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地上に降りた神様は、楽しい仲間と冒険者になりましたNo1

古代ギリシャ神話をベースにした異世界ファンタジーです。地上に降り立った私(実は神様)がフェンリルとヤータを引き連れ、ギルドを訪れたことから物語は始まります。パーティ名トリアダ(三位一体)の活躍をお楽しみください。

 1)ギルド

 ギルドの朝は早い。街の門が開く早朝5時が営業開始時刻だ。ちなみに混雑する受付は、朝の8時までと夕方の4時から6時までが2人体制で、他の一人配置の時間帯は残りの者は交代で休憩に入る。終業時間は夜の7時30分。近隣の村に棲む職員が、街の閉門時間8時に間に合うよう設定されている。

 識字率の低い街にあって、読み書きと計算ができる者しかギルドでは働けない。そのため給金が他の職種に比べ高額だし、何より安定した職場ということで『ギルドで働いている』ということは一種のステータスにもなっている。


 ようやく朝の喧騒が収まりつつある受付では、2人の女性が業務日誌と会計確認を行っていた。

「今朝の入会希望者は、4人パーティが1組、2人パーティが2組で合計8人っと」

 銅貨の枚数を数え終えると、途端に大きく瞳を輝かせ小声で隣の娘に声かけた。長い髪を高い位置にまとめ、唇には赤い花から作られた口紅が塗られている。街の女は一様に髪が長い。髪を切る商売は、やっと首都にできたくらいで、この街では今だ自分で始末しなければならない。ちなみに女性冒険者たちに短髪が多いのは、仲間に切ってもらっているが正解のようだ。

「それより聞いた?オオカミ青年の話」

 横に居る娘はいわゆる新人で、業務はこなすが今だ手際が悪い。地方から来たのだろうか、服装も地味系だし日に焼けた肌にはそばかすが目立つ。私も最初はこんな感じだったわね。

 娘は日誌を睨みながら依頼回収した薬草の束を数えてる最中だ。

 この先輩は良い人なんだけど、あんまり回りの空気を読まないのよね、それにちゃんと話を聞かないと途端に機嫌が悪くなる、他の人に言わせるとチョット痛い系の先輩だ。仕方ないな。

「知ってるわ、白銀のオオカミに跨った超イケメン青年のことね」

 先輩、鼻の穴拡がってますよ、そんなに興奮ししなくても。

「数人のドワーフと一緒らしいから、もしかして出稼ぎかしら」

「使い魔がいるなら冒険者とか」

「そんなイケメン冒険者が居たら、他のギルドからでも噂が聞こえるはずなんだけど」

「そうですね、じゃあただの旅人か、一目拝みたかったな」

「まあイケメン君が、他の冒険者みたく臭いのは幻滅だけどね」

 冒険者たちは街に帰還すると一番にここへやってくる。仕留めた魔物の買取などは、肉が腐るので時間との戦いだ。それに場所によっては、何日も水浴びや洗濯が出来ない結果、明らかに血痕と思しき汚れが衣類にも腕にもついており、一言で言えば汗臭く生臭い。

「いっそ此処に就職しないかな」

「ほんとうにね、じゃあ私休憩に入る。あとよろしく」


 その頃街の入り口では、数名のドワーフと噂の美丈夫が立っていた。その傍には馬ほどの大きさはあろう白銀のオオカミが、警戒するように鼻を引くつかせている。

「先ほどの家は、我らドワーフが土木作業や冒険者として働く間の宿代わりに使っている。希望する金額を儲けた者は随時帰路に就く。村のように家事を担う女性は居ない、一人もだ。なので此処にいる間の生活は、全て自分のことは自分で行う。

 我らだけが住まう家だが親父が許可を出した。お前は好きなだけ泊まるといい。ただし、使い魔についての言及はなかったが、お情けで庭先だけは貸してやる。だが家の中には入れるなよ」

 言うだけ言うと、こちらが了解の返事もせぬ間にとっとと門番に私たちの入街許可書を見せている。村長である彼の父が書いたものだ。間違いなく門番は大きなオオカミに恐怖していたが、ドワーフを束ね、かつ国宝級の武具を生み出す村長の名声は、この国の王にまで轟いている。許可書を持参したこのドワーフが村長の息子と知られているせいもあろうか、すんなりと我らは街に入ることが出来た。


「あれがギルドだ。食事はこの店が安くてうまい」

 端的にそう言い残してドワーフの一行は踵を返す。多分家に戻り荷ほどきでもするのだろう。

 ドワーフは、一度へそを曲げるとなかなかに難しい。本来の頑固さのせいだろうが、彼らの妻や娘が私に色目を使い世話を焼きたがったのを根に持っているようだが、それは私のせいなのか。取り敢えず息子にハンマーを譲渡したが彼の機嫌は治らない。

 しかし村長はそれを見るや感嘆の声を上げた。

「これは儂の生涯でも傑作中の傑作よ。あなたはさぞ名の通ったお方なのだろうな。しかも、これを息子に」

「これは親父が作ったものなのか?」

「おうよ、このハンマーはな、大きさや重さを自由に変えられる別注品よ。確か、天から落ちた国の王子が愛用していたと聞いていたが。まあいいか。あと誇れる出来栄えなのは、槍だな」

「その槍とはもしや」

 私はアイテムボックスから愛用の槍を取り出し村長の目前に掲げる。

「これも儂が作ったものに違いねえ。これを再び目にすることができようとは何と幸せな事か」

 戸惑う息子の表情は笑えるが、親父の感涙には少し引くぞ。

「あなた様はこの後人間の街に行かれるのでしょう。ならばその第3の目は隠すことをお勧めしますぞ。創造神と同じ名で第3の目を持つお方よ、いや深くは検索すまい。

 よし、ハンマーのお礼に儂が精魂込めて『額飾り』をお創りしましょう。そうだ金髪の鬘の技法を駆使して最高の額飾りを。久々に燃えるぞ、腕が鳴る、傑作を作るぞ」


 旅立ちの朝がやってきた。村長からは銀貨10枚と額飾り、許可書を受け取り、ドワーフの妻と娘からは熱烈なハグや投げキスを受けた。道中、ドワーフ連中のかもし出す重い空気は筆舌しがたく今に至る。早く金を稼いで宿屋に泊まりたい、いや今までのように野宿が一番かも。

