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「ははは! 死ぬ前に気でも狂った! どう足掻いても貴様は俺に手も足も出んことは先ほど思い知っただろうに」
そう言いながら、血まみれの剣を構える騎士。口や性格は良くないが構えた姿は様になっている。
この体の持ち主の記憶をさらって見るがスキ等は殆ど見当たらない。また、自分の記憶は調べるべくもない。幸か不幸か老人に従軍経験は全くないからだ。
「いや、せっかく今生を謳歌する機会を得られたのにみすみす逃すのも勿体なかろう?」
「? 何を言っている。それにそのおかしな口調はなんだ」
「多方気でも狂ったのだろうさ、口調ごとき気にすることでもないじゃ……ないだろ?」
「それを貴様が言うか!」
その言葉に騎士は、スフォルヒムが自分を挑発してきたのだと誤解し激昂した。彼は騎士には重要である冷静さが殆ど無い様で、面白いほどに周りが見えなくなっている。
しかし、老人は相手が何故怒ったのか理解できず困惑する。
現在騎士との会話がスムーズに出来るのも、この状況がどこか現実とは思えず痛みを感じていてもゲーム感覚の捉えている為である。また、老人は人の機微を察する能力を余り持ち得ていないので相手が怒る理由を察することが出来ない。
そのような事が少しでも出来ていれば孤独死なんてしないのだ。
「青年よ、もう少し冷静になれ。所詮こちらの戯言、ムキになるのが間違いだ」
「またもやこちらを愚弄しおって! 手加減しておれば付け上がるとはもう終わりにしてくれる!!」
そんな訳で、落ち着かせようとしたスフォルヒムの言葉は騎士を怒らせる事しか出来ない。
我慢の限界を超えたのか、騎士は言うやいなやこちらへと駆け寄ると剣を振り上げ袈裟斬りを仕掛けてきた。
その動きを見たスフォルヒムはそのあまりの速さに舌を巻く。
「これはすぐさまあの世へ逆戻りか」
自身の身体を必死で動かそうとするが、予測では相手の剣は避けきれず重症を受けるだろうと感じた。
「諦めて死ぬがいい! そして我が家の礎となれ!」
騎士は自身の剣が相手に当たると確信し勝ち誇る。