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異世界までは行けないけれど

作者: 本間としあき

「おめでとうございます」


 突然の声に驚いて少年が起き上がると、そこは一面、深緑が広がる芝生の上でした。前を見ると、足先まで伸びた純白の長衣を着て、背中から猛禽類の翼が生えた人が立っています。天使のようだと少年は思いました。


「貴方は幸運にも、生まれ変わる人に選ばれました」


 生まれ変わるということは、ここは死後の世界なのだろうか。少年は疑問に思いながらも、天使の次の言葉を待ちました。


 天使は左手の人指し指をぴんと立て、順を追って説明を始めます。


「ただし、このまま生まれ変わることはできません。貴方が持っていた過去の記憶と身体は損なわれてしまいました。神様のいみじき御業でも元には戻せないのです」


 少年は内心では少し安心しました。自分がどんな死に方をしたのか記憶になかったので、死の瞬間を思い出して怖い思いをしなくて済むと思ったからです。


「だから、貴方には他の人の身体を用意しました。哀れにも、自ら命を絶とうとして失敗してしまった人の身体です。慣れるまで少々時間が必要かも知れませんが、貴方なら大丈夫」


 天使は満面の笑みを浮かべています。きっとこれは良いことなのだと、少年は納得しました。


「新しい名前、新しい身体、新しい人生――頑張ってやり直してくださいね」


 天使は優しく少年の頭を撫でました。少年は暖かく柔らかな感触を期待していましたが、その手は意外にも凍りつくように冷たいものでした。


 少年の下に、雲ひとつない空から眩しい光が降り注ぎます。天使がお別れの言葉を述べているうちに、少年の身体は天空へと浮かび上がり、そして消えていきました。


 少年を見送った天使の傍に、黒衣を纏った少女が現れました。蝙蝠のような翼に、三叉に分かれた黒い尻尾。それは悪魔の姿でした。


「ご親切なものですねえ」


 皮肉めいた調子で少女は天使に話しかけます。


「間抜けな自殺未遂の少年を、わざわざ同じ身体に戻してあげるなんて……。しかも、トラウマになっている記憶まで消してあげるサービス付き」


 少女の話を聞いていた天使の長衣もまた、少女と同じく漆黒に染まっていきます。不満げな悪魔に対して、天使はゆっくりと首を横に振りました。


「だって、これくらいしてあげないと、私が決めた寿命まで、きちんと生き永らえられないでしょう?」


 死神はにこやかに笑いました。

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