 しかし嬉しいこともある、この額飾りだ。金糸と銀糸で編みこまれた浮彫模様は生命の木のモチーフか、第3の目が模様と同化し一々外す必要がない。薄く軽いが額に張り付き、汗をかこうが顔を洗おうが剥がれる心配もない。素晴しいぞ村長、さすが国一番の名工だ。


 先輩が去って半時は過ぎただろうか、広いギルド内は何時もの穏やかな空気が流れる中で、数人の冒険者たちが壁に貼られた依頼書を見ながら、小声でパーティ仲間と話をしている。

 最近のぽかぽか陽気に少しの間微睡んでいたのかもしれない。そうだとしても声がかかるまで気づかないなんて私って馬鹿、馬鹿、大馬鹿。恥ずかしい。

「お嬢さん、入会受付はこちらでよいのだろうか」

「はっはっはいぃぃ、こちらでお受けしますですわ」

 思わず椅子から飛び上がり手の甲で口元を確かめる。涎は垂れていない、でも変な声で変な言葉出た。落ち着け私、落ち着け。

 室内の冒険者たちがこちらに注目している。噂なんてホント当てにならない。言葉では言い尽くせない気品と風格、動作が一々美しい。その上美美美美美青年。休憩に入った先輩の悔しがる顔がふと浮かぶ。日ごろの行いの違いですかね、先輩。


「ええとギルド加入の手続きですね、加入されるのは初めて?

 ではこの書類にご記入いただくのですが、失礼ですが読み書きはおできになりますか?良ければお手伝いできますが」

「大丈夫、私の名前とパーティ名、構成者名を書くのだな、人はいないが使い魔がいる。何処に書けば?」

 まつ毛、長ーい。黒髪はさらさら艶々、撫ぜてみたーい。指が長くて爪までキレイ。握りしめたーい。

「ええと、うわあ凄いお名前。ああ使い魔は構成者の欄に、使い魔の名前もしくは種別をお書きください。それから、使い魔登録をいたしますので、こちらにお連れ下さいますか。登録をすると使い魔が稼いだポイントも合算されます」

 ミントか、彼の体臭はミントの香りなのか。彼が身体を動かすたびにここら一帯の空気が浄化されてゆく。この腕に抱かれたらどんなに嬉しい事だろう。

 駄目だ夢から覚めろ私、仕事中だ。ギルドで頑張って、故郷の家族が今より良い暮らしができるように、いっぱいお金貯めて帰るんだ。

「了解だ。外に待たせているので少しお待ちを。聞きいていたねお前たち、ここまで来ておくれ」

 その場にいるすべての冒険者が大きく息を吸い込み、ギルド職員は大きく後ずさる。

「見ろよ、しっぽが3本も生えてやがる」

「そこいらの魔獣が可愛く見えるほどの威圧感だ、魔獣、いや神獣と呼ぶべきか」

 馬ほどの体格、ピンと張った両耳としっぽが黄金に輝き、鼻先と4本足の爪先の黒が白銀の体毛に彩を添える。悠々と歩くその姿は、オオカミの王と呼ぶに相応しい威厳と風格を備え、青い瞳は鋭く輝き回りの冒険者を威嚇する。

「背中見てみろ、カラスだ」

 黒光りした全身に金色の嘴と足、尾は瞳と同じ真紅だ。普通のカラスより一回り大きい。

「こっちは足が3本だ、こんなカラス見たことねえよ」

「でもよ、こんな使い魔を使役するくせに、あの男見習いだぜ、レベル1、もしかして俺より弱い」

「うん、と言うことは使い魔もレベル1だよなあ、目立つだけに残念感が半端ない。図体がデカいだけの木偶の棒ってか」

 たちまち冒険者たちに苦笑が伝染する。

 フェンリル、ヤータ、ほんとゴメン。知らなかったんだ、私が魔力切れを起こすとレベルが1に戻るなんて、それがお前たちのステータスにまで及ぶなんて。


「ごほん、ではギルドについてご説明しますね。

 ①見習いの場合、1人につき銅貨5枚が必要です。パーティ名トリアダの場合、銅貨15枚をあちらの銀行窓口で支払い、加入木札を貰ってください。

 注意していただきたいのは、見習いの間は最終依頼達成日から7日以内に必ず1回の依頼を受けるという縛りがあります」

 ってことは毎週会えるって事、彼と。そのうちに仲良くなって、うふふふふ…いやいや仕事中だって。

「見習いの場合パーティ人数×100pで次のランクに昇格します。ランクが上がるほど昇格に必要なpも増えますが、今は300p目指して頑張ってください。

 依頼受付は、壁の依頼書をこの窓口に持って来て、此処で受付ます。ただし一度剥がした依頼書の放棄はできません。その場合、依頼不履行として所定の罰金が加算されます。

 今回の説明は以上です。何か御不審の点はございますか?」


 早急にレベルを上げなければ。レベルは1でも大概の魔物に遅れを取らないが笑われるのは余りに不憫だ。

「フェンリル、この近くで魔素の濃い場所を目指して走れ。今日中に魔石を見つけるぞ」

 フェンリルの背にまたがり指示を飛ばす。フェンリルの腹違いの兄弟『神馬スレイブニル』が先の大戦で死んだ今、この世で一番早いのは間違いなくフェンリルだ。

「ヤータ、ここいら一帯にある洞窟を探り魔石を見つけろ。見つけたら視界を共有する」


「よし、それじゃあ洞窟入り口に結界をっとっとっと、今は魔力が0か不便だな、普通に使っていた魔法が使えんのは。お金も要るがそれ以上にレベル上げが大事かも。

 仕方ない魔物が来たら素早く逃げる、戦ってもポイントにならないからな。それまではフェンリル、ちゃちゃっとこの魔石を爪で採掘、私はアイテムボックスに収納、ヤータは外で見張りな」


