(9) 外泊・中々編
外泊2日目。
お昼過ぎから古世は、行きつけの美容室に来ていた。
入院の期間が長かったため、結構髪が伸びていた。ちょうど肩甲骨のあたりまで。
どうしても病院内の美容室は信用できず、切れずにいたのだ。
美容室の中には2、3人のお客さんが座っていた。
「おっ、古世ちゃん久しぶりだね」
店の奥から店長の犬飼さんが声をかけてきた。10年くらいの付き合いだから古世の事はだいたい知っている。
「久しぶりです」
「もしかして・・・、また病院?」
「エヘヘ、相変わらず」
「でも元気そうで良かった!俺、すごく嬉しいぞ」
「ありがと」
「で、今日はどうする?」
「バッサリいっちゃってください」
犬飼さんは古世の髪を見ながら少し驚いたように聞く。
「いいの?こんなきれいな髪を」
「うんv」
「イメチェンってやつか?」
「まあね」
店のお兄さんは、ハサミを取ると威勢良く古世の髪をカットし始めた。
「古世ちゃん、何かあった?」
「どうして?」
古世が聞き返すと、お兄さんは楽しそうに笑いながら言った。
「古世ちゃんが髪型変えるときは、何かいい事があったときだから」
「うっ・・・、お見通しですか」
「俺、カミサマだから!なんてねv」
犬飼さんは楽しそうに言った。
しばらく沈黙がながれる。その間、ハサミを動かす音だけが響いていた。
「友達が・・・できたの」
「ほほう・・・。その様子だと男だな。ん?」
「な、何で分かるの!?」
「ククク・・・。顔赤いから」
古世は慌てて鏡を見る。真っ赤だ・・・。
「うわあ・・・、昨日もお母さんに言われたのに」
「その子の事、好きか?」
古世が振り向こうとすると、「う〜ご〜く〜な!」とそれを阻止された。
「好き・・・なのかな」
「あせらず考えればいいと思うぞ?」
それからしばらく考え込んでいた。その間もハサミは進み、いつの間にやら仕上げも終わっていたようだ。
「はいよ。こんな感じでどうよ」
鏡を見ると、ショートになった自分が映っていた。
「うん、ばっちりだよ」
「カラー入れとこうか?」
「お願い。カワイくして」
「了解♪」
数十分後、カラーリングが終わった。
「すごい・・・」
明るい茶色のメッシュが入っていた。
「アタックするなら早めだからな。俺はこのくらいしか後押しできないけどさ」
「充分だよ・・・。ありがとう」
お金を払うとき、さらにこう言われた。
「今度はそいつも連れて来いよ。もちろん、彼氏としてな!」
「もうっ!!」
外はまだ明るさはあるものの、星が見え始めていた。
その頃病院では・・・。
「らいだーきーっく!」
「うわぁ〜、やられた〜・・・」
広人は翔君と仮面ライダーごっこをやっていた。
しかし頭にあるのは古世の事ばかり・・・。
初めて声をかけてくれた女の子。
初めて手を繋いだ女の子。
初めて心の痛みを教えてくれた女の子。
初めてボクの前で泣いた女の子。
そして今、すごく心配している。
ボクの中で古世が大きくなっていく・・・。