本当の誕生日
「ふふっ。ご主人様は本当に可愛らしいですね」
三葉は長い尾を振り、金色の目で私の目を見つめた。
「ええ?私ってかわいいの?本当に可愛いと思ってる?」
「ご主人様は可愛いですよ。猫の私から見ても可愛いと思います」
三葉は目を細めた。
「やっぱり!私!そこそこだよね。可愛いよね!生きてていいんだよね?」
「生きてていいですよ。むしろ生きててほしい。でも。私はあなたの前世。いや。もうひとつ前の前世から使える黒猫です。ここであなたの前世からの言葉を伝えなければなりません」
「前世の私?」
「17歳になったんだね。おめでとう」
「は?」
私はあっけにとられる。
三葉が喋った事にもびっくりだが、前世の私が今の私に誕生日の伝言って。
私はどんな人間だったのだ?
三葉は所作無いようにさまよう。
その姿は言葉を探しているように見えた。
「ん。ご主人は長生きしたいと思いますか?」
「そりゃ長生きしたいよ!っていうか、三葉。あなた私の・・・・・・えっと。前世の前世から私に使えていたって本当?」
「本当ですよ」
「え?それって?三葉。あなたいくつなの?」
「私は・・・・・・」
三葉は突然耳をぴんと立てた。
「三葉?」
「しっ」
三葉は一方向を見たまま動かない。
いや。
真っ黒な耳だけはせわしなく動いていた。
何かを探るように。
「ち。またか」
三葉は不愉快そうな声を上げた。
「またか。って?」
「ああ。ご主人には関係があるようなないようなあるようなないようにゃ」
「何か隠してるの?」
「隠してなんかいませんよ。ちょっと野暮用ですにゃ」
黒い艶やかな体毛が立ち上がる。
「うそ!なんか隠してるんじゃないの?」
「いや。これは私の仕事ですから。ところでご主人」
「なに?」
「窓を開けてくれませんか?」
三葉は必爪で窓をカリカリと音を立てて掻いた。
私はその姿を見て笑ってしまう。
「猫。よねえ」
「そうですよ。私は猫です。そしてあなたの式神です」
「式神?」
「ええ。説明したいところではありますが、今はとにかく、部屋から出してください」
「出すとどうなるの?」
「・・・・・・あなたの想い人が助かります」
私はあっけにとられた。
私の想い人?
今日、私を振った池内君?
え?
なに?
意味がわからないんだけど。
「ともかく!」
三葉は言葉を荒げた。
「後できちんと説明しますから、今は私を部屋から出してください!お願いします!」
その迫力に負けて私は部屋の鍵を開けた。
「感謝します」
三葉は矢のように部屋から飛び出していく。
いったいなんだったんだろう?
三葉と私、喋った。
妙に静かになった部屋の中で私は一人考えをめぐらす。
猫が喋る?
私の前世?
三葉が式神?
想い人?
そういえば、三葉って私が子供のころから大人だったよな。
両親も、三葉を拾った時にはすでに大人だったというし。
家族みんなで言っていた。
この子はいつか猫又になるんじゃないかって。
私は三葉の駆け抜けていった方角を呆然と眺めていた。