 街の酒場は何時も喧騒に包まれている。客の大半は冒険者とドワーフだ。

 ギルドが担う役割は、彼ら冒険者たちの命を懸けた働きにより成り立っている。魔物討伐や様々な素材集め、人や物資の流通警護以外にも、街中の巡回、入り口の門番、個人宅の警固など、仕事内容は多岐に渡る。その為、彼らの言葉遣いや行儀の悪さに嫌悪感を抱く人々は少ないし、冒険者も自分たちがこの街を守っているという自負がある。

 しかし、とかく冒険者には自己顕示欲の強い者が多いため、今日の働きを話す時には自然と声が大きくなる。なので酒場の中はこの騒ぎだ。しかし街の外に住まう者たちは例外で、誰一人として酒場を利用する者はいない、一様に苦い思い出があるのだ。


 冒険者A「おい聞いたか、トリアダの話」

 冒険者B「リーダーの名前、あんな名前名乗って罰当たらないか、俺はそれが心配だぜ」

 冒険者C「名前はともかく、昨日の昼に入会して、その日の夜には初級に昇格って話だろ」

 冒険者A「おうよ、ギルド史上最速昇格って噂だ」

 冒険者C「何でも大量の魔石を持ってきたらしいな」

 冒険者A「その上、魔石の洞窟管理をギルドに譲ったらしい、初心者用にどうぞってな」

 冒険者B「お宝の山だぞ、あり得ねえ」

 冒険者C「しかし数時間で300p、伝説級の化け物パーティ誕生ってか」

 冒険者A「俺ら、ちまちま薬草集めて、初級になるまでに半年かかったよな確か」


「王よ、明日もあの洞窟に行くのか」

 岩の上で羽繕いをしながらヤータが聞く。三角形に配置された足はどんな場所でも安定した姿勢を保てる、便利なものだ。

「いや、あそこの情報は見習い用にとギルドに管理を任せたよ。人の手では私らほど多くは採掘できないだろうから、せめてその日の飯代くらいにでもなれば良いかなと、薬草よりは高値だし」

 地面に寝そべっていたフェンリルの耳がピクリと動く。頭を上げるが私がもたれかかっているので身体は動かせない。白銀の体毛が私の頬をくすぐる。

「ということは狩りか。王様、やっと狩りができるのか?」

「うん初級になったことだし、早朝一番ギルドの依頼を見て決めよう。フェンリルも連日岩堀は嫌だろうし。

 あっ大物はまだ止めておこう、なんせレベルが1だからね、自分自身の実力を見定めてからだな大物の相手は。まあ気長にレベルを上げていこうな」

 それでも狩りと聞いて嬉しいのだろう、微妙に3本のしっぽが左右に揺れる。僅かな風でもが起きて乾いた枯葉が降り注ぐ。その揺れを背中に感じながら私は眠りにつく。今日もみんな頑張りました。

 今の私にドワーフの家で暮らす選択肢はない。魔石回収では結構な金が手に入ったが、宿屋を借りても使い魔は部屋に入れない。だから雨が降らぬ限り宿屋も借りることはないだろう。

 野営を嫌う者もいるが私は案外この暖かな毛皮に包まれた寝床が気に入っている。満天の星空の下で聞くフェンリルの心音は心地よい。


 2)初めての討伐依頼

 朝一のギルドってこんなに込んでいるの。

 日々ギルドには様々な依頼が飛び込んでくる。昨夜のうちに新たに貼られた依頼書を、次々と屈強な男たちが剝がしてゆく中、肉の壁をもろともせず、身長の低いドワーフが器用に竹馬を操り依頼書を剥がした。おお村長の息子、やるな。

 壁面以外の場所にはそれぞれのパーティメンバーが待機、女性もいる。だから、目が合ったぐらいで叫ぶな、手招きするな、投げキスも要らん、じりじり近づくな。

 回りの男たちも私たちに気付き騒めきだす。だ・か・ら、私たちは伝説でもないし、フェンリルが大きくたってカラスの足が3本あったって関係ないじゃないか。


「依頼書、どんどん剥がされてく。王よ、視界共有で支持をくれたら俺が嘴で剥がしてくるが」

「それよりも王様、俺がアヤツらを全員蹴散らそうか」

 フェンリルがショートソードほどに長く片足の爪を伸ばした途端、周りを取り囲んでいた屈強な男女が一斉に後ろに飛び下がる。私たちトリアダを所詮は初級パーティと侮っていたのかもしれない。

 ここ冒険者たちには、強さこそが正義で尊厳の対象だ。私はフェンリルの首を両腕で抱きしめてから頭をポンポンと軽く叩く。

「お前たち、あまり人前で話してはいけないと教えただろう。それに、ほら少しは隙間が出来てきた」

「しかし俺の狩りが、俺の獲物が」

 爪を元に戻したフェンリルがしょんぼりと呟く。


「ギルドマスターが使い魔を連れて部屋まで来てほしいと」 

 その男性職員の額には今にも垂れそうな脂汗が浮かんでいる。小刻みに痙攣する顔面にも気づかぬ振りが良いだろう。

 フェンリルの爪を見た後では仕方ないな。


 受付奥にあるギルマスの部屋は意外と広い。整理棚にはきちんと束ねられた書類が並び、大きな執務机の上にも整然と内容ごとに分別された書類の束が見える。

 仕事のできる者は一様に整理整頓がうまい。一々書類や資料を探さずとも良いから、それだけ作業効率が上がるのだ。国の大臣たちもこれぐらい仕事をこなせれば、あんな戦を起こさずに済んだものよ。

