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セツナワースト  作者: レッドキサラギ
第二話 島の掟
3/11

001

「ここが鉱山か……でかいな」


「そうですね……予想していたより大きい……」


 僕と貴船が連れて来られたのは、島にある大きな鉱山だった。

 どうやらこの鉱山に掘られている洞窟の中で採掘を行うらしい。洞窟の入口には、数台のトロッコが並んでいる。


「これよりトロッコで鉱山の中へと入ってもらう。収容者は番号通り並ぶように!」


 刑務官の合図と共に、僕と貴船は番号通り並び、トロッコに乗って鉱山の奥へと進んでいく。洞窟の中にはレールが敷かれており、松明だけが光を照らす。

 

「すごいな……」


「そうですねぇ……まるで映画の中の主人公みたいですね」


「そうだな」


 まるで、洞窟探検をしているような感覚に陥る。 

 まあ、今の僕は探検家ではなく、囚人な訳だが。 


「よし、到着だ!トロッコから降りろ!今から各自ピッケルを手に持ちペアで所定の位置につき採掘を開始しろ!」


 用意されたピッケルを手に取り、僕と貴船は指定された位置を掘り始める。

 岩はなかなか硬く、掘り辛い。地道に削っていくのが精一杯だ。

 こんな物で本当に鉱石が掘れるのだろうか?


「そういえば、暑いなここ……」


「そうですね……」


 貴船はピッケルを握りながら、汗を拭う。

 洞窟の中は温度も高く、湿度もある。サイボーグである僕にはないが、これだけムシムシしていると汗が滲んで来るだろう。下手したら熱中症になる可能性もある。

 そのリスクが無い分、僕は気楽に働けるという事か。何かそう考えると得した気分になる。


「とりあえずノルマ達成を目標に頑張っていきましょう。えっと……鉱石一〇個ですか。なかなか辛そうですね」


「そうだな……まあ、地道にやるか」


 削りながら削りながら、僕と貴船は鉱山を掘り進めて行く。

 鉱山の仕事だと、少ない時間で多くのポイントを稼ぐ事が出来る。そう思って来たのだが、どうやらかなりハードな仕事のようだ。

 ピッケルを振る度に、体力が消費されていくのが分かる。倒れるとまではいかないものの、疲労が激しい上に環境が悪い。

 今はまだ、サイボーグであるだけマシなのだが、これが生身の人間だったらどれだけきつい事か。


「よいしょ……あれ?なんか岩とは違う物が出てきたぞ?」


 岩に隠れて、青い水晶のような物が掘り起こされる。これは一体?


「これは……エキサホルムじゃないですか!?」


 すると、その水晶のような物を見て貴船が愕然とする。


「エキサホルム?何なんだそれは?」


「未来で使われている、石油に代わる新しいエネルギー物質ですよ。この鉱石の中には石油の五倍近くのエネルギー量が濃縮されているんです」


「五倍……すごいなそれは……」


「この物質を狙って戦争が起きたほどです。それくらい貴重な資源なんですよ……ただ……」


 すると、貴船の言葉がそこで急に詰まる。


「どうした?」


「いえ……ただこのエキサホルム、石油の五倍近くのエネルギーを持っているが故に少しの衝撃で爆発を起こしたりするんですよ。火花なんかが飛び散ったら、それこそこの鉱山が一気に吹き飛ぶくらいに」


「何だよそれ……滅茶苦茶危ないじゃないか」


「おそらく外側から掘り起こせば大丈夫かと……かなり繊細な技術が求められますけどね」


「そうだな……」


 何故ピッケルを渡され、電動の採掘機を使わないのかが分かった気がする。ピッケルで地道に掘っていけば、エキサホルムを見つける前に確認する事が出来る。だが電動の採掘機の場合、それが出来ない。寸止めする事が出来ずそのまま掘ってしまい、終いには爆発。

 想像しただけで、とても恐ろしい。


「こんな厄介な物を一〇個も採らないといけないのか……かなり面倒だぞこれは……」


「そうですね……」


 僕と貴船は意気消沈しながらも、エキサホルムの周りを掘っていく。

 すると何処からか突然、強烈な爆発音がし、洞窟全体に音が響き渡る。


「な……何だ!?」


「おそらく誰かがエキサホルムに刺激を与えてしまったんでしょう」


 しかし、爆発音がしたにも関わらず、刑務官はその場を動こうとしない。助けるつもりは皆無という事か。


「おいっ!しっかりしろ!」


 爆発音のした方から、一人の男が項垂れた男を担いで歩いて来る。項垂れた男はかなり出血しており、虫の息といったところだった。

 

「おい刑務官!コイツを早く治療する為に地上に戻してくれ!」


「それは出来ない。まだ拘束時間だ!配置に着け!!」


「そんな……滅茶苦茶だろ!」


「……分かった。そこまで言うのなら」


 すると刑務官は、懐から拳銃を取り出し、その銃口を項垂れた男に向け発砲する。

 言わずとも、項垂れた男は即死だった。


「嘘だろ……ってめぇ!」


「必要の無い動力を始末しただけだ。さあお前も配置に戻れ!」


「動力って……てめぇはそれでも人間か!」


 もう一人の男が刑務官に殴りかかろうとした瞬間、またしても洞窟に銃声が響き渡る。

 そして、それと同時にもう一人の男は膝から崩れ、顔面から洞窟の地面に向けて倒れる。

 

「一五六号、貴様は反逆罪を犯した為死刑だ。さあこうなりたくなかったらお前らも仕事を続けろ!」


 刑務官は拳銃を懐に仕舞い、もう二度と動く事の無い二人の体をトロッコの中に詰めていく。


「何なんだよ……あれは……」

 

 思わず、冷や汗が出てくる。今のはあまりにも酷過ぎるだろ。


「使えない者、従わない者は即死刑という事ですか……どうやら、奴等は僕たちの事を資源を手に入れる為の動力としか思ってないようですね」


「動力……」


 そう、奴等からすれば僕達は電動の採掘機やピッケルと同じ様に『物』としか思われていない。この島には、収容者に人権は無いという事なのか。

 もしそうなのであるならば、それはあんまり過ぎるだろ。


「……エフティシア。どうやらギリシャ語で幸せを意味するらしいです」


「そうなのか……」


 だとしたら、この島に幸せなど何処にも見当たらないだろう。

 収容者には、その幸せを感じる権利すら与えられていないのだから。

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