右手
猫の三葉を三つ葉という表記にさせていただきました。なんとなく平仮名入ると可愛いかなという理由なだけです。
サブタイトルの内容まで書く予定でしたが。今日はここまでにさせていただきます。
短くて申し訳ありめせん。
読んでいただいていただける皆さま。
ブックマークくださった方。
ありがとうございます。
感謝の念に堪えません。
「三つ葉あああああ!」
私は安堵とも恐怖とも言えない声を出してしまう。
三つ葉。
三つ葉。
遠目でもわかる程に艶やかだった黒い毛並みは紅い血で濡れていた。
私は地面を蹴り走った。
三つ葉を助ける。
私の思考はそれだけであった。思考だけではない。視野ですら三つ葉しか見えなくなっていた。
「三つ葉!!」
私は三つ葉に駈け寄り、抱きかかえようとする。
手にべったりと張り付く滑りけのある液体。
掌から伝わる感触に怯えた。
生きていて。
私は三つ葉を抱きかかえる。
呼吸が聞こえる。
温かい。
まだ助かるかもしれない。
「三つ葉!三つ葉!大丈夫?今から病院に連れて行ってあげるからね!」
「ニンゲンカ?」
三つ葉ではない。
声の出所が、目の前にいる大男なのはすぐにわかった。
(鬼・・・・・・・)
私の直感がはじき出した答え。
遠目で見た時もそう思ったが、私の脳からはじき出される答えはやはり鬼であった。
鬼。
実際に見たことは無い。
だが、日本人が鬼と聞いて頭に浮かべる鬼は皆、同じものであろう。
おとぎ話でしか聞いたことがない。
鬼と言えば絵本の絵でしか見たことはなかった。
でも。
私の目の前にいる鬼は。
殺意をむき出しにした角の生えた男だった。
私は乾ききった喉で唾液を飲み込もうとする。
ごくりとう音だけが、学校のグラウンドに響く。
響くはずもない小さな音。
私の耳にだけは大きく大きく響いた。
殺される・・・・・・のだろうか?
でも。
三つ葉は助けないと。
周りを見渡す。
しかし、助けを呼ぶ相手もいない。
私は三つ葉を抱きしめた。
助けて。
助けて。
助けて。
助けて。
助けて。
「・・・・・・乙葉様。お着物が・・・・・汚れますにゃ」
強く強く抱きしめていた胸の中の三つ葉が薄く目を開けた。
「三つ葉!生きてたんだね!」
「生きてたもなにも・・・・・・ご主人様の願いで地獄から呼び戻されました」
私は三つ葉を抱きしめて頬を寄せた。
「良かった。良かったねえ。三つ葉が生きてた。三つ葉が生きてた」
私は立ち上がった。
三つ葉を生かす。
ん。
逃げよう。
私にだって意地がある。
学校の外にまで逃げれば民家もある。
とにかく人のいるところまで逃げ切れば私の勝ちだ・・・・・・と思う。
突如私は思考が止まる。
逃げる?
この鬼を引き連れて?
誰がこの鬼を止めるの?
逃げた先の民家の住人が止めてくれるの?
無理だ。
こんな殺意の塊。
誰も止められない。
交番まで逃げる?
拳銃なら。
お巡りさんが拳銃を抜いて悪人を倒す。
でもでも。
私の思考かが止まりかかるその刹那。
三つ葉が私の頬を舐めた。
小さな小さなその舌で。
「大丈夫です。ご主人様。あなたは私が守りますよ」
三つ葉は私の腕からするりと抜けた。
「三つ葉!」
「ご主人様は逃げてください。それくらいの時間なら私でも稼げます」
私は足を一歩後ろに下げた。
逃げる。
今なら逃げられる。
私は三つ葉に背を向けた。
一気に走りだそうとしたその刹那。三つ葉の唸り声が私の背に届いた。
私は何をしているんだろう?
三つ葉は私の為にここに来た。
私は・・・・・・三つ葉に助けられるためにここに来たの?
違う。
私の想い人を助けようとしている三つ葉を見捨てるためにここにきたの?
違う。
私は。
「三つ葉を助けるためにここに来たんだああああ!!!!!!!」