「好きなところに腰かけてくれ」

 6人用テーブルを指さし、やっと書類から目を離したギルマスが私たちを見て口笛を吹く。

「話には聞いていたが、噂以上の男前だな。それに見事な使い魔たちだ。人の言葉を話すと聞いたが、勿論理解もできるんだろ」

 フェンリルもヤータも頷きはするが言葉は発しない、先ほどの私が言った『人前で~』の注意を守っている健気な奴らだ。

「俺はこのギルドを任されているディールだ」

 年は50歳ぐらいか、鍛え上げた筋肉は健在だ。首にかけられた大金メダルにはSの文字。ドワーフやエルフのような長命種なら判るが、短命な人間がこのランクとは相当の使い手に違いない。

「先ほどの騒ぎを聞いた。そこで一度フェンリルの長く伸びた爪を見せてはもらえんか。出来れば両足で」

 伸ばした爪を見た後ディールは立ち上がり、間近でもう一度爪を眺めた。そして今は両腕を胸元で組んで部屋の中を歩き回り、ぶつぶつと何か呟いている。力を籠めない状態での上腕二頭筋、それだけでも私の腕の3倍はありそうだ。それに恐怖のかけらもその表情にでない丹力は流石だ。

「今度こそいけるか。いけるな。いける。よし、いこう」

 ディールは、おもむろに整理棚から一束の変色した書類を大事そうに取り出し、私にそれを差し出した後、深いため息を吐き出した。


「もう10年になるだろうか、日付が変わろうかという深夜のことだ、この近くの村が数匹のアンデッドに襲われ一夜にして村人は一人を除き全員死んだって事件の資料だ。ここから1㎞しか離れていない村だから、村人の多くは冒険者の家族や街で働く者たちだった。生き残ったのは、村の窮地をギルドに伝え助けを求めるために村を離れた者だけだ。

 しかし、深夜の事で早々冒険者は集まらない。そんな生き残りが焦りと恐怖と絶望の中で街を走り回っていた間、俺は何をしていたと思う?」

 見開かれた眼は真っ赤に充血し、握られた両拳が微かに震える。

 部屋中に魔素を溢れさせる程の怒りや悲しみ、負の感情がこの男を取り巻く。

「俺は、俺はのん気に依頼達成の祝宴を上げていたんだ、酒場でな。仲間内で酒を酌み交わし大声で笑う俺の前に、汗まみれの息子が駆けこんで来た。『助けて父さん、速くみんなで助けに行って。母さんが、村が、母さんが』

 そう、生き残りは当時8歳になったばかりの俺の息子だ」

 鼻をスンと鳴らすと、堪えきれない涙がディールの頬を嘗め尽くす。この事件がもたらした衝撃は、男の人生を根底から練り替えたに違いない。

 10年の歳月が人間にとって長いのか短いのか私には判らないが、今この男の心中はどす黒い負の感情が渦巻いている。抑えようのない後悔、憎しみ、怒り、絶望、そして無力感。

 魔素の発生源は生き物の負の感情だ。道端の雑草を踏みつけるだけで僅かな魔素が発生する。特に喜怒哀楽全ての感情がダントツに大きく激しい人間。森に多くの魔物が集い人を襲うのは、森が望んでいるからかもしれない。

 しかし魔素も少量ならば人の助けになる。実際、魔素の塊である魔石は、魔法陣の原動力として有効活用されている。

 だが大量の魔素は魔物を作り出す。元が負の感情なので魔物は人に対して悪意を持つ。

 気づかぬ者も多いが、病の際に服用する薬とて元々は魔素を含む薬草から作られたものだ。だから大量に摂取すると己が身体を蝕む毒になるのだ。

「俺たちが駆け付けたときには、もはや村に生存者はいなかった。肉体を食い荒らされ、生前の姿も判らなくなってなお、アンデッドへと姿を変えた者たち。倒しても倒しても復活するアンデッドに普通の剣では対応できない無力さを痛感したよ。

 断腸の思いで冒険者たちは撤退、村全体に多くの魔法板を取り付けて、やっとの思いで封印を完了させた。アンデッドの対処法としてはこれが一般的。

 でも特級Sだと浮かれていた自分が、封印されたまま村人の魂さえも浄化できない自分が、妻や友人の墓さえ作れない自分が。

『依頼が終わったのに、何故すぐに帰ってこなかったんだ。

 父さんたちが居たら、母さんも村人も逃げられたかもしれないのに。なのに母さんがアンデッドに食われている時、父さんは酔って笑っていた』この10年幾度となく繰り返し思い出される息子の声、もはや全ての感情が消えうせたような輝きのない瞳。

 俺は母に息子を預けがむしゃらに働いた。仕事をこなしながら、いつか必ずあの村を人の手に取り戻す。その方法を考え続けた」

 まだ瞳には涙が残っていたが先ほどより力強く、私やフェンリルを見つめた。それに伴い魔素の発生も控えられ、部屋の隙間から外へと拡散されてゆく。

 魔素自体は人の目では捉えられないが、息苦しさなどである程度は気づくはずだ。ディールの荒かった呼吸も落ち着いてきた。


「アンデッドは神聖魔法陣でしか倒せない。しかしたった一つしかない神聖魔法陣は、大むかしに頂いた神からの贈り物だ。神の理で作られたそれは、卓越した職人でも理解できず作れる者が極端に少ない、というかこの街にも首都アテナイにもいない」

 かつてこの国は小さな国々に分かれていたが、それぞれの国同士でその魔法陣を奪い合い、度重なる戦が起きた。結局戦の中で魔法陣は行方知れずとなった。疲弊しきった各国の国民が団結して王政を廃し、かつての国は街という形で相互協力を行う今の形に落ち着いてた。

「ではどうするか。奴らの身体を細切れにすれば再生までに時間がかかる。それならば完全再生する前に、身体も骨も丸ごと炭になるまで焼きつくせばよい。

 実は1匹だけだがこの方法で倒したことがある。剣士5名、火魔法陣3個と使い手3名が必要だったがな。

 そこでギルドからの依頼だ。魔法陣は出来る限り掻き集める、設置と発動で無防備になる使い手たちの防御を担う剣士もだ。フェンリルには魔物を細切れに切り裂いてもらいたいのだ。

