(5) 熱帯夜
入院二日目。
その日の夕食の後、広人と古世の二人はそれぞれのベッドに座り、話をしていた。
その話が一段落着いたとき、時計を見た古世が口を開いた。
「じゃあそろそろ寝ますか」
ただ今PM8:30・・・。
古世の言葉に、広人はとりあえず聞いてみる。
「さすがに早いよ。今の学生ってこれからが活動時間だぞ?」
「なぁに言ってんの!ここ小児科だよ?小さい子の生活リズムに合わせてあるんだよ」
納得である。
古世の話によると、他の病棟でも就寝時間は早いのだが、小児科の病棟はさらに少し時間が早いらしい。
まだ暗くなったばかりの空を見ながら広人はボソッと呟いた。
「やっぱ無理。こんな早く寝れるかって・・・」
「気持ち分かるよ。私もはじめは慣れなかったもん」
古世が、パジャマの胸元をパタパタしながら言った。
「それにしても何か暑くない?」
「今日は熱帯夜です・・・とか言ってたような」
「まじで?」
「まじで」
「ヤバイ、聞いただけで汗かいちゃったよ・・・」
「着替えれば?」
古世は「そうする」と言って、カーテンをひいた。
「覗くなよ〜v」
「見ないよ」
「本っ当やめてよ?自信ないんだから!」
(そっちかよ!!)
ズッコケそうになった・・・。
カーテンを引いたとき、やっぱり女の子だから恥じらいがあるのかと思いきや、”自信がない”・・・。
「あ!今の撤回。自信あっても見せないからねー!」
「やっぱり・・・」
「え?見たかったの??」
「いや、そんなことは・・・」
突然カーテンが開いたと思うと、カンペキに着替えた古世がそこにいた。
「ウソだv異性の身体に興味ない人なんていないからね」
「そりゃそうだけど・・・」
「やっぱり!ヒロのエッチ!スケベ!変態!!」
広人は、そこまで言われる筋合いは無いと思った。
「あれ?まだ二人起きてるの??」
病室に、看護士の星谷が見回りにやってきた。
「あ、星谷さん。ゴメ〜ン」
「すいません」
「いいよいいよ。高校生に早く寝ろって言うほうが間違いだもん」
「そうだよね〜v」
「二人ともさ、22時ごろまではプレイルーム電気つけてるからさ、そこでしゃべってきたら?ここで話すと小さい子が起きちゃうから」
「いいの?星っち」
「無理はしないでね」
「はーい!」
「行こっ!」
古世は広人の手を握ると、思いっきり立ち上がった。
「え、あ・・・えと・・・・・・」
広人は少し戸惑う。
初めて女の子と手をつないだ・・・。
やはり命ある者の手はフワフワと柔らかく、温かかった。