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真凛/一樹1

風邪引きました……_:(´ཀ`」 ∠):_

ここから視点と時系列があっちゃこっちゃします。

 やっちゃった。我に返ってまず思ったのはそれだった。

 とりあえず壁にもたれて切れまくってる息を整える。

 スマホを後ろの廊下に向けて照してみたけど、誰の姿も見えない。というか、足音とかあたしを呼ぶ声とかなーんも聞こえないし!


「やっば。ガチでやらかしだー」


 みんなには内緒にしてたけど、高校まで陸上の短距離ハードル走の選手だった。それも結構いい線いってた。

 今日は珍しくスニーカーだったし。なりふり構わず必死で走っちゃったし。なんか途中でカートとかストレッチャーとか飛び越えた気がするし。絶対カズが追いかけて来てたんだろうけど、振り切っちゃったくさい。


「カズーー!! 居ないのーー!? しょーくーん! みっかー、コニーー、みんなぁーー!!」


 暗闇に向かって叫んでみても、返ってくるのは静寂ばかり。嫌でもあたしは今一人っきりなんだって思い知らされる。


 あの時、カーテンの向こうの壊れたベッドの横に立ってた男はあたしの叔父だった。正確には、それとよく似た男。

 先月病気で急死した叔父は、あたしがずっと死んでほしいと思ってた人間だった。

 あたしが中学に上がった辺りから、あの野郎は舐め回すような目で全身を見てきて気味が悪かった。高校生頃には肩とか脚とか出してると、そこに手を置いて少しずつ動かされた。そんなの全然誤魔化せてないし。撫でてんのバレバレ。もう心底気持ち悪くて、だけど物凄い力で掴まれることもあって恐くてまともに抵抗出来なかった。

 カーテンを開けてその叔父の顔が見えた時、頭が真っ白になった。だけど今は友達と居るんだって思い出して一生懸命虚勢張ったけど、近付いて来られたらもうダメだった。

 今思い返してみれば、男の顔は叔父に似てただけで別人だったって分かるのに。だいたい死んでるヤツが目の前にいるとか、もうそれ幽霊じゃんね。


「ん、あれ? 幽霊じゃん」


 よく考えてみたら、こんな所に人がいる訳ない。ホームレスが住み着いてる可能性はあるけど、あの男白衣を着てたような――。


 急に背筋にゾクッと寒気が走って思わず腕を抱いた。触れた素肌に、そういやタンクトップのままだったと腰の後ろに手をやる。


「ありゃ?」


 腰に巻いてたサテン生地のロングカーデが無い。走ってる間にどこかで落としたっぽい。


「あーあ。気に入ってたのになー」


 いつもなら探しに行くところだけど、今はそんな気になれない。もう肝試しなんかさっさと切り上げてコニーの家に帰りたい。ほんとなら今頃みんなでバカ話して笑って、みっかとじゃれ合って、もしかしたら翔くんとちょっといい感じになれたり……。


「カズのバカヤロー……」


 肝試しって聞いてソッコー食い付いたのはあたしだけどさ。コニーが渋った時にやめときゃ良かった。


 自分が今どこに居るのかはさっぱりでも、迷子は動かず迎えに来てもらうのが鉄則。だけどさっきみたいに大声を出すのは、呼んでもいないモノを呼び寄せそうな気がしてきたから却下。

 なので、ずっと右手に握りしめてたスマホを弄ってアプリを呼び出す。手がガチガチに固まってて、左手使ってスマホから一旦剥がさなきゃいけなかった事に苦笑い。

 うん? アプリが全然読み込めないな。あれ、電波が無い?


「はあ? このタイミングで?」


 間が悪いのか何なのか。まさかさっきの幽霊男の仕業じゃ――いやいやいや考えない、考えない。

 だけど、連絡取れないのは迷子の真凛さんにとってはヤバい。更に絶対反射的にカズはあたしを追いかけたはずだから、あいつまで孤立してたらデカイ廃墟で迷子が二人。相当ヤバい。


「あいつまではぐれてなきゃいーけど」


 カズまではぐれてたら、みっかは怖いの平気かね?