 殲滅までには時間も日数もかかるだろうが何としてもやり遂げたい。頼む、この依頼受けてもらえないだろうか、いや受けてくれ、この通りだ」

 深く頭を下げるディール。頭頂部の髪、意外と薄いんだなって、そんなことより、ううん困ったな、また目立つぞ。人の願いを聞き遂げるのは私の本来望むべきことなのだが、私たちの正体がモロにばれちゃうだろうな。

「ギルマス、兎に角頭を上げてくれ」

「嫌だ嫌だ、お前がうんと言うまでは上げない」

 このオヤジ、まるでお子ちゃま。困っている人間を見過ごすわけにも行かず、まあ仕方ないか。

「やれやれ分かったよ、協力はする。だけどお前のその計画は不要だ。トリアダだけで討伐してやるよ。それからこれはギルド案件の依頼だから当然ポイントの上乗せは有るんだろうな」

「今回の依頼は重要依頼だから1000pの上乗せは考えているが、お前たちだけでって意味が判らん」

「私たちなら面倒な魔法陣を使わずとも出来るんだなこれが。よく見てみろ、此処にいるフェンリルとヤータ、彼らはただの魔獣ではなく神獣と神鳥だ。それに私が使う武器は名前ぐらいは聞いたことがあろう」

 ごそごそとアイテムボックスから槍とソードを取り出す。

「この槍は神器グングニル、この剣は同じ名工の手で鍛えられた名前こそないが聖なるソード、必要ならこれをお前に貸そう。

 なので魔法陣も剣士すら要らない、あっ結解の魔法陣と使い手は要るな」

 かつての神と同じ名を名乗るこの青年、その手にある槍、俺の目でも名器だと判るほどの。まさか、いやいや神は死んだはずだ、フェンリルに食われて、うんフェンリル、あれ、まさか…まさか…まさか…


 翌朝から、アンデッド討伐のための準備が行われた。結界魔法陣に不備がないかのチェック、大量の松明造り、10年越しのギルド総出の一大プロジェクトだ。

 松明造りには、美青年を一目見ようと集まったご婦人たちの力が大いに役立った。ギルマスからの要請で、不定期な時間に、私は参加者への声掛けを行なう。決まった時刻だと、その時間にしか女性陣が集まらないのではないかという疑念が、職員から上がったらしい。知らんがなとは思いながらも、笑顔を貼り付け練り歩く私。ヤータとフェンリルは、そんな私の苦労を知ってか知らずか、欠伸をしながら少し離れた場所から眺めている。

 そして若く美しい女性の目を、出来る限り自分に引き付けようと、アピールがてら懸命に杭を打ち込む男性冒険者。お目当ての女性に何度も話しかけるギルド職員の、スルーされ続ける姿はちょっと痛々しい。しかし予想以上の速さで準備が整ってゆくのは良い事だ。


 暫く目を閉じていた美青年は、女性陣の黄色い歓声を手で静止しおもむろに口を開く。

「皆さん、よく聞いて。一個体としては弱いはずのアンデッド系は、知っての通り倒してもすぐに復活して襲い掛かる、しかしそれ以上に恐ろしいのは襲われた者がアンデッド化することだ」

 小さな悲鳴が女性陣から漏れる。尻込みする男の気持ちもわかる。だからこそ敢えて言わなければならない。

「村は10年間の結界で新たな餌を得ることも出来ず、互いの肉を貪り食い今や白骨と化した魔物で溢れている。そして村にはお前たちの奥さんや子供、友人や家畜がいただろう。その全てが今では飢餓に苦しみ続ける魔物と化しているはずだが、衣類や装飾品で生前の個人を認定できる場合もあるだろう。

 だからディール、討伐は私たちに任せお前は無理に入る必要はない。ここで彼らと待つことも選択肢の一つだ」

「お前の言葉には感謝する。しかし、この日のために俺はこの街に留まっていた。今も苦しんでいるであろう村人と優しかった妻の魂を一刻も早く解放してやること、それが一番の望みだ。

 俺は中に入る。俺には去っていった息子や友人の代りに最後まで見届ける義務があるのだ」

「そうかお前の覚悟はよく判った。

 では最終確認を行う。まず男たちは事前に立てておいた松明に火をつけて回れ。数が多いから手分けしてな。アンデッド系は火を極端に嫌う。燃え尽きると復活が敵わぬことを本能的に察知しているのだろう。だから村中を松明で囲み出来るだけターゲットを中心の広場に集めるんだ。

 結解魔法陣は全部で12か所。使い手は各自配置された場所に赴き、私たちが村に入り次第、再度結界を張ってくれ。声を掛け合って同時に魔石を置くようにお願いする。1匹たりとも村から出してはならぬ。アンデッド系は1匹でも見逃せばネズミ算的に増えて行く。

 殲滅が終わり解放された村人の魂が地縛霊にならぬよう私が土地の浄化を始める。それが終われば任務完了だ」


「王様、この瘴気の中では俺の鼻は効かぬ」

「かまわないよ、フェンリルは村の外郭から攻めて行け。首を落とすだけで事足りるから必要以上に身体への損壊はするな。

 ヤータは空からフェンリルに魔物の位置情報をサポート、見ての通り、建物は崩れ雑草が蔓延っているから慎重に探索しろ。1匹たりとも見逃してはならぬぞ。

 私たちは中央から攻める」

 通常槍は殺傷能力が剣に比べて低く、柄が長く敵から離れて戦うため初心者向きの武器だとされている。そのため槍使いは、剣使いに比べ一段低い扱いを受けていた。しかし眼の前で繰り広げられる槍技は美しいとしか言いようがない。

 柄で相手の武器を払いのけ槍先で首を切り落とす。槍先が湾曲し、まるでカマのような形に変化している。これが神器の力か。

 しかし武器自体も素晴しいが、それを扱う彼の動きはまるで名手による踊りを眺めているようだ。俺は魔物討伐中だというのに戦闘以外の何か不思議な感覚に襲われた。

 そしてこの剣が借り物で不慣れだから、単純に俺の年齢のせいだと幾つもの言い訳を考えど、あいつは確実に俺より強い、それは足元に転がる白骨の数が如実に物語る。さらに戦いを終えた俺は汗だくだったが、あいつは汗の一筋も流れていない。動きに全くの無駄がないからだ。ほんと俺のプライド、ぐちゃぐちゃだ。

