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1 『プロローグ』
はあ、と乱れた息を整えると、白くなって消えた。
冬の凛とすんだ空気が、痛いほど冷たい。
もう、気付くころだろうか。
そう思い、誰もいない路地で耳を澄ます。
それを待っていたかのように、少し離れた場所が騒がしくなってきた。
誰かが叫ぶ。
「『クロ』だ! また『クロ』にやられた!」
その言葉が聞きたかった。
緩む口元はそのままに、袋小路の路地の奥へと進む。
そしてそのまま、その姿は見えなくなった。
まるで、先ほど吐き出された吐息のように、
――――――――深い夜に溶けて消えた。