 んーま、平気か。残ってるのは何てったって翔くんとコニーだし、最悪コニーさえ付いてればみっかは問題ないでしょ。


「んー……」


 ならとりあえず自分の心配かー、あたしは何処をどう走ってきたっけ? ちょい冷静になってきてた時には、確か階段を駆け下りてた。そこで幽霊男に腕を掴まれたからまたパニックになって、一番下まで下りて息が続かなくなるまで我武者羅に走ってたんだっけか。って事はここは一階のどこかかな。見る限り窓は板張りされてて景色で判断しようがないのが痛いな。

 他に何か情報はないかと周りをスマホでぐるぐる照らす。よく見たら上の方にハゲた文字があるじゃんか。


「『皮』……『皮膚科』かね?」

 

 うーん。確かフロア案内図に描いてあったような? うろ覚えだけど、受付から皮膚科はぐるっと遠回りしなきゃ行けなくて不便じゃね、って思った気が。けど中を突っ切れるなら近道出来る構造だったはず。

 試しに診察室のうちの一つの取っ手に力を込めると、一瞬引っ掛かった後すんなりと横にスライドした。

 おっけ。後はみんなに『出口集合』ってどうやって伝えるか……。チラッとスマホの電波を確認。はいはい圏外圏外。

 どうしようとあちこち見回しているうちに、赤い物が目に入った。

 火災報知器。


「これだー!」


 これなら全員一気に気付いて、もしカズまで迷子でもどうにか外に出ようとするでしょ。あたし天才かもー、なんちゃって。

 壁に近付いて赤い円の中の透明な部分に親指を当てる。なんかドキドキしてきた。

 気合いを入れて、思いっきりボタンを押し込んだ。


「とりゃっ」


 ――ジリリリリリリリリリリリリリ


「おおぅ」


 思った以上の非常ベルの音量に一瞬たじろいだ。けど、それでこそみんなすぐ出口か外を目指してくれるっしょ。


 自分の仕事に満足して、今度こそ診察室の扉を限界まで開く。


「お願いだから繋がってろよー」


 すんなり出口に辿り着くことを願いながら皮膚科に進入した。




――― ―――




「マリンっ!!」

「――カズ、待て!」


 後ろで呼び止められた気がするけど、そんなのに構ってられない。マリンが恐がってるのに一人にするとか有り得ねぇ。それにおれならすぐに捕まえられる!


 そう思ったのに、マリンになかなか追い付けない。意外に足が速い。当然直線だとおれの方が速いんだが、障害物があると距離を離される。何であいつあんな飛び越えるのうめぇんだよ!


「マリン! 止まってくれ、マリン!!」


 必死で呼び掛けても走る速度は落ちない。あれは全く聞こえてないな。

 あ、ストレッチャー飛び越えた。


「ちょ、ちょまっ」


 道を塞ぐように放置されてたストレッチャーを、おれももたつきながら飛び越える。また距離を離される。


「あークソッ」


 さっき病室でマリンの肩を揺さぶるのを躊躇ったのを後悔する。肌に直接触ってしまうと思って遠慮したのと、普段からマリンはあんまり触れられるのが好きじゃなさそうで気遣ったのが裏目に出た。翔英かコニなら上手くやっただろうに、敗因はおれの下心とか最悪だ。


 階段に差し掛かった事でマリンの速度が落ちた。ここで捕まえる!

 階段を何段も飛ばして降り、踊り場で一気に追い付く。


「つかまえ、たっ」


 マリンの腕を掴んで彼女の走りを止めた。


「やあああああああっあぁ、あぁああ!!」

「うわ!? まっお、おれだって!」


 掴んだ途端暴れだしたマリンに慌てる。ど、どうしたらいいんだこれ!? とにかく、落ち着かせて――。両手で押さえるか迷い、チラッと懐中電灯を持つ右手を見た。


「――ぶっ」


 意識を逸らした次の瞬間、もがく彼女の手が顔面を強打した。思わず掴んでた手で顔を被い、後ろに数歩よろける。


「ぅいぁああ!」

「っ、あ?」


 マリンに突き飛ばされて背中からぶつかった窓が派手な音を立てた。と、背中の支えが無くなる。あ、と思った時には遅かった。上手く掴み損ねた縁から、上半身が投げ出される。


