聖なる夜の堕天使ちゃん
12月25日。世間すっかり冬空のクリスマス。
ケーキを買って来て1人で寂しく食べる人もいれば、交際している人と食べる人もいれば、片思いしていた人に告白する人もいる。
クリスマスとは不思議なものだ。いつから男女のイベントになったのか、誰が提唱したのか。そんな事は誰もわからない。分かりたくもない
────そんなクリスマスを1人寂しく、一人暮らしのアパートで過ごす男、冬空ヒナタ《ふゆぞらひなた》がいた。
「あーあ、全く。どいつもこいつもクリスマスだからってイチャイチャしやがって。ケッ、良いもんね。俺にはコイツがあるし」
画面越しに映る美少女。俺は今、スマホで美少女ゲームを楽しんでいた。その時、アパートのインターホンが鳴り、ヒナタはスマホを閉じる。
「あ?誰だよ…。はーい」
ヒナタが扉を開けると、そこにいたのは、見知らぬ女だった。
「あ、あの…こ、こんにちは…。冬空…ヒナタ…くん」
「…」
「あ、あれ?ここ、冬空くんの部屋…だよね?間違ってないよね?あれ?あれ?」
「あの、どちら様ですか?用がないなら扉、閉めますよ」
「あ、えと、私…その…冬空くんのために、く、クリスマスプレゼントを———」
「あー、そういうの間に合ってるんで。他当たってください」
「あ、ちょ……」
ヒナタはこの時期によくある怪しい訪問販売だと思い込み、強引に扉を閉めた。扉を閉めた時に妙な違和感があったが、気にしない事にした。
「ったく、クリスマスだからって女の訪問販売員とは…。しかもクリスマスプレゼントって…洒落のつもりかよ」
ヒナタはため息をついて、自分部屋に戻ろうとして、ふと足を止めた
「あれ…?そういえば俺、さっきの女に名前、名乗ったっけ…?何で名前…知ってたんだ…?」
ヒナタは思わずゾッとしたが、冷静に考えてみれば表札があるし、それで名前を知ったのだろう。名字だけだったし、知ってて当たり前かと納得して、そのまま床につく事にした。
———翌朝。何故かいつもより早い時間に目が覚めたヒナタは、枕元にあったスマホを手に取り時間を確認しようとした…
「…な、なんだこれ」
そこには見知らぬ番号からの着信が何十件も来ていた。しかもよく見ると明朝から数分刻みで着信が来ており、間の何件かに留守電が入っていた。流石に聞くのも怖くなり削除をしようと選択ボタンを押そうとした。
しかし、まるでタイミングを見計らうかのように、また同じ番号から着信が来た
「うお…」
もしかしたら友達が機種変をして自分の番号を覚えていたから何度もかけているのでは?と思い、焦って電話に出た。
「もしもし?」
「やっと…出てくれましたね。冬空くん…」
「ひっ!!…」
受話器のむこうから聞こえたのは聞き慣れた友達の声ではなく、女の声だった。ヒナタは思わずスマホを離してしまい、後ずさりした
「酷いですよ冬空くん…何度も何度もかけているのに出てくれないなんて…留守電だってちゃんと入れてるのに…。何で無視するんですか…?」
ヒナタの背中に戦慄が走った。聞き覚えのない女の声。テレビとかで見るホラー系を自分が体験してるかのようだった。
「昨日もそうです…冬空くんのアパートをやっと見つけてお部屋まで辿り着いたっていうのに…。冬空くん、まるで訪問販売をあしらうみたいでしたよ…」
ヒナタはその言葉を聞いて更にゾッとした
昨日?訪問販売?女……。そう、昨日自分の部屋に来ていたのは訪問販売なんかではなくこの女なのだと。
「冬空くんの番号、調べるの大変でしたよ?冬空くんのお友達がたまたま近くを通りかかったので、冬空くんの番号、聞き出しちゃいました…えへへ…」
「…!?」
「それに、今私、とっても寒いんですよ?昨日からずっと同じ場所から動いてないんですから」
「は、い……?」
今の言葉に違和感を覚えた。『昨日からずっと同じ場所から動いてない』という言葉に冷や汗が止まらなくなった。どういう事だ。まさか昨日の女がまだ扉の向こうにいるというのか
恐る恐る扉の覗き穴から外の様子を伺って見ると、女が1人立っていた
「うわぁぁぁ!?」
驚きのあまり盛大に尻餅をつき、後ろにあったカラーダンスにぶつかってしまった
「いつつつ…」
「ふ、冬空くん!?大丈夫ですか!?なんか凄い音聞こえましたけど…」
「まじかよ…本当にいた…」
冗談だろ、と言った表情を隠しきれず、ますます恐怖が増す。追い討ちをかけるかの如く、女は泣きそうな声で言った
「あの、冬空くん、出来ればここ…開けて頂けると有難いんですが…。外…寒いですし…」
ヒナタは恐怖と怒りが混ざったような感情のまま、震えた声で女に尋ねた
「お、お前に聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「お前は一体誰なんだ…?」
「誰って、いやですよ。昨日ちゃんと名前言ったじゃないですか。宮崎真夢ですよ。冬空くんと同じ学校に通っていて、冬空くんと同じクラスの宮崎真夢ですよ?」
「宮崎…真夢…?ああ!思い出した!お前、人形部の宮崎か!」
「そ、そうですその宮崎です、覚えててくれたんですね」
「部員1人で何が出来るんだよって、よく他の女子達から散々言われてた、あの宮崎か」
「その宮崎です…」
「だから俺の名前知ってたのか…」
「…何の話ですか?」
「いや、昨日お前が急に来て俺の名前言うから、後から気が付いてビックリしたけど、そうか。よく考えたら名前知ってて当然か」
「そ、そうですね……くちゅん!」
「あ、やべ、寒いんだったっけ?とりあえず中入れよ」
「ありがとうございます…お邪魔します…」
「いやぁ、てっきり知らない女が付きまとってるのかと思ったけど、宮崎ってわかってホッとしたわ」
「……」
「昨日はちょっと疲れてた、というかぼーっとしてたんでな、名前言われても気が付かなったんだよ、悪かったな」
「い、いえ、疲れてたなら仕方ないです…。そ、それよりも、冬空くんの香りがするこの部屋で、冬空くんと2人だけで過ごせて、しかもそれがクリスマスの日だなんて、幸せです…」
「何言ってんだ、お前…」
「き、気にしないで下さい、ただのもうそ…独り言ですから!」
「あ、そ」
「…………えへへ、冬空くんと2人きり……えへへ……く、クリスマスに2人きり…えへへ」
「なんか言ったか?」
「な、何でもない…!です」
「そういえば、あの人形どうなったよ、例の、捨てられて俺がまた拾って来たやつ」
「あ、あれは、きちんと修復して、きちんと保管してあります」
「あ、直したんだな」
「……勿論です」
「1人で直したのか?」
「まあ、はい」
「ほぇー、すげえな」
「………冬空くんが私の為に取り返してくれた大事な人形ですもの…ふふ」
「あ?なんか言ったか?」
「べ、別に何も」
「あ、そう」
「………(あの一件があったから私は冬空くんに惚れて、冬空くん以外に興味がなくなって、冬空くん以外見れなくなって、冬空くんだけを見ていて…でもそれだけじゃ足りなくて…冬空くんを好きになった…。だから私は冬空くんが好きなんです…。本当はその人形に私の愛をいっぱい注いだ人形をクリスマスプレゼントにしたかったんですよ…私とお揃いで、ね?)……ふふ」
「!?」
その日、冬空は寒気と嫌な悪寒がしたという……
To be continued……?