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初陣/テキエイイマダミエヌ

 


 ──「operetion start 」



 一瞬の浮遊感が身体を支配する。

 

 ──そして。


 静かだ。動植物の気配はない。

 少女たちが降り立ったのは、「デザート・エリア」と呼ばれる、広大な砂漠だった。

 一体どれほどの広さなのか。事前に説明を受けてはいた。しかし、こうして実際にその場を目の当たりにすると、砂漠のことについてのみに飽き足らず、習ったこと──それに覚えたことの全てが、堰を切ったように抜け落ちていく。分からなくなる。不安になる。恐怖に苛まれる。訓練で習ったことなど、実地ではほんの少しも役には立たないのだと、否応なしに実感させられる。


 降り立った少女たち。その数は六。各々が携行しているガンディールは、改造されてはいないように見える。つまり、出荷状態のままだということだ。全員が未改造の同じ型番のガンディールを携行していることから、彼女たちの部隊が新米の小隊であることは間違いないだろう。「トップランカー」──数ある部隊の中でも、上位のランクに位置する部隊に所属する者達はみな、アブノーマルを好む──「尖りに尖らせた」自分専用のガンディールのみを愛用する──のだから。

 少女たちの一人、栗色の髪の少女が、一度辺りを見渡してから仲間たちの方へと振り返り、砂漠に降り立ってからこの方、初めての声を上げた。


「みんな、準備は良い? 奴等が出現するまであと五分だって! さっきオペレーターから連絡が入った!」──栗色の髪の少女はそう言いながら、耳に嵌めた小型情報通信端末ユニット──「インカミール」をこつこつと叩いた。

 栗色の髪の少女の言葉に、残りの少女たちが頷きを返し、より一層表情を引き締めた。少女たちに、否が応でもこれから戦場に向かう──否、今いる「ここ」こそが戦場となるのだ、という実感が生まれていた。抑えきれない緊張や不安。そして恐怖。手が汗で滲む。果たしてそれは、砂漠の温度のせいなのか、それとも恐怖によるものなのか、彼女たちには考える暇もない。

 残された時間は多くない。少女たちは教えられたマニュアルの通りに、手短にかつ丁寧にガンディールの最終調整を行っていた。その間にも、砂漠の砂と熱が押し寄せてくる。頬に砂が飛来し、皮膚が切れた。血が流れ出す。痛みを感じる。相も変わらず砂漠だ。灼熱で頭がどうにかなってしまいそうだ。しかし少女たちは、それらの砂や熱と同時に、不自然な「寒気」をも感じ取っていた。……奴等が現れようとしている。


 透き通るような水色の長髪を持つ流麗な美少女──ユミィル・アウトローは、栗色の髪の少女を除く他の四人の準備が完了したことを視認すると、重々しく口を開いた。少女の手に携えられたガンディールには、五人共、ガンディールの起動準備完了を示す輪状の魔法印が二本、銃身を纏うようにして、十字を結びながら回転していた。もちろん、栗色の髪の少女のガンディールにもまた、起動準備完了を示す魔法印が現れている。


「メリュー隊長。我らが五人の最終確認、完了致しました」副部隊長であるため、一同を代表して部隊長であるメリューへと報告を行うユミィルの表情は、真剣そのものだった。

 メリューと呼ばれた栗色の髪の少女は、鷹揚に頷きを返し、「私も準備完了。みんな、行くよ」とだけ告げると、腰回りを覆うように装着されているアクティブ・ユニット──飛行用、「バージョン・スカイ」を起動させた。ユニットは光を放つと、下降へとユニットに備蓄された飛行エネルギーを放出し、上空へと舞い上がった。が、上空へ舞い上がると同時にエネルギーの光が消える。エネルギーが放出されるのは最初の昇降と、急なスピードアップの時だけで、静止時には可視化されるほどの大量なエネルギーは必要とされないために、不可視となる。ただしその間にも、体勢を維持するだけの微弱なエネルギー放出は行われ続けている。

 また、アクティブ・ユニットは各自のガンディールと連動しており、ガンディールの起動準備が完了し──その合図として二本の魔法印が出現すると、自動的にセーフティ・プロテクトが解除され、後は使用者がユニットの起動を願うだけで、起動が完了するという仕組みになっている。


 上空からメリューの声が地上に響く。

「飛行ユニット組は私と一緒に偵察へ。陸上ユニット組は私の指示があるまで待機!」

 言い終え、メリューがふぅ、と息を吐く。

 その言葉を合図に、偵察組の残りの二人が飛行ユニットを起動させた。ユニットはすぐさま起動を完了し、飛行エネルギーを放出しながら上空へと舞い上がっていく。 

 ──ほどなくして、飛行チームの三人は空中にて合流を果たした。その顔に先程までの緊張は見られなかった。良い具合に各々で消化してくれたようだ。「ふぅ。初任務、ドキドキワクワクっすね!」赤髪と褐色の肌を持つ少女、マルッキオ・ペイン。「き、緊張しますぅ......」肩口で切り揃えた黄色の髪の明るさが目立つ少女、ルーシー・キャロル。こちらは消化しきれていないようだった。「大丈夫だよ! 頑張ろう!」二人に声を掛けるのは、本舞台の部隊長である──栗色の髪の少女、メリュー・エルルク──。

 メリューは最後に、「敵影を捉えたら、すぐに連絡するから!」と待機組の三人に大声で告げると、昔からの友人である透き通るような水色の長髪が印象的な美少女──マルチノ・レインダーワースが、「オーケー。気を付けて。くれぐれも無理は禁物だよ。危なくなったらすぐに連絡してね」と、報告の時とは違う、いつも通りの口調で返してきた。残りの二人──シャルロットとドロシーも、めいめいに返事を返してくれた。


 (──よしっ。今のところは順調!)


 運悪く、初任務での部隊長を任命されてしまったメリューは、ここにいる誰よりも不安だったものの、さしたるアクシデントもなく順調に作戦が進んでいることに安堵し、えへっ、と密かに微笑えんだ。

 そしてメリューは、地上組の三人から踵を返すと、共に滞空しているマルッキオとルーシーを見つめた。二人もメリューを見つめていた。その眼差しからは、強い意志が伝わってくる。先ず、緊張しているのかしていないのかはひとまず置いておくとして、何よりも高揚感を抑えられない、といった様子のマルッキオが頷き──次に、不安気な様子のルーシーが、それでいて不思議と意志の力を感じさせながら、マルッキオと同様に頷く。そして最後に、二人を一度見回してから、メリューはそっと頷いた。


 ──そろそろ時間だ。

 もう逃げられない。やるしかないんだ。

 メリューは、部隊長としてのプレッシャーと、メリューという「一人の少女」としての恐怖や不安に押しつぶされそうになりながらも、吹きすさぶ砂のせいで未だよく見えない前方をしかと見つめ、そして──、


「ゲアルニカ──、私達が絶対に倒してみせるんだから」──と呟いた。

 

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