 ――落 ち  る   。






 はっ、と目を開けた。一瞬意識がトンでたらしい。ああ、満月が綺麗だ。

 待て、月? まだ寝惚けてるのかと頭を振る。軽く捻挫したのか、首から鈍痛が返ってきた。


「いっ、つつ……」


 身体を起こそうとして、失敗した。どうやらおれは植え込みに深く埋まってるみたいだ。身体中痛むんだから勘弁してくれよ。

 手足をバタつかさせて何とか脱出し、地面に足を着けることに成功した。


 ――ジャリッ


 足元を見ると、その辺り一帯が月光を反射して煌めいていた。ガラスだ。おれがぶつかったせいで窓枠ごと落ちた物の残骸。

 落ちた場所がおれとズレてて助かった。じゃなきゃこの程度の打撲と擦り傷じゃ済まなかっただろうな。

 ついさっき勘弁してくれなんて思った植え込みだが、この上に落ちなきゃ最悪死んでたかもしんねぇな。そう思えば埋まったのくらい可愛いもんか。


 つか、おれは一体どこに落ちたんだ?

 鬱蒼とした植え込み、黒々とした木、四方に迫る建物の影、真上には輝く満月。

 マリンを置いて外に出ちまったのかと一瞬ヒヤッとしたが、建物に囲まれてるここは外じゃなくて中庭だろう。早く院内に戻ってマリンを探さねぇと。

 そこでようやく懐中電灯を持ってない事に気が付いた。月明かりで結構見えるとはいえ、ここまで気付かないなんてまだ頭が呆っとしてるのか? 懐中電灯を握ってた右手は手ぶら、左手には、布?

 布を広げて見れば、柄までは見えないが洋服のようだった。


「マリンのカーディガン……!」


 落ちる直前、何かに掴まろうとして彼女から剥ぎ取っちまってたらしい。取ったのは失敗だったけど、ここまで離さずにいた自分を褒めたい。

 カーディガンをベルトの後ろに挟む。合流したらちゃんと返してやらないとな。


 とりあえず落とした物を探すためにスマホを出そうと、ポケットに手を突っ込んだ。が、何もない。入れた場所が違ったかと全ポケットを探ったが、スマホは無かった。懐中電灯と一緒に落としたらしい。


「マジか……」


 慌ててしゃがんで探す。スマホでも懐中電灯でも、どっちかが見付かればどうにかなると思ったが――。


「植え込みの中真っ暗じゃねぇか! まっったく見えねぇ」


 これは諦めるしかなさそうだ。また後日明るい時間に探しに来るしかない。がっくり項垂れて建物へ向かう。育ちすぎた植え込みが邪魔だが、構わずかき分けて突っ切った。


「いててて、痛ってぇ。はあぁー」


 テンション駄々下がりだ。早いとこマリンを見つけて撤収しよう。

 建物に取り付いて窓を開けようと端から試みていく。そんな都合良く鍵が開いてるなんて事はないわな。

 仕方がないので一際がたつきが大きかった窓をしっかりと掴む。


「くっうぅ、うらああああ!!」


 窓を無理矢理窓枠から外して、全力で鍵から引き剥がした。基本的に自信があるのは脚力だけど、腕力だってそれなりに鍛えてるからな!

 外した窓を脇に置き、窓枠を乗り越えて院内に戻る。中庭沿いの窓が大きく取られてるお陰で、月明かりで何とか廊下を進めそうだ。


 ――やっちまった。


 さっき落ちた時に足を痛めてたらしい。窓外しに全力を出したせいで悪化したみたいだ。

 歩く度に痛みが増していく。壁に手をついて補助しながら歩くおれの不規則な足音が廊下に響いている。


 ――クソッ、早くマリンを見付けてやらないといけないってのに!



 ――ジリリリリリリリリリリリリリ


「はっ!?」


 下を向いてた顔が反射的に上がる。なんだなんだ、非常ベル?

 火事か? これは避難した方がいいのか。マリンは? さすがにこれで我に返ってるか。ならおれは――。


 ――ガガッ


「ん?」


 大音量の警報に紛れて何か頭上で音がしたような。暗い天井に目を凝らす。


 ――ガララララララッ


「なっ」


 上から何か落ちてくる!

 おれは全力で前へと跳んだ。




執筆速度ナメクジなのは確かなんだけども、小西と作者の相性が悪すぎることが発覚。頼むよ主人公ーー!

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