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7 『非公認の情報屋』

 普通、情報屋は街にひとつだ。

 少なくとも、国が存在を認めているのは、それだけだ。

 それ以外は、情報がありすぎるといらぬ混乱を招くということで、原則認められていない。


 しかしそれは建前であり、実際には、多くの非公認の情報屋が存在していた。

 略して、非公。


 国公認の情報屋は、『正しい』情報しか取り扱わない。

 それは、国にとっての『正しい』情報だ。

 けれど、人々が求めるのはそんな情報ばかりではない。

 そういった人々の需要から生まれた非公は、公認と違った、いわゆる『正しくない』情報を取り扱っていた。 


 人には話せない『お仕事』の話。

 表社会では消えたことになっている『お宝』の話。

 権力が覆い隠した『秘密』の話。

 ブラックに限りなく近いグレーな話から、完全にアウトな話まで。


 意外なことに、そういう非公認の情報屋を国は取り締まっていない。

 あまりにも『いきすぎている』場合は別だが、そのほとんどは見てみぬふりだ。

 それは、国も彼らを利用することがあるからだった。

 蛇の道は蛇。

 その手の捜査を行う場合、軍も情報を得るために彼らの元へと足を運ぶことが多々あった。



「非公か。それはつまり、………お前の得意分野だな?」


「そうで~す!」



 あまりにも軽いラディスの返事に、少し頭が痛くなる。

 またひとこと小言を言いたくなったが、話が進まなくなるので、ぐっとこらえる。



「まあ、非公なら、知っている可能性もなくもないか」



 ヴェニカにある非公認の情報屋を片っ端から当たっていけば、何かしらの情報は得られるかもしれない。



「いや、もうほぼ全部回ったけど、やっぱりどこも『幽霊』の情報については持ってなかったぜ」


「さすが仕事が早い、と褒めてやりたいところだが、ならなんで非公の話をした」



 ルークは、本日何度目かのため息をついた。



「だあから、人の話は最後まで聞けってば!」



 短気は損気だぜ、とどや顔をされ、ルークはラディスに本日何度目かの殺意を抱いた。

 隣で恐ろしい形相をしているルークのことは気にも止めず、マイペースにラディスが喋りだす。



「ここしばらく、ヴェニカのいろんな非公に入り浸ってたんだけどさあ、ちょおっと面白い話を聞いたんだよね」


「幽霊の話じゃなくてか?」


「幽霊の話も聞いたけど、俺がさっき話した情報以外は集まんなかったんだよ。それじゃなくて、また別のおはなし♪」



 『幽霊』と同等に、こいつの琴線に触れた話か。


 それだけでも充分にルークは興味をひかれた。




「俺としてはさあ、もう全部の非公回ったつもりだったんだよ? ヴェニカにある非公の数だって、前以て調べてあったし、その全てはこの半月で回り尽くして、ああやっぱり『幽霊』の噂なんて金になんねえ情報、どこも持ってねえなあって諦めかけてたんだ」



 半月で、あの大都市ヴェニカの、ほぼ全ての非公を調べ尽くすとは。


 相変わらずそういう仕事を任せたらピカ一だな。


 ルークは心の中で、ラディスに称賛を送った。

 ……実際に口に出したら調子に乗るから言わないが。



「土産話のひとつも用意できなかったが、そろそろあんたに顔見せなきゃまずい。そう思って引き上げようとしたとき、『ある非公』の話を聞いたんだ」


「ヴェニカのか?」


「そう! 『ほぼ』全部回ったって言ったろ? 全部回ったつもりが、全部じゃなかったんだなあ、これが!」


「下調べの段階で、お前の情報網に引っ掛からなかったのか」



 珍しい、とルークは目を見張った。



「そうなんだよ。ひっさびさの強敵。腕がなるぜ~♪」



 ある意味出し抜かれたというのに、ラディスはずいぶんとご機嫌だ。



「その非公ってのは、客を選ぶ。完全紹介制だ。その紹介の仕方が、か~なり回りくどい。だが、腕はたしからしいぜ。だから、客は後を絶たない。なんせ、他で手に入らなかった情報も、ここでなら手に入るって言われてるくらいだからな。みんな『紹介状』を持ってるやつを、血眼になって探してる」



 そこへたどり着くための最初のステップが、その『紹介状』を手にいれることなのだ。

 それがなければ、決してたどり着くことはできない。

 ヴェニカのどこかに、『紹介状』を持っている者たちがいるらしい。

 ただでさえ、ヴェニカは大都市である。

 そのうえ彼らは、すっかり街に溶け込んでしまっているらしく、見つけ出すのはとても困難だ。

 困難だが、見つけ出す手立てはある。

 『合言葉』があるのだ。

 それを、街行く人に片っ端から試していけばいい。

 その『合言葉』とは、



「『夕やけが綺麗に見えるところを知っていますか?』

って、尋ねるんだと」


「夕やけ?」


「そう。んで、『知らない』と答えられたら、ハズレか『紹介状』を渡す価値がないと見られたかのどちらかだ。言ったろ? その非公は、客を選ぶんだよ。アタリで、客として合格だと見なされたときにやっと『紹介状』が渡される。そんで『必ず、夕やけが見える時間帯に行ってください』と言われるらしい」



 本当に回りくどいやり方だな、とルークは顔を顰めた。

 そして同時に、ここまでして客を選ぶ理由が気になってくる。


 「ここで注意しなくちゃいけないのが、ちゃんと夕やけが見える時間帯に行くことだ」



 ラディスが神妙な声色で続けた。

 渡された紹介状はどこかの地図らしいが、時間を守らないと、本当にただ夕やけが綺麗な丘へとたどり着いてしまうのだという。



「運よく、それを渡した相手をもう一度見つけ、文句を言ったところで、『夕やけがきれいだったでしょう?』と言われて終わりだ。相手は、嘘はついていないからな。その次の日に、今度は時間帯を守って行こうとしてもアウト。どうやら、チャンスは一度きりらしいぜ」



 その非公について、わかっていることは今はこれだけだ。

 肝心の、実際に行ったことのある人の話は、出回っていない。


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