002
「……ここが牢獄か」
長い航海を終え、連れて来られたのは孤島の監獄だった。
確か名前は……エフティシアだったっけか?
周囲一体には海が囲まれており、とてもじゃないが泳いで脱獄など出来そうにもない。まさに絶海孤島というやつだ。
「収容者はここに並べ!さっさとしろ!」
すると、刑務官がメガホンを使って指示を出す。
収容者は何列かに分けられており、僕も指定の位置まで駆け足で向かい、その場に並ぶ。
「あーあー……収容者の諸君!ようこそエフティシアへ!わたしがこの監獄の所長を務める峰淵だ」
唐突に自己紹介を始めたのは、どうやらこの監獄の所長であるらしい。
意外にも所長は女性であり、少し背が高く、帽子を深く被っていた。
「君たちにはここで監獄生活と共に労働も行ってもらう。労働と言っても、物作りなどという甘い物ではない。この島には多くの作物や資源が蓄えられている。それを収集するのが君たちの労働だ」
峰淵は一言一句丁寧に説明をしていく。
作物と資源の収集か……なかなかハードな仕事内容だ。
「そしてこの牢獄では決まった労働時間は無い。君たちの好きな様にシフトを組み、好きなように労働をやりたまえ。ただし!働かず飯が食えると思ったら大間違いだ。他の監獄と違い、ここでは食事は用意されない」
食事が用意されないだと?だったらどうやって食事をしろと言うんだ?
「労働をした分だけここではポイントが貯まっていく。そのポイントと引き換えに食事などが用意される。つまり、君たちは働かなければ勝手に飢え死にをしていくという事だ」
なるほど、話が見えてきた。つまり強制力を強める為という訳か。
普通の刑務所では、ある程度作業はあるがそれを怠っていても食事は出来る。何故ならば、収容者にも人権が保障されており、最低限度の生活を営む権利が保障されているからだ。
だが、ここでは違う。仕事をしないという事は、食事にありつけない事を指す。つまり逆を言えば、この監獄では働かない者は死んでも構わないという事になる。
僕達はここでは、資源の確保や食物を作るための働く駒でしかない。駒が潰れればまた別の駒を用意する。
なんて惨いやり方なんだ。
「それではこれにて説明を終了とする。解散!」
その言葉と共に、峰淵は数人の刑務官に守られながら何処かへと歩いて行ってしまう。
すると、収容者達はバラバラになっていき、各自の行動を始める。自由に動いても……良いのか?
「あっ!刹那さん」
僕が首を傾げていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
振り返ると、そこにいたのは緑の囚人服を着ているものの、明らかに僕の後輩である貴船結慈の姿だった。
「貴船か……やはりお前もあの時捕まってたのか」
「はい……まさか僕がマークされていたとは思いませんでしたけどね……それより刹那さんはどうしてここに?」
「おそらく、記憶を取り戻した為に厄介になると踏んだ奴等のもくろみだよ」
「という事は……記憶を取り戻したという事ですか!」
「まあな……」
そのせいで監獄にぶち込まれた……なんて事は一切言えない。
貴船も手伝ってくれたんだし、何より僕が望んだ事なのだから。
まあ、仕方ないよな。
「そうですか……でも良かったです。やはり刹那さんは刹那さんであって欲しいですからね。それに、今の刹那さんならペンタゴンの弱みを握っている訳だし」
「まあ……でもこの監獄内ではいまいち意味を成せるとは思わないけどな」
「そうでも無いですよ?むしろ、利用すれば戦力になるかもしれません」
「?、どうして戦力に?」
「考えてもみてくださいよ。実はここは時空管理官がよく使う牢獄なんです。つまりここには様々な時空犯罪者が収監されているという事になります。時空犯罪者の九割は未来に不満を持っている連中です。もしその事を言えば、結果は明白だと思います」
貴船は淡々と言葉を積み重ねていく。
つまり、ここの収容者を集めてペンタゴンに反逆する反逆軍を作る事が出来るという事か。
「でもそんな話誰も信じないだろ。何せ表では隠されている情報なんだし、何より物的証拠が無い」
「そうですね……そこがやはり最大の問題になってきますね。やはりそうなってくると、信用を集めるしかありませんね」
「信用か……あまり自信は無いな」
「大丈夫ですよ。僕とそれに糸島も、刹那さんを信用して着いて来てるんですから。刹那さんなら絶対に出来ますよ!」
「……そうかな」
「そうですよ!だから諦めずにやってみましょうよ」
「……そうだな」
貴船の強い押しに、僕もその気ではいられなくなる。諦める前に、まず行動をしろか。よく言ったものだ。
それに、ペンタゴンに立ち向かうにしても三人だけではあまりにも無理がある。ここで仲間を増やしておくのが得策ではあるのかもしれない。
「ところで貴船、お前はこれからどうするつもりだ?」
「僕ですか?僕は今から労働に行こうかなと思っています。そうしないと飢え死にしてしまいますので」
そう言って、貴船は苦笑いを浮かべる。
まあ確かにそうなるよな。飢え死にしてしまっては元も子もないし。
「そうか……あれ?そういえば僕はどうすればいいんだ?」
そこで僕に、一つの疑問が生じる。
僕はサイボーグであり、食事を必要としない。その代わり充電が必要なのだが、一体何処で充電をすればいいのだろうか?
「実はこの監獄では電気が使えるらしいんです。確か……二〇分一〇〇ポイント払えば自分の収容所の中で使用が可能だったと思います。刹那さんの充電をフルにするには四〇分間かかるので二〇〇ポイントいりますね」
すると、貴船は迷う事無く淡々と答えてみせる。
「なるほど……よく知ってるなそんな事」
「いえ、実は一度仕事でここを訪れた事があるんですよ。その時聞いた事をたまたま憶えていただけです」
「そうなのか……」
それでもその事を憶えていた事が凄いと思うのだが、まあいいだろう。
「それで、その二〇〇ポイントを稼ぐにはどれくらい働けばいいんだ?」
「そうですね……大体四時間働けばなんとかなるかと」
「四時間か……結構きついな」
「まあ、でも現代では六時間労働が基本なんですし、そう思うとどうにかなるかと」
「まあ、確かにそうだな……よし、行ってくるか!」
「はい!」
そう言って、僕と貴船は労働所の方へと向かっていく。
初めは労働くらいどうにかなる、そう思っていた。
だが、僕達はそこで本当の恐怖を知ってしまう。この監獄の、本当の恐怖を。