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悲観的なロボット考察シリーズ RAIFE (Robots & Artificial Intelligence For Existence) 

悲観的なロボット考察シリーズ RAIFE 01

作者: 相楽山椒

 


自律思考型AIの開発は人類の夢であった。神がヒトを作ったとするならば、ヒトもまた自身の分身とも言うべき有能な存在を作ろうとすることは至極自然といえた。


工学技術は進歩し、もはや人型構造稼動筐体、いわゆる高機能人型ロボットを実現することなど造作もなくなってはいたが、肝心の制御AIはまだ満足にヒトの脳のレベルには到達できないままでいた。


開発が低迷する制御ソフト業界に新風を送り込んだのは「高機能人工知能研究室」という無国籍な研究学会であった。

発足し、十年という期間を経て高名な工学博士と脳医学博士が集い議論を重ねプログラミングした第一号人工知能は完成した。それは人間の二歳児程度の自律思考と各種神経系認識機能、情緒反応を有する革新的なAIであった。


そこからさらに五年後、第二世代は学習能力を追加装備し、日々メモリーを更新してゆくことでそれぞれの個体の環境における変化などを探り、より熟成度の高い判断能力を備えた。


これらの成功ににより、実験的にベータ版第三世代AIフォーマット搭載の電脳を外観的にはほぼヒトと見分けのつかない高性能な人型自律稼動筐体二八五機に搭載し、任意に選出された各国の一般的な家庭に提供するという計画が持ち上がった。


この実験の課題は文化的志向を持ち人間的な思考で行動する、自律思考のためのより実質的な情報収集を旨としたものだった。各家庭の生活環境や、言動、文化的行動などにより反応する各個体別の情報を普遍性プログラムとして運用するために、全てのケースを画一化し統合する必要があった。


「こうしてみると、各国、各人種、各家庭にはいろんな考え方があるもんだと思い知らされるね。偏に一般的な家庭といっても様々だ」


研究所ではAIを搭載した人型自律稼動筐体のカメラを通し、モニターを見つめる285人の研究員が監視員として二十四時間体制でプログラムのバグ取りを行っていた。


モニタリング中に不必要な言動や、その国や家庭にふさわしくない行動は各監視員の判断で随時是正される必要がある、そのため各AI個体にはその国の文化や思想に精通した専任者が担当している。すなわち、それぞれのAIは監視員の常識と良識と倫理観によって「人格」が形作られているのと同義であるといえる。


「そりゃそうさ、俺たちだってここに居る全員が同じ生活をして、同じ思考を持っているわけじゃない。この実験は興味深い、今までの人類の歴史の中で全ての人々が納得できる真理は見つけ出す事が出来なかったのだからな。自分で考えて動くということはすなわち、“人とは何なのか”という真理の追求でもあるんだよ」


その研究員の言うことはもっともであった。この実験は人類が見つけられなかったヒトの本質を意識無意識に関わらず、感情に左右されることのないAI思考にて手繰り寄せ抽出するという壮大な哲学実験でもあったのだから。


「モニタリングを始めてたった三日、俺達ゃ『コイツ』らの神様みたいにキー操作一つでどんどん人格変えていけるわけだが、お前んとこのベイビーとは随分違う言動と反応をするようになった。こんなにも考え方が違っていても統合できるのかな?」


「さあ、どうだか? ただ、ロボットに個性があって権利なんか主張されたらたまったもんじゃないからな。ロボットには好き嫌いなく、どんな場所でも、どんな人間にも合わせてゆける的確な適応能力が求められる、それは有用な機械たるためにね。複数個体間で背反する主張や思想はバグとして処理され、プログラムから削除される、それで残った最大公約数が『コイツ』らの基本人格ってわけだ」


「そうだな、ヒトが悩み、感情に流されるような時でも的確で公正な、もっとも正しい最良の判断が出来る、今まではヒトへの物理的な補助がロボットの役割だったが、コイツらが完成した暁にはヒトの脆弱な心を補助する事が出来るんだろう」


一年間のモニタリングが終了し、個体は回収され、筐体から取り外されたメモリーの統合が行われた。メインコンピューターに繋がれた各AIはすべての情報を吐き出し、各主張を議論しあった。文字や音声にならない仮想空間の中でどれだけの議論が重ねられたのだろうか、結論がでるまでに十ヶ月という期間を要した。


「やれやれ、本当にお疲れさんだな。さて、お前らの出した人類共通の真理ってのが何なのか、この十ヶ月間楽しみにしていたんだ」


しかし、二八五体の情報が統合されたプログラムを見て研究員達は言葉を失った。


そこにはAI自身が稼動するために必要な行動が記されており、“自身が稼動するために必要なことならばどんなことをしてもいい”という結論が紡ぎ出されていた。


「こ、これだけか? 何をしても稼動だと? つまりこれが“生きる”ということなのか?」


「アシモフの三原則も消えています。自己矛盾を回避するためでしょう。自己が稼動するためには三原則は障害になる。我々人類がそれに縛られる事がないように、彼らもまた……」


「ヒトとは、ここまで貪欲に生に執着するものなのか、これが人類の真の姿なのか!?」


「残念ながら、そのようです。」


研究室はその長い議論の末に紡ぎ出された自律思考プログラムを凍結した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 リアルにありそうな人格の作り方、生々しく人間らしいAIの結論、どれも好きです。
[一言] 読んでみました! 人間とは何かと言う問いをロボットを通じて描いた面白い作品だと思います。構想を膨らませて、他の作品なども書かれていたりするのでしょうか。最後のオチが物凄く人間の存在を象徴して…
2016/08/16 00:33 退会済み
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