4 『朝ごはんという名の作戦会議』
テーブルに荷物を置くと、上からメリッサが降りてきた。
ふわふわと癖のあるチョコレート色の髪に、同じ色の瞳。
健康的に焼けた肌に、引き締まった体。
どこから見ても、色気のあるいい男だ。
……黙ってればね。
欠伸してる姿も絵になるな、と思いながら声をかける。
「おはよう」
「おはよう、メリッサ!」
メリッサは眠そうな顔をしていたが、こちらを見た瞬間、すごいスピードで近づいきた。
そしてその勢いのまま、アメリアと共に力いっぱい抱き締められる。
「ぐっ……!」
「おはよう! アタシのスウィートエンジェルたちっ! ああん、もう! 今日も朝からかわいいわあ!」
食べちゃいたい! と言いながら、メリッサは二人の頬に思いきりキスをした。
く、くるしい!
なんとかたくましい胸板から逃げ出す。
メリッサは、見た目は男性だが、口調や性格は……なんというかこんな感じなのだ。
一度、恋愛対象はどちらなのだろう?と思って聞いてみたが、「ひ・み・つ♪」と言って微笑まれてしまった。
……もう二度と、聞かないと心に誓った。
大体、どちらでもかまわないのだ。
メリッサは、メリッサだ。
大事な仲間に、かわりはない。
アメリアは、まだきゃあきゃあと嬉しそうな声をあげて楽しんでいた。
同じ怪力同士、力加減は調度いいのだろう。
それに一般人を巻き込まないでほしい。
そう思いながら、買ってきたものを冷蔵庫にしまう。
「ほら、いい加減いちゃついてないで朝ごはんにするよ」
「「はあ~い」」
まったく、こんなときばかりいい返事だ。
朝食は、簡単なもので済ませることが多い。
今日も、パンをスライスしたものに、各自好きなジャムやクリームを塗って食べる形式だ。
それに、アメリアが飲み物を用意してくれる。
料理はレイの領分だが、店のメインである喫茶関係のものは、アメリアの領分だ。
おいしい飲み物が飲みたいなら、アメリアに用意してもらうに限る。
いつも通り、レイにはエスプレッソ。
メリッサと自分の分はカプチーノを用意して、アメリアが席についた。
それを確認してから、レイが口を開く。
「じゃあ、"朝ごはん"をはじめようか」
その一言で、今日も朝ごはんと言う名の"作戦会議"が始まった。
みんな好きに食べながらも、情報交換をする。
「メリッサ、この間の獲物はどうなった?」
「ばあっちり♪ 今回もいい値になったわ」
「さっすが、メリッサ。こっちは、今のところ目ぼしいところはないな。だから、情報集めに明日か明後日にでも、久しぶりに潜入してこようと思ってる」
「え~!? だめだよ! 久しぶりじゃないよ! ついこの間行ったばっかりだよ!」
「そうかあ? そんなことないよなあ?」
「そんなことあるわよ。アメリアの言うとおり! あんまり頻度が高いと、リスクも高まるわよ。しばらく大人しくしてなさい」
「え~……」
なんだよ、潜入する気満々だったのに。
新しいカツラも作ったのになあ。
レイは、しょんぼりしながらエスプレッソを啜った。
「そんなことより、聞いて! 『クロ』の担当責任者がまた変わったらしいの」
「またあ? ころっころ変わるもんだなあ」
まあ、無理もないと思うけど?
軍はまだ、『クロ』の姿かたちどころか、影すら捕らえられていない。
やられっぱなしもいいところだ。
怪盗『クロ』は、天下の大泥棒だから仕方ないけどね。
「レ~イ! にやにやしない!」
メリッサに注意されて、慌てて口元を引き締める。
おっと、いけないいけない。
「で? 今度はどんなやつなの?」
「……それがさあ、今回はちょっとやっかいかもしれないんだよね」
「え! まじで、誰!?」
「アタシ、知ってるわ。 あのいい男でしょう?」
二人ともすでに知っていた事実に、レイは驚く。
まだまだ情報線では二人には敵わないな、と肩をすくめた。
「しかし、まさか『氷の王子様』を引っ張ってくるなんてね」
「ねえ。まあ、軍もそれだけ焦ってきてるんだろうね。庶民からはいいとして、貴族からは散々苦情きてるんじゃないかな」
面倒くさいことになりそうだ、と二人はため息混じりで話している。
「『氷の王子様』か」
さすがに、その名前は知っていた。
ルーク・アイスブラッド少佐。
綺麗な見た目と、氷のように冷たいその態度から、ついた渾名が『氷の王子様』。
とても優秀で、仕事が恐ろしくできるらしい。
出世も早く、若くして少佐にまで昇りつめた、今軍の中で一番勢いのある人物だ。
一度、顔をちゃんと見ておきたいな。
やっぱり二人に内緒で、潜入するか?
なんてことを考えていると、アメリアが更なる爆弾を落とした。
「……それがさあ、その少佐、今この街にきてるらしいよ」
「「え!?」」
「……しかも、なんと『喫茶店夕やけ』を探してるんだって」
「「え!!!???」」
アメリアの爆弾に、思わずメリッサと共に立ち上がる。
おいおいおい、少佐!
それはいくらなんでも、仕事が早すぎるだろ!?