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セツナワースト  作者: レッドキサラギ
第二話 島の掟
5/11

003

『いやぁ、今日の試合は見物だったな!』


『ああ!だがあの女が優勝するとは思わなかったぜ!すぐくたばっちまうと思ったのによ』


「…………」


「…………」


 僕と貴船は、試合の終えたコロシアムを後にする。

 向かうのは、選手控え室。と言っても、その控え室には一人しか人がいない。なんせ、他の選手は皆、死んでしまったのだから。

 アイツに……僕は糸島に会わなければならない。会って、真相を掴まなければならない。

 アイツが好んで殺し合いなど、する筈が無い。何か、意図があるはずだ。


「あっ!刹那さん!あれ糸島ですよ!」


 貴船が指差す方向。そこに、糸島はいた。

 何やら刑務官と話しているようだった。


「これが優勝賞金の五〇〇〇ポイントだ。受け取れ」


「……騙したわね」


「騙した?何をだ?」


「あんた等はあたしを騙したじゃないか!あたしは聞いてないぞ殺し合いなんて一言も!」


「ああその事か……でも優勝出来たのだからいいじゃないか」


「よくない!人を殺すなんて……あたし……本当の殺人犯じゃないか……」


「その前に貴様は囚人だ。囚人が人を二、三人殺したところで屁でも無いだろ?」


「!、このっ!!」


「やめろ糸島!」


 殴りかけた糸島を、僕は大声を張り上げて止める。

 

「あ……アンタは……」


 すると、糸島の動きはそこで止まる。

 止まったまま、僕の方を見つめる。


「そんなクズを殴ったところで人は蘇らないし、お前が反逆罪に掛けられるだけだ。だから……止めとけ」


「……っく!」


 糸島は振り上げた手を、今度は力一杯振り下ろし、地面を殴りつける。

 言う事を聞いてくれて良かった。ああなった時の糸島は時々、手が付けられない時があるからな。


「クソ……収容者如きが嘗めやがって!」


 すると、刑務官は拳銃を懐から取り出し、それを糸島に向ける。

 まさか……撃つつもりか!


「……いいわよ。撃ちなさいよ。あたしは人殺しにまで廃れちまったんだ。もう……生きていく意味なんて無い」


「ぐっ……!?」


 刑務官は身構えをする。だが、射撃はしない。

 糸島の威圧感に圧倒されているのだろう。

 チャンスは今しかない!


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 僕は走り、刑務官にタックルをして突き飛ばす。

 刑務官の手からは拳銃が離れ、路上を滑っていく。


「貴様!何をする!」


「糸島!早く拳銃を回収するんだ!」


「えっ……あっ、うん!」


 糸島は、はっと我に返り、急いで刑務官の落とした拳銃を回収する。

 僕はその間も、刑務官を取り押さえる。


「よし、貴船!何か縛る物は無いか!?」


「会場の整理に使われていたロープがあります!」


「よし!それでコイツを巻きつけろ!」


「はい!」


 貴船は張り巡らされているロープを手繰り、それを刑務官の体に巻きつけていく。

 もしコイツが逃げて、他の刑務官に知らされたら厄介な事になる。


「悪いが少しここで大人しくしていてくれよ」


 ロープが巻かれ、まるで蓑虫のような姿になった刑務官を選手控え室に閉じ込め、刑務官の持っていた鍵を使って扉を閉める。

 

「ふう……とりあえずこれで大丈夫だな」


「……ありがとう」


 糸島は呟くようにして言ってから、頭を下げる。表情は、曇っている。

 どうやら、かなりショックのようだな。まあ、無理も無い。その手で人を五人も殺してしまったのだから。


「まあ、な。それより、何でコロシアムに出場したんだ?」


「……あたしは騙されたんだ」


「騙された?誰にだ?」


「……刑務官にだ」


「刑務官に……どうやって騙されたんだ?」


「……刑務官に……コロシアムに出たら……賞金が出るって……競技は一〇〇メートル走だって……そう聞いたから」


「一〇〇メートル走だと?」


「あたし……スラムにいた時足が速くて有名だったからさ……アンタが一番知ってるだろ?あたしの足の速さ……」


「ああ……よく知ってるよ。確かにお前の足の速さは速い」


 糸島がまだスラム街にいた時、僕はある重要機密資料を求めて彼女を探していた。

 その時僕は、彼女を追ってスラム街を走ったものだ。まさかあそこで、ペンタゴンの機密事項を知る事になるとは思いもしなかったが。


「だからさ……それなら出てみようって思ったのよ……だけどコロシアムに入ったら殺し合いだって……あたし……あたし……人を殺しちゃった……どうすればいいの……」


「…………」


「ねえ……答えてよ……あたしは表の事を知らないんだ……アンタなら知ってるんだろ?表のケジメのつけ方をさ……」


「……抱え込むな」


「えっ……」


「一人で抱え込むな。悪いと思っているんだったらそれを越える良い事をすればいいんだ……もうこんな事が起きないようにな」


「うぐ……何よ……そんな事……言われたって……ひっく……あたしは……ひっく……泣かない……えっ!!」


 僕は小さな糸島の体を、そっと抱いてあげる。

 それ以上、自分で苦しまないように。それ以上、自分を傷つけないように。


「うぐ…………うわあああああああああああああああああん!」


 糸島は声を出して泣き始める。今まで我慢していた物を、全て吐き出すかのように。

 彼女は何も悪くない。悪いのは、彼女をこうした未来の方だ。

 こんな未来……僕は許さない。希望も夢もあったものじゃない。

 修復できる過去があるのなら、修復されている未来もあるはずだ。だったら僕が、こんな腐った未来を変えてやる。

 ……絶対にだ。 


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