが、ソフィアナには、言われるほど、たいした事をした気はない…。
ただただ、自分勝手に、生活しやすい様に、楽しく動いているだけで…、ソフィアナには、どちらかと言えば、わがままに生活している自覚しかない。
だが、これを期に、もう少し、街に出て街を見てみようと思い、毎月マリーとソフィアナで、街の孤児院を訪れ、読み書きや、礼儀作法、刺繍に計算などを教えるようになって行った。