「骨は埋葬する?できるだけ故人が確認できるよう損傷は控えたのだが。ああ、お前たちも終わったか」

「王様、骨相手では手ごたえがなさ過ぎて、俺は少し不満だ」

「そうか済まないね。次はもう少し骨のある依頼を受けような。ヤータ、最終確認を頼む。私は土地の浄化を始めよう」

 実はギルドの加入メダルには依頼達成の証拠となる魔法陣がメダルの隅に添って書かれており、倒した魔物名と数が裏面に表示される仕組みだ。

 これは後日判明したことだが、数日かかるだろうと予想されていた今回の戦闘時間はおよそ30分であっけなく終了した。俺の討伐数は24匹、これだけでも仲間内では凄いと賞賛される数である。しかし、しかしだ、あの美青年は涼しい顔でなんと141匹を屠っていたし、フェンリルに至っては263匹。なのに手ごたえがなくて不満?

 アンデッド系討伐は、個としての力は弱いが特殊な魔法陣や神聖な武器が必要なため1匹につき50pが加算される。つまり今回トリアダは404匹討伐で2万20p獲得し、さらにギルド案件としての1000pが追加加算されて、めでたく銀メダルに昇格だ。報奨金は前回の魔石代金と同じく銀行に入金される。

 ちなみにギルドには加入メダルの他に銀行メダルがある。

 造りは加入メダルのそれとほぼ同じだが、表面には氏名と死亡時の送金先が印字されている。もしもの際は、ギルドが責任をもって遺品とともに遺族へ届ける手はずだ。この確約があるから冒険者は心置きなく自分の命を懸けることができる。

 裏面には銀行が誇る特殊魔石陣で、最高3回分の入出金記録と残高が自動記入される。現金化の際は本人確認を加入者メダルで行うため、多くの冒険者は1本の鎖に2つのメダルを首から下げている。

 ちなみにこの二つのメダルは冒険者だけではなく、ほとんどすべての人間が持っている。というか無いと銀行の利用が出来ず、給金の受け取りはもちろん買い物すらできないのだ。ただ冒険者登録とは違い見習い期間の縛りは適応されない。一度登録を済ませれば、半永久的に資格が継続される仕組みだ。

 そのため、いわゆる国王や貴族階級がないこの国においてギルドが持つ権力は絶大だ。その中でも要となるギルマスは数年ごとの選挙で選ばれる。外交上1番大きな街であるアテナイを首都と呼び、年2回各地のギルマスが街の代表者としてアテナイに集まり意見を出し合い国家としての体制を作っている。

 短命種だからこそ時間の流れは速く、今を見つめる思考は鋭い。例えば魔法陣を深く広く研究し応用して、日々の暮らしや安全に役立てる。長命種には思いつかないアイデアを日々探求し後世に伝える。人はそれを文化と呼ぶ。文化継承という考え方は私には全くなかったから新鮮だ。

 若い頃世界中を旅してきたが、王の居ない国は無かった。どの国でも王や貴族などの特権階級がおり厳密な身分制度があり住民には重い納税義務が課せられた。比較的穏やかだった龍の国も、程度こそ違えど仕組みは同様だ。

 今更だが、こういう国造りもあったのだな。


 街の酒場は何時も喧騒に包まれている。客の大半は冒険者とドワーフだ。

 冒険者A「おいおい聞いたか、トリアダがまた一つ伝説を作ったって話」

 冒険者B「勿論さ、俺その場に居て松明に火をつけて回ったし」

 冒険者A「凄いなお前、で、どうだった?」

 トリアダ自体、酒場には来ないし宿屋にも泊まらない。奴らの情報は外見のもの以外出回らない。

 冒険者B「それが判らないんだ、俺たち結界の外に立っていたんだけど、白銀のオオカミが風のような速さで駆け廻っていたんだけど、その後に頭蓋骨が飛ぶように転がっていって」

 冒険者A「へっ何それ」

 冒険者B「俺たち冒険者って普通の視力も動体視力も良いだろう。なのにオオカミがどんな攻撃をしたのかも見えないほどに速かったんだよ。それにカラスがな、人語でオオカミに指示を出してんだ、右だ左だって」

 冒険者A「攻撃が見えないって、マジやばいだろう。それに人語ってカラスがか?」

 信じられねえよ、夢でも見たんじゃないのか。

 冒険者B「カラスの奴、甲高い声で喋るのな。オオカミがそれに一々答えたり怒ったりしてんだ、これも人語だぜ。

 一緒の居た他の奴らも一様に驚いてたぜ。お前も魔物が人の言葉を話すなんて聞いたことがないだろう」

 今日のこいつ、やけに酒を飲むペースが早いぞ。まさか怖がっているのか。

 冒険者B「数日かかるミッションだと聞いていたから、俺、報酬金期待してたんだがな、なんとたったの30分で終了。

 あり得ねえだろう。お前もそう思うよな」

 酔っぱらうと寝ちまうからな、面倒だな。

 冒険者B「結界が解かれてみんなで村に入ったは良いけどよ、そこで初めて首が切断された白骨を直見したんだ。それも超大量の。

 これ全部あのオオカミがやったのかと思ったら、こんな使い魔を使役するあの男には二度と刃迎わねえ、そう痛感したよ。お前も気をつけろよ」

 冒険者A「そうなのか」

 冒険者B「トリアダが帰った後も村での作業を手伝ったんだがな、ギルマスが延々とあいつの槍さばきを褒め讃えてんだ、身振り手振り使ってな。あんな興奮したギルマス見たのも初めてだったな」


 二人は知らないようだが、実はもう一つ彼らに関するうわさ話がある。実はトリアダは神の化身ではないかという噂。俺は彼に会ったことはないが、彼の名前がかつての神と同名でありパーティ名が三位一体を指す名称であることなどなど。

