朝の話
今朝の朝御飯はだし巻き卵と昨日のほうれん草のおひたしと味噌汁とご飯、今日も栄養バランスを考えて作ったメニューだ。ほかほかの白米の上に納豆を掛けたら完璧だ。ホクホク笑顔でいただきます。
しかし、真向かいに座っている春日さんは眠たいのか目が半分ほどしか開いていない。瞬きを繰り返しては時おり舟を漕いでいる。
「春日さーん、眠たいなら寝ててもいいんですよ?」
「いや、大丈夫だ……いただきます」
どうやら春日さんは朝に弱いらしい。春日さん自身が弱いのか猫の姿をしているせいなのかは分からない。私は結構目覚めが良い方なので朝でもちゃきちゃき動けるし、ご飯もたくさん食べられる。
春日さんはゆっくりとご飯を食べている。私はもう食べ終わって食後のお茶でほっと一息吐いているところだ。後は後片付けを済ませて学校に行くだけだ、時間には余裕がある。
「そういえば、あんたは学校なのか……」
「はい」
「高校生か?」
「はい、二年生です」
「そうか」
「春日さんって何歳くらいなんですか?」
猫の姿では成猫くらいなので私と同じかもしくは年上くらいだろうな。
「俺は二十一歳だ」
「ということは私より年上の……大学生ですか?」
「そうだな」
「大学生って、単位とか大丈夫なんですか?」
「大丈夫もなにもこの姿では講義は受けれんしな……その事は戻れたときに考えることしてる」
「……そうですよね。早く戻れるといいですね」
春日さんは何も言わなかった。ただ俯いてじっと空になった皿を眺めていた。表情からは何も読めずに私はもしかしたら春日さんは人間に戻ることを諦めているのではないかと思った。
「諦めちゃダメですよ」
「え」
「人間に戻ることです」
顔を上げた春日さんの目は真ん丸で金色なのもあって満月のようだった。
でも、諦めたら駄目なんて私が言うことではなかったかもしれないと言った後で後悔した。春日さんは私に会うまでにいろいろと元に戻ること努力をしたはずだ、今は疲れてしまっているのかもしれない、時には休養も必要なのだ。酷なことを言ってしまったかもしれない。
口は災いの元とはこの事だ。私は一つ賢くなっただろう。
そんなことをぐるぐる考えていると「そうだよな」と春日さんが言った。
「早く人間に戻らないといけないよな」
「……でもあまり無理はしないでくださいね」
「そうする」
何故だろう、春日さんの何かが引っ掛かった。春日さんは特に何も変なことは言っていないはずなのに何かが気になった、けれど引っ掛かった物の正体は見えなかった。
「それより時間は大丈夫なのか?」
「あっ忘れてた!もうこんな時間だ!」
「長話しすぎたな、すまなかった」
「いえ、そんな……春日さんのせいでは」
「早く行け、遅れるぞ」
「あ、はい!」
あわただしく鞄を持って出ていこうとしたときだった。
「気をつけろよ」
少しぶっきらぼうな春日さんの声が聞こえた。
「はい!いってきます!」
私は嬉しくて満面の笑顔で学校へと駆け足で向かっていった。