ウサギとカメ
昔々と語り継がれた物語。
怠け者の兎と頑張り屋の亀の駆けっこでは、居眠りしていた兎を追い越した亀が勝った。
けれど本当にこれだけで勝負がついたのでしょうか?
昔々の物語。
今も続く、決着のつかない二人のお話。
***
テスト期間のあけた職員室の前で話すは日誌を取りに来た日直達。
(聞いたか?今回のテストまたあの二人が同点で一位だって!)
いくら一勝しようが巻き返されたら引き分けな訳で。
どれだけ競っても先の見えない、砂を一粒積み上げるような途方も無い勝負の数々。
そんな兎と亀の勝負に決着などつくはずが無い。
テスト順位が張り出され、上がった下がったと喜び嘆かれていた廊下は静まり返り、生徒達がまばらに下校し始めた頃。
肩で風切る所か肩で隕石を叩き落とす勢いの少女が一人、一つ離れた教室に足を踏み入れた。
***
「煙兎さんおめでとうございます。また私と同じ一位ですね!」
机の上で突っ伏し寝ている少年に色んな意味で凄まじい笑顔の少女の声など届いていない。
少女、夏亀は平静を装ってはいるが煮え繰り返った腸がさらに煮えたぎりそうである。
(こんの男は…!)
夏亀の顔を見てしまった雑談中だった生徒達は早々と二人のいる教室から逃げだした。
***
静かになった教室でやっと煙兎が目を覚ました。
時計はとっくに一周して真っ赤な夕日が教室にそそがれる。
「…アレ?居たの夏亀ちゃん」
眠そうに目を擦りながら欠伸をする目の前の男。
夏亀は自分の左頬がひきつるのを何とか留め、ダンッと机に手をついた。
ミシリと悲鳴を上げた机を気遣う者はこの教室に誰もいない。
「貴方のその態度が気に入りません!」
夏亀がそう言い放った。
今まで微睡んでいた煙兎の瞳がパッチリと開く。
「え~、酷いなぁ。僕は人に好かれるし、すぐ仲良くなれるのに…」
「アンタのどこがどうやって好かれるっつうの!?」
「亀の癖に猫三重も四重も被ってる夏亀ちゃんよりはね。ほら、僕正直者だから~」
にっこりと微笑む様はまるでグリム童話の王子様。
人を魅了する笑顔にも関わらず背に走るのは悪寒のみだ。
だが腐れ縁の夏亀には見慣れたもので。
頬を染めるはずも身を震わすはずも無く、崩壊したのは我慢と言う理性。
つまり怒り爆発である。
「それ事態が大嘘だろうがッ!」
目つきの変わった夏亀の右腕には堅く閉ざされた拳に、いつの間にやらナックル。
「うわ、夏亀ちゃんたらヤ・バ・ン~」
そう言って呑気に微笑む煙兎は左手を上げた。
ナックルごと捕まれた手に舌打ちし、瞬時にもう片方の手に持っていた学生鞄で煙兎のカウンターを交わす。
逸れた相手の手刀が夏亀のセーラー服のスカーフを掠める。
「スカーフ千切れた!アンタ装飾品って地味に高いんだから!!てか野蛮なのはお前だ!!」
そう言っている間に間合いを詰める兎と亀。
二人の勝負は競走に始まり今や競争。
本物の勝負を。
どちらかが立ち上がれなくなるまで。
「らぁ!!」
塞がった手の代わりにと、夏亀の蹴りが煙兎の顔めがけて繰り出される。
だが紙一重で躱されて行く。
「相変わらず遅いね~、夏亀ちゃん」
足首を掴まれ組み敷かれる。
鼻先が触れ、口付けまで後ほんの少しの隙間を残して煙兎が言った。
「今も昔も、僕が手を抜いてるから君がついて来れるんだよ?」
分かってる?
煙兎がニコリと笑うと夏亀は屈辱で唇を噛み締めた。
兎の癖に猛獣のように嗤うこいつには勝てないのか。
「…まぁ、最初の一撃を躱した事は褒めてあげる」
「え?」
耳を疑う夏亀をよそに煙兎は乱れた髪から覗く夏亀の耳に軽くキスをした。
基本的には亀の負け。
根本的には兎の負け。
力で負けて、恋に負けた。
この勝負はまた、ドロー。
***
何で兎は居眠りをして負けたと思う?
頑張り屋さんの亀を可愛いと想ってしまったから。
だから居眠りするふりをして愚か者を演じてみたんだ。
何で亀は苦手な走りをしてまで勝負をしたと思う?
何時も自分の前を行く兎に少しでも認めて貰いたかったから。だから大嫌いな走りも最後まで諦めないで頑張ったのよ。
黄昏に染まる教室で爪先から頭まで真っ赤に染まった亀の素早い平手が、読めない笑顔を零す兎の頬に入った。
*後書き
片方ずつ色々思いすぎてる、みたいな両思い擬きを書きたかったんです。
文法がむちゃくちゃなのは自覚していますが反省はしない!
…ごめんなさい!!意味わかんないとか石投げないでЮ)^p^)
こんな駄文を最後まで読んで下さった心広き方、ありがとうございました!