逃亡じゃない。
ハスは、ソフィアナの部屋に急いでいた。
奴隷契約前に、最低限の部屋の構造と必要使用人の紹介はされていた。
『テレッサさんに、入浴準備をお願いしないと』
『ソフィアナ様は、僕らを助けてくれたんだ、契約の傷も、今回も…なのに、僕は…ソフィアナ様に迷惑をかけているだけ…』
ソフィアナの部屋の前で、使用人である事がわかるようにノックする。
扉が開き、中からは、テレッサが出てきた。
「ソフィアナ様より、入浴準備をお願いするよう、いいつかって、まいりました。よろしくお願いします。」
「はい。わかりました。中にお入り下さい。」
「え?」
「ソフィアナ様は、あなたに、話があるみたいです。」
テレッサに言われるまま、ハスは、ソフィアナの部屋に入り、扉近くに立って、ソフィアナを待った。
それから5分も経たないうちに、ソフィアナは部屋に入ってきた。
「流石テリー。ハスに話があるってわかってくれたのね。」
扉を開け、ハスを見たソフィアナは、そうにっこり笑って言った。
「ハスは、とりあえず、こちらに座って。体の傷にさわるわ…」
促されて、ハスはソフィアナの向かいのソファーに座った。
「どうして?」
「入浴準備は、私達の間では、内緒話があるって意味です。ソフィアナ様は、入浴をわざわざ指定しないのです。だいたい決まった時間に入られますし…。
あとは、入浴準備の時は、水の音で周りに話を聞かれないため、私との内緒話の時は、以前は2人で準備室に入っていたんです。」
小さな少女なのに、威厳をもち姿勢良く話すテレッサをみて、ハスは頷いた。
座った、ハスにソフィアナは、軽い癒し魔法をかけた。治癒してしまっては、傷の治りが早いと、怪しまれてしまうからだ…。
ハスは体が軽くなるように、痛みが消えるのを感じた。
「あ…ソフィアナ様…ありがとうございます。遅れましたが、先程の医務室でも、ありがとうございました。」
ハスは、俯きながら、お礼を言った。
「さて、ハス、なにがあったのか、どうして外に行こうとしたのか教えてくれない?」
ソフィアナに促され、言いにくそうに、下を向くハスだが、腹をくくったように、一息つくと、ポツポツと話、はじめた。
「僕…いや、私の属性は、先程話した通り土属性でありまして…簡単な錬金術が行えます。」
ハスは、そこまで言うと、おもむろに耳の中から丸い何かを取り出した。
「これは…?」
「えっと…まず、私と、弟は、母の為に奴隷となりました。母は病気で、診療所さえ行けば、たすかるのですが、その為のお金が無かったので、借金奴隷として身売りしました。私1人では、足りない為、弟と2人で…。借金を返し終われば、自由になるはずで、売られてしまう奴隷ではなかったはずだったのですが…。字が読めない事をいいことに、だまされました。
契約書には、借金奴隷ではなく、売り物としての扱いで、所有権を取られる商品奴隷の契約がされていました。私も弟も、珍しく属性持ちで、他より高く売れるからだと、契約した後で言われました。金額もだまされ、犯罪奴隷なみしか支払われず…。そのため、母は、診療所には行けず、働き手は、父だけですが、その父も、今寝込んだらしく、母の薬が無くなってしまったそうです。薬が無ければ、母は、もって、一週間…。私が身売りして、明日で2週間、薬が無くなって、一週間です。薬だけでも、なんとかしたくて…こちらで働く為に、必要な物を揃えるように頂いたお金を弟と2人分届けに行きたかったのです…」
「え?弟?と2人分?」
「はい、今日契約した、私達2人は、兄弟です。弟は、ラスと言います。木の属性持ちですがあまり力は強くありません。」
「で?身売りした後の事までくわしいわね…?おかしくない?身売りしたら、家には帰れないし、逃亡を防ぐめに、一切連絡させてもらえないんじゃない?」
「はい。その為のこれです。」
と、先程耳から出した、丸い物をさした。
「これは、聞く機能しかありませんが、妹に送信機を持たせています。ですから、連絡が毎日入ってました。装飾品では、奴隷となった時、全て取られるので、わからないように、耳の中に入る物を作りました。先程防御できなかったのも、これを起動するのに魔力を使っていたためです。」
