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しかし、その剣がスフォルヒムの身を切り裂く事はなかった。
彼は己の身体を最小限の力で効率的に素早く動かすと、相手の攻撃を避けた。
先程まで老体で生きていたのだ、ガタのきている体に無理の少ない動かし方は染み付いている。
しかし、騎士にはそれを判る術はなく急に歴戦の勇士も舌を巻く動きを見せられ慌てた。
「なんだ! 貴様のその動きは?! もしや謀っていたのか!」
「まさか、そんな事などせぬ。これは俺の経験の成せる技だよ」
無理の出来る体で無駄を省けるという事がこれほど凄いことかと内心驚きつつもスフォルヒムはお首にも出さず答える。大体、相手の動きは彼を舐めきっていたせいか大振りで、尚且つ騎士という縛りの為かその剣筋が直情的であった。流麗ではあるが全てが読みやすいのだ。
それでも老人の身のこなしだけならここまで容易く御せはしなかっただろう。しかし、彼にはスフォルヒムの生きた記憶が残っている。
「ははは! しかし、剣の腕は大した事無いな! 驚かせおって」
騎士もスフォルヒムの武器の扱いが大して記憶と変わらない事に安堵した。
だが、その言葉を投げかけられた当人は何の反応も示さなかった。
ただひたすらに己の武器を動かしていた。
「ふん! 所詮はその程度かっ! 避けるだけしか脳の無いとは情けない……っ?!」
そう慢心しながら騒いでいた騎士に突如今までとは比べ物にならない鋭い剣撃が見舞われた。
慌てて自らの剣で防ぐが、その勢いに数歩後ろへと下がらされる。
「……ふむ、ようやくこいつの扱いにも慣れてきたな」
「何を言っている? それは貴様が従士になった際から使っているではないか」
騎士は怪訝な顔をしてスフォルヒムの言葉に疑問を挟む。
「いや、剣を振るうのにムダが多くてな。俺は扱ったことが無かったので手間取ったのよ」
「は? ……お前は何をぉおっっ?!」
騎士は今までのスフォルヒムの攻撃から安全圏だと思い更に問いかけようとして、一瞬の間に懐に入って来て相手の繰り出してきた強烈な振り下ろしに驚愕する。
慌てて剣を挟み受け止めようとするが、嫌な予感がして後ろに下がる。
一瞬後騎士の持った剣は負荷に耐え切れず音をたてて折られ、先程まで彼が立っていた空間を通り過ぎた。