 真偽のほどは確かめようがないし客の会話を口外するのは御法度だ。

 今は使用済みの食器を洗っているけど、これでも俺この酒場のバーテンダーだからね。


 3)魔法

 朝の木漏れ日の中、フェンリルがむっくりと立ち上がった。ヤータの起こす少し強い目の風が、白銀の毛についた枯葉と土を巻き上げ降り落とす。ヤータの風魔法もだいぶ上達してきたな。

 鼻先をくすぐる香ばしい香りに思わずフェンリルの腹の虫が鳴いた。焚き木の横にはローストされたばかりの肉塊が見える。恐れ多いことだが毎度の食事は全て王様が作る。王として玉座に座ることよりも旅をする方が好きなので、食事の準備も片付けも特に苦ではないらしい。

「王様、朝から槍の稽古か?精が出るな」

「ははは、半分辺りで半分外れ、これは朝飯の準備。昨日買っておいた長いパンを横長に切っているんだ。特にフェンリルは大喰らいだろ、パンの次は焼いた肉を切るからもう少し待っていろ」

 朝飯と聞いて、太い木の枝からfの背に留まったヤータが欠伸をしながら言う。

「フェンリルよ、王の槍技は見慣れてはいるが、切れたパンが同じ皿に積みあがっていく様は、毎回見事としか言いようがないな」

 フェンリルが涎をたらさないよう注意しながら頷く。しかしその目は、切れたパンと肉にくぎ付けだ。

「パンはこれくらいで良いか、新たな皿を置いてと。フェンリル、その肉の塊を放り投げてくれ。ああ熱いから気を付けて」

 空中で均等な厚さに切り分けられた肉が、パンの隣の新たな皿に積みあがる。

「半分に切ったパンにちょっと厚めの肉とトマト、大葉をのっけて少しの酢味噌をかけたら、こっちのパンでサンドする。大葉と酢味噌が肉の臭みを消してくれるから幾らでも食べられるだろ。お前たち用に水で薄めたワインには、ちゃんと蜂蜜を垂らしたから飲みやすいぞ。

 今日の朝食は、魔石が予想以上に高く売れたからな、久しぶりの豪華版だ」


「腹も膨れたし、王様、今日は約束通り手ごたえのある依頼を受けに行くのだな」

「ちょっと待って、その前に確認したいことがある。

 私たちのレベルが昨夜のアンデッド討伐で230になった。そこでお前たち、そろそろ魔法の練習をしよう」

「俺はもともと魔力が無かったから、正直使い方も判らぬし必要性も感じない、ヤータはどうだ?」

「フェンリルよ。俺も同じくだぜ」

 私は二匹の前で腕を組みながら大きなため息をつく。

「そうかそうか、そう言うか。お前たちに魔法を分け与えた私が、大きなお世話野郎だとでも言うのかい」

「めっ滅相もない、我の育ての親でもある王様にそのような無礼な物言いは致しませぬ」

 フェンリルが深く頭を下げる背の上でヤータも同様に頭を下げる。

「判ってるよ、忠義に厚いお前たちだ。私こそちょっと意地悪な物言いだった、ゴメンね」

 二匹の頭を軽く撫でてやる。ホント素直で可愛い奴らだよ。

「では気を取り直して、まず各自の能力と魔法を確認しておこう。

 では私からな。スペシャルな能力や魔法は後千年は使えないから除外するとして、能力は左右2つのアイテムボックス、これは時間経過が有りと無し。それから鑑定、これは皆のステータスと弱点が判る。浄化は私以外にはお前たちにもある能力だ。

 魔法は、この世界で使えるとなると結解魔法と神聖魔法だが、大量の魔力を消費するから今の私では魔力不足で使えんか。

 ああ、魔力量はレベルと同程度だと思ってよいぞ」

 フェンリルの背で大きく翼を広げたヤータが胸を張る。

「次は俺な。能力は視界共有、これは王とフェンリルに限定している。あとは隠密、身体を一時的に透明化する能力な。

 魔法は、ええと風魔法、火魔法、治癒魔法だな、治癒は怪我や病気を治すこと死者の復活までできる…はず。うむ重症者の治癒と死者復活は魔力不足かも」

 座っていたフェンリルがむんずと立ち上がる。

「俺はこの前足の爪がショートソード程度に伸びることだけだな。だがこの爪で切れないものはないと以前王様が言っていた。実際拘束の鎖とか神様とか昨日の骨もサックと切れた。

 魔法は雷と土と水で合っているか?」

「合ってるよ。喧嘩しないよう二人には3つづつ渡したからね」

 やっぱ頭いいなこの2匹。

「ではここから魔法の原理を言うぞ、これメッチャ大事だからしっかり聞いていてね」

 これまで魔法なしでも充分にやってこれた、今更魔法なんてという思いは確かにある。それに本当は早く狩りに行きたい。しかし、王様のメッチャ大事は本当に大事な話なのだ。先の大戦のときにも滅茶苦茶大事な計画を聞かされた。

 ヤータとフェンリルはお互いを見ながら頷いた。


「実はこの世界には詠唱魔法の使い手は居ない、それは人には魔力が無いからだけど、魔石と魔法陣を使って上手にこの危険な地域でも暮らしている。魔法陣はかつて賢者と呼ばれる人間に、幾つか教えた事があるけど、短命ゆえに人間はより深く追求し、得た知識を次の時代へと紡いでいる。魔力があるって神の専売特許みたいなものだからね」

 ちょっと彼らには難しかったか、まあ、ここいらは理解できなくても全く問題なし。

「これだけは知っていて。この世界は目に見えないほど小さな小さな粒が、集まって引っ付いて色々な形や空間を作っている。私やお前たちの体も小さな粒から出来ているし、空気も空の雲も川を流れる水もそう。ここまでは判った?」

