6 『次なる手がかり』
「その情報が正しければ、『クロ』の可能性は充分にあるな。黒髪なんて、そうそういるもんじゃない。……問題は、どう誘き出すかだが 」
迷いこんだふりをするか? という提案に、ラディスは首を横に振った。
「そいつは、いい案じゃねぇな」
「なぜそう思う?」
「俺らより前にさあ、おんなじことやったやつが何組かいたんだよ。そいつらは『クロ』かもしれないと思ったわけじゃなくて、ただ単に噂の幽霊の正体拝んでやろうっていうだけだったらしいけどな」
そいつらの一組が余計なことしてくれやがって、と言いながら、ラディスは右手で乱暴に頭を掻いた。
「ほとんどは、幽霊に会えなかったらしいけど、何組かは会えたんだ。そして、その中の一組が、その幽霊を捕まえようとした。
ただ正体を暴きたかったのか、捕まえて『見世物』にでもしたかったのか。まあ、それはわからねえ」
そいつらは、笑い声が聞こえてくると、途端に角を曲がって、そのままその次の角まで走った。
そこに幽霊がいると思ったのだろう。
しかし、何もいなかった。
そうしてその後、いくら耳を澄まして待っても、笑い声はもう二度と聞こえてこなかったらしい。
「それに、暗くなるまで粘ったから道がわからなくなって、そいつらは本当に迷子になっちまって、朝まで最奥から出られなかった、ってオチつき♪」
ラディスは、わざととしくおどけてみせた。
しかしその声の中には、たしかに苛立ちが混じっていた。
「それは、たしかに余計なことをしてくれたな」
眉間に皺が寄るのが、自分でもわかった。
一瞬『囮』を使う案が頭をよぎったが、すぐさま却下する。
そういう手を使うのは、あまり好みではない。
それに、もしその幽霊が『クロ』なら、ヤツにそんなお粗末な手が通じるとは思えない。
「……で?」
「ん?」
「おまえが、そんなちゃちな情報だけで報告してくるわけないだろ」
続きがあるんだろ、続きが。
当たり前のように寄越されたルークの言葉に、ラディスは少し目を見開き、それから楽しそうに笑った。
「ずいぶん信頼してくれてるのね」
「なんでちょっとオネエっぽいんだ」
「いやあ~? なんとなく?」
ラディスは、くつくつと愉快げに笑い続けている。
いったいなにがそんなにツボに嵌まったんだ?
」ルークが少し不思議そうな顔をしているのを見て、その笑いはますます抑えられなくなったようだった。
「あ~まったく! これだからあんたの部下はやめられねえなあ!」
「なあ!」と大きな声で、ラディスが周りの部下たちに同意を促すと、彼らはみんな力強く頷いてみせた。
部下の気持ちがわからない。
なんだ仲間ハズレか、と少しいじけた気持ちになる。
まあ、でも部下をやめる気がないってことは悪いことじゃないだろう。
そう判断してルークは深く考えることを放棄し、ラディスに話の続きを迫った。
「はいはい、我らが上官様のご期待に沿わしていただきますよ~っと」
機嫌よさそうに、ラディスが話始めた。
「今日俺、喋りっぱなしじゃね? まあいいや。で、そういうわけで直接『幽霊』を捕まえて正体暴こうってのは、まず無理だ。そ・こ・で! 情報屋を使う」
「情報屋?」
情報屋というのは、どこの街にもひとつずつはあるもので、主に旅人たちが利用するものだ。
この世界には、まだまだ未開拓の土地がたくさんある。
その土地を開拓しようとする旅をするものたちにとって、情報は時に自分の生死をもわけるほど、大切なものだ。
よって、国は旅人たちのために、街にひとつは国公認の情報屋を配備していた。
旅人たちが新たな土地を開拓してくれれば、それはそのまま国益になるからだ。
もちろん、旅人たちだけが利用するわけではない。
街の人間にとっても、情報屋は欠かせない存在だ。
世界情勢から生活の知恵まで、さまざまな情報を得るために利用されていた。
街にとって情報屋は、世界との窓口の役割を担っていると言ってもいいだろう。
「いくらその街の情報屋でも、『幽霊』のことなんて、知っているか?」
情報屋は、自分の街の情報ならなんでも知っている。
そう言われるほど、自分の街については詳しいものなのだ。
しかし、だからと言って、『幽霊』の情報まで知っているとは思えない。
情報屋が持っているのは、旅人や街の人間の役に立つ情報がメインだ。
情報を教えてもらうのも、ただではないのだ。
興味はそそられるかもしれないが、わざわざ買おうとする人間はごく僅かだろう。
そんなごく僅かのために手にいれるには、苦労ばかりで割りの合わない情報だ。
「公認のほうはそうだろうな。俺の言ってる情報屋はそっちじゃねえ。……非公認のほうだ」
ラディスが悪い顔をして笑った。