「そんな物作れるなら、それ売ったらよかったのでは?」
「商売をするには、商会に入らないといけないのですが、その入会金が高くて…」
「そうなの…とりあえず、あなたは、母を助けたくてってことね?」
「はい。母もですが、寝込んだ父も気になります…それに…妹が、薬を買う為に、俺たちのように身売りしようとしていて…何とか止めようと…」
「え?」
「先程医務室で、治して頂いた後、妹が、そう呟いていました。これは受信専用で、こちらの事を妹に話す事もですぐ…。このお金がある事を妹にさえ伝えられれば…」
「なぜ言わなかったの?」
「奴隷は、自らの事を自主的に話したり、主人に何を願う事を禁じられています。聞かれれば、話せますが、聞かれなければ…」
「え?そうなの?」
「はい。今お話できたのも、聞いて下さったから、答えれただけに過ぎません。」
「今後は困った事があったら、聞いてあげるから、ちゃんといいなさい。言えないのなら、お風呂の準備しなさい。こちらから聞いてあげるわ。」
ハスは涙ぐみながら、話終え、ソフィアナの言葉に泣いた。
だが、話た所で、今更家族は、どうにもならない…。
「さて、願えないから、行かせてくれとは、言えないのね…。奴隷って、難儀な契約ね…こういう、人権丸っと無視なんて、嫌いだわ。その辺は、追い追い改善しましょうか。」
ソフィアナは、すっと、ソファーから、立ち上がった。
「さて、時間が無いわ。行きましょう。テリー街に出ても目立たない服あったかしら?」
「え?」
「ソフィアナ様?いけませんよ。危ないです。」
「テリーお願い。みんなが起きるまでに、帰ってくるから、留守をお願い。」
「そんな、ソフィアナ様…」
「テリー。」
「はい。くれぐれもお気をつけて…」
ソフィアナに押し切られ、テリッサは、承諾するしかなかった。
ドレスルームで着替えたソフィアナは、ハスを連れて窓の前に立った。
「ハス…手を」
「へ⁈」
「手」
「え?」
ソフィアナは焦ったくなり、ハスの手を無理矢理掴んだ。
「行くわ。家教えて。あと、静かにね。護衛や見張りに見つかりたく無いわ」
そう言った瞬間に部屋の窓から外に飛び出した。
「うわわわわわ」
ハスは慌てて口を空いている手で押さえた。
ハスと、ソフィアナは、空へ舞い上がっていた。ソフィアナの目の色が、青くなっていたが、ハスが、そんな事に気付くはずも無く…
必死にソフィアナの腕に、しがみついた。
街の手前で、降り走って家に向かう。
しばらくして、家に着いた、ハスは、すぐさま、家の扉を開けた。
「エスター、父さん、母さん。」
ハスは、返事が無いことも無視して、両親の寝室へ進み扉を開けた。
「母さん」
「あら…ハス…。心配…してたの…よ…」
掠れた声で母と、言われた人が、ベッドに寝たまま、顔だけをハスに向けた。
「母さん、エスターと、父さんは?」
「わからないわ…エスターは、朝出て行ったきり…父さんは、エスターを探しに夕方出かけて…」
ハスの母は、話ではいるものの、意識は半分くらいぼやけている。もう、心配して、悲しむ力すらないのだ。
「こんばんは。ハスのお母様。私は、ハスのお友達のソフィよ。少し体に触ってもいいかしら?」
そう言いながら、ハスの母親の手を握った。
その直後、母親の顔色はみるみる良くなっていった。
半開きであった目もきっちりと開け、目を見開いていた。が、すぐに全身脱力し、意識を無くした。
「母さん!」ハスが慌てて叫んだ。
「大丈夫。病自体は治したわ。ただ、私の事を覚えていられたら、困るのよ。力の事は内緒にしたいから〜。だから、治したまま寝てもらったの。明日の朝には目を覚ますわ。栄養状態まで回復すると、周りの目が心配だから、栄養状態は、あまり回復させてないわ。起きたら栄養のある物を食べさせてあげて。」
「なっなっな…」
ハスは泣いていた。
「ハス、とりあえず、妹さんと、お父様を探さないと…。心あたりはある?」
「はっはっはい。きっと奴隷商かと…。あっあのソフィアナ様、母を母をありがとうございます。」
ハスは鼻水や涙で、ぐちゃぐちゃな顔で、ソフィアナに、お礼を言った。ソフィアナは、優しく微笑みを浮かべた。
「じゃ、奴隷商に行きましょう。このままじゃ、夜明け前に帰れないわ。」




