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セツナワースト  作者: レッドキサラギ
第二話 島の掟
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002

「はあ……何とか生きて帰ってこれたな……」


「そうですね……」

 

 エキサホルムを六時間かけて一〇個掘り起こした僕と貴船は、無事トロッコに乗って地上へと戻ってくる事が出来た。

 真上にあった太陽は、いつの間にかもう暮れ始めている。と言っても、この太陽はもちろん擬似太陽であり、本物ではない。

 僕達の掘ったエキサホルム、かつてこれを巡って未来では核戦争が起きた。地球全土が汚染され、人類は人工島の上で、隔壁に放射線が遮断された場所でしか生きていけない。

 それが、人類が歩んでいく未来。とてもじゃないが、皮肉としか思えない。


「よし、収容者はこの場に並べ!これより労働報酬として八〇〇ポイントを配布する!収容者は作業服に着いている収容者バッジを刑務官に差し出すように!」


 刑務官の合図と共に、僕達収容者は一斉に並び、収容者バッジを刑務官に渡していく。すると刑務官はコードリーダーのような物を取り出し、それにバッジを通した後、再びバッジを収容者に返していく。

 これでポイントが入ったという事か。何というか、スーパーマーケットのポイントカードと同じ原理だな。


「八〇〇ポイントって言うと……三日分か。なかなか貰えるな」


「刹那さんは三日分かもしれませんが、僕には一日分しかないんです。三食食べたらですけどね。一日二食にすればどうにかなるかと……」


「それでも二日分か……」


「まあ大丈夫ですよ。何とか生きていけますから」


 貴船は苦笑いを浮かべてみせる。

 六時間働いて二食で二日分か……やはり割に合わないのは分かっていたが、さすがにこれは酷い。

 働く気が失せるが、働かなければ飢え死にしてしまう。もはや、強制労働だな。


「あっ……そういえば刹那さん、この島にコロシアムがあるのを知ってますか?」


「コロシアム?そんな物があるのか?」


「はい。何でも、賭けをしてポイントを増やす事が出来る施設らしいです。競馬とか競艇とかと同じ原理ですね」


「なるほど……でもそれって負けたらポイント無くなるんだろ?」


「まあそうですね。賭博ですから」


「ううん……」


 あまり賭博をした事が無いから分からないが、ポイントを失うのは現状ではかなり痛い。

 諦めようかと思ったその時、近くを通り縋った収容者の話を僕は耳にした。


『何でも今日のコロシアムは見ものらしいぞ!女が出るって話だぜ?』


『女?そりゃあ初めてだな……どんな奴なんだ?』


『えっと確か……糸島だったか?』


『ううん……知らねぇな……』


「……今の聞いたか」


 僕は貴船に確認を取る。すると、貴船はゆっくりと頷いてみせる。


「はい……おそらく糸島さんで間違いないでしょう。でも何故……」


「とりあえず行ってみるしかないだろ……」


「そうですね……」


 僕と貴船は走ってコロシアムへと向かう。

 コロシアムの前には数多くの収容者が並んでおり、刑務官もその中には混じっている。

 入口では電光掲示板で賭けの対象とその番号が載っており、その中に糸島彩(いとしまあや)の名前も載っていた。


「どうやらそうみたいですね……」


「マジかよ……」


 思わず、絶句してしまう。

 でも、何故糸島がこんなものに参加する事になったのだろうか全く見当がつかない。何か理由があるとは思うのだが。


「入場者は券を購入してから入場するように!一度決めた番号は変える事が出来ないのでご了承ください!」


 係員の誘導に従って、僕と貴船は一枚一〇〇ポイントの券を購入しコロシアムに入場する。

 

「うわ……こんなに人がいるのか」


 コロシアムの会場には、大勢の収容者や刑務官が集まっており、賑わっていた。


「ざっと数千人はいそうですね……どうやらこのコロシアム、一般の入場もしているとか」


「一般も?それって刑務所としてどうなんだよ……」


「まあ一般人と収容者の席は隔離されているようですし、刑務官の見張りもあるんでどうにかなっているんじゃないかと……」


「ここの刑務官も大変だな」


 刑務官に多少同情しつつ、僕と貴船は券に記されてある座席へと移動していく。

 丁度会場が見えるか見えないかの座席。悪くない場所だった。


『只今よりエフティシアコロシアム大会を開催します。選手は前へ』


 場内アナウンスと共に、闘技場のゲートが開き、六人選手が出てくる。

 男だらけの選手の中に一人だけ、茶髪のポニーテイルの少女がいる。手には、二丁の拳銃を握り締めている。

 間違い無い、あの場にいるのは糸島だ。


『それでは試合開始!』


 ゴングと共に、選手は手に持っている武器で他の選手を襲撃する。それはまさに戦場。殺し合いの場所だった。


「何なんだよこれは……ただの殺し合いじゃないか」


 僕は目の前で繰り広げられている光景を見て、愕然としてしまう。

 人の命が賭けの対象とされている。こんな馬鹿げた事が、現実で起こっている状況。

 自然と腕に力が入り、僕は入口で貰った券を握りつぶしてしまう。


「おいおいお譲ちゃん、ここで何をしてるんだい?ここは遊びの場じゃないんだぜ?」


「…………」


「随分と生意気だなぁ?コロシアムを嘗めてんじゃねえぞ!」


 すると、男は手に持っているハンマーを振り上げ、それを糸島に向けて振り下ろす。


「…………」


 だが、糸島はひらりとそれをかわし、男の背後に回りこんでから銃口を男に突きつける。


「ぐっ……なかなかやるじゃねえか……どうした?俺を殺さないのか?」


「…………」


「殺さなければ試合は終わらない……それがコロシアムのルールなんだ……」


「……ごめんなさい」


 糸島は引き金を引き、発砲音が響き渡る。

 人が死んでいく度に、歓声が湧き上がる。ここにいる人達は、おそらくこれはゲームだと思ってみているのだろう。

 だけど違う。これはゲームなんかではない。

 これは戦争……生き残る為には、殺すしかなかった。 

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