(7) 外泊・前編
翌朝、広人が起きると、何やら隣でガサゴソ音がしていた。
「古世?」
広人が不審そうにカーテンに手をかけると。シャッとカーテンが開き、私服姿の古世が立っていた。
ごく普通のTシャツにデニムのミニスカート、首にはネックレス、指輪まではめている。
顔は本当に薄めなのだがアイラインやグロスを入れている。
これだけ見ると、本当にイマドキの女子高生と言った感じだ。
病気であることを除けば・・・。
広人は普段見られない姿に、しばしの間見とれていた。
「おはよ。・・・・・・ん?どしたの??」
「いや、私服だから」
「変?」
古世が自分の格好を確かめるように見ている。
広人は思いっきり首を横に振った。
その動きを、さもおかしそうに古世は笑っている。
「良かった。こういう時しかオシャレできないから」
「何かあるの?」
「デートv」
「・・・」
広人は複雑な気持ちになった。
「ウソ!ただの外泊」
すると手を広げ、古世は演劇の役者のように語りだした。
「この窮屈なカゴから抜け出して、今こそ外の世界へ旅立とうではないか!
外には何が待っているかは分からないが、私は怖れず旅に出る!!」
今度は逆に広人がおかしそうに爆笑した。
「窮屈で悪かったわね・・・」
広人も古世も硬直した。
ゆっくり後ろを振り返ると、看護士達のボスとも言える酒向さんが立っていた。
酒向さんは、古世がはじめて入院した頃から頑張っている人で、古世とも普段は仲良しなのだが不適切な発言にはかなり厳しいお方だった。
「スイマセン・・・」
「ゴメン、酒向さん・・・」
「でも窮屈なのは確かか・・・」
するとたちまち古世は笑顔になり、
「でっしょ〜!」とか言ったもんだから・・・。
「調子に乗るな!外泊取り消してもらうよ!!」
「あぁ!それだけは勘弁してください」
「ま、冗談はそのくらいにして支度できてる?」
「OKっす!」
「そう。親さん、もう下に見えてるそうだから」
「そっか。早いなぁ・・・」
そんなやり取りを端から見ていた広人が声を押し殺して笑っていると、古世に肩をポンと叩かれた。
「?」
「しばしのお別れ!泣くなよv」
「誰が!」
そう言うと、深くため息をつき
「行ってらっしゃい」と言った。
「行ってきますv」
プレイルームまで見送りに行き、古世がエレベーターに乗ったのを見届けると、病室に戻るため広人は歩き出した。
「ねえ、柏原君」
酒向さんに呼び止められ、振り向く。
「?」(本日二回目・・・)
「泣きたいのは・・・古世ちゃんだと思うんだ」
広人は少し微笑んだ。
「知ってます」
「外に出たら、また友達がいなくなっちゃうんだから・・・」
「知ってます」
「柏原君・・・、もし退院しても古世ちゃんと仲良くしてあげてね?」
『友達ならそのくらいして当然だよ』
あの時古世はそう言った。
だから今度は・・・
「友達なんです。僕は友達は見捨てません」
「友達・・・、それでいいの?」
「え?」
「古世ちゃん、明るくて可愛くていい子じゃない?」
「それは・・・そうですけど」
「へぇ〜、認めるんだ」
酒向さんはニタァ〜ッと笑いながらいたずらっぽく広人を見る。
広人は頭の上に疑問符を浮かべていると、
「まあいいわ。古世ちゃんが帰ってきたらおかえりって言ってあげてね」
と言って立ち去った。