 ヤータは首を傾げ、フェンリルのしっぽは垂れ下がっている。

 仕方ない、私は細い枝を手に取り。地面に〇を書き小石も使って説明する。

「粒といっても色々な種類がある。水の粒、火の粒、風の粒みたいなね。そしてどの種類の粒を集めるかによって魔法の種類も変わるのな。

 だから原則、魔法の粒がない場所では魔法は使えない。例えば砂漠みたいにカラカラな場所で水魔法は使えないし、メッチャ寒い氷河地帯では火魔法は使えない。

 さっき原則って言ったのは、魔力消費量半端ないけど、地表の奥深くには水脈も火山の熱溜まりもある。ただお勧めはしない、相当レベル上げないと1回で魔力切れを起こす。

 魔力が切れちゃうと眼がぐるぐる回って吐き気はするし、頭ン中白くなって動けなくなるからね。辛いよーあれは」

 私は長い生涯で1度だけ魔力切れを起こしたことがある。今思い出しても苦く辛い経験。時折神々の絶叫が胸に木霊する、私は侮蔑しながらも実は彼らを愛していたのかもしれない。

 気を取り直そう。ヤータやフェンリルの表情が曇っている。私は皿をつかんで、二人の鼻先で仰ぐように左右に振って見せた。

「魔法と使わずとも、弱い風ならこうして起こせる。これは皿で空気の粒を動かして、その固まりが回りに伝わって広がって風を起こす。だけど正式な魔法はモノや言葉を必要としない。人が使う魔法陣の代わりにイメージを、魔石の代わりに魔力を使う。

 これが魔法の本質だ」


 私は両腕を左右に広げると、素早く前方に動かす。

「こんな感じでヤータ、試しに拡げた翼に空気の粒をいっぱい集めるイメージで、それを前に押し出してごらん、いっぱいいっぱい集めるイメージ、その後ドンだ」

 地面に降りたヤータは王に言われた通り、翼を広げ空気の粒が集まるイメージ数秒間行い、羽ばたきと共に勢いよく前方にその塊を押し出した。

 途端、妙な奇声を上げたフェンリルの巨体が吹き飛び、太い木に激突した。木はその衝撃に耐えきれず、無残にも幹から折れている。

 私は思わず拍手をした。かつて神々でさえ無詠唱魔法は出来なかったし初魔法なのにこの威力、流石は龍の国で帝の道案内を請け負うだけはある。こいつは天才だ。

「凄く上手にできたねヤータ。今の魔力消費量は40だった。まだ魔力は少ないから魔力が切れないよう注意しながら練習だ。ちなみに魔力回復には10時間ほど必要だよ」

 私は折れた木の傍で拗ねているフェンリルに、戻っておいでと手招きをする。

「攻撃系全ての魔法は、単に前に押し出すだけじゃなく、玉にしてぶつけたり渦を巻いたり薄くして剣のように切り裂いたり槍のように突き刺したり、全てイメージで形を変える。

 それに集める粒の量によって威力を変えることもできるし、違う魔法の同時利用で、魔法を強めたり合わせ技とかも出来るから、暇なときに試してごらん」

 吹き飛ばされ不貞腐れたフェンリルは、私の傍に近づきながらも得意顔のヤータを睨みつけている。爪が微妙に伸び縮みしている様でフェンリルの怒り具合が判る。そんなフェンリルをあざ笑うかのようにヤータが再び翼を広げた。瞬時に戦闘態勢をとるフェンリル。

「止めろ止めろ、じゃれるのはそれ位で。次行くよ。フェンリルの雷について話そうか」

 途端に不機嫌だったフェンリルの顔が綻ぶ。きっとヤータに仕返しできると考えているのだろう。

「自然界でも雷や稲妻って落ちるだろ。粒同士が擦れたりぶつかったりするだけで出来ちゃうから、雷の素って実は沢山あるんだ。

 ううんそうだなあ。フェンリルの場合は、うん、しっぽに集めてみようか。いっぱいいっぱい集まるイメージ。集まったらあの木に落としてみて。

 賢いフェンリルだから決してしないとは思うけど間違ってもヤータに落としちゃ駄目だよ。一瞬で感電して死にはしないけど確実に失神しちゃうから」

 今『ちっ』て聞こえたが気のせいか。まあ良い、今はできるだけ早く二人に魔法を習得させることが先決。この森は植物の生育が良い、水分も潤沢にあるはず。あの燃えている木から森林火災が起こる前に消し止めなければいけないな。

「フェンリル、次は水の粒をイメージして、そうだな両耳に集めよう。集まった塊を燃えている木にぶつけてみて。一度で消えなくても良いよ、って一度で消えたか、凄いねえお前も」

 私の使い魔は両方とも途轍もない奴らだな、今の私なら確実に負ける。攻撃魔法を一つくらい残しておくべきだったかも。


 今朝、アイテムボックスからパンなどを取り出すときに感じた悪寒。そう、うるさく付きまとうご婦人方からの供物に紛れ込んでいる爪や髪の毛を媒体とするおぞましい呪い。

 かつての国の享楽的で陰湿で粘着的で吐き気を催した女たちを思い出す。外見の姿かたちが如何に美しかろうが、私にとってそれは何の興味も引かない。あの龍の国の彼女のような心根の穏やかで美しい女は最早いないのか。


 私の槍使いを賞賛する声は多い。しかし私の技はグングニルだからこそできる技でもある。この槍は刃の形状が直線的な槍の形から、瞬時に反りのある刀型、湾曲度の強いカマ型へと自由に変化するため、本来の突く攻撃以外にも薙ぎ払い斬撃することが可能だ。

 彼女はよく私に素晴しく優雅な踊りを披露した。その前後の所作も美しい。私の技の動きは彼女のそれらを取り込んでいる。しなやかでいて折れぬ強さ、静寂の中にあって躍動的、控えめでいて大胆。千年以上たった今でも、目をつむれば在りし日の彼女の舞姿が思い出される。

 しかし人の一生はあまりに短い。人として生き人として死にたいと言う彼女の望みを受け、私はその現実を軽視した。この先幾ら彼女が老いようが私の愛は揺るがない。しかしやがて彼女は自分の年老た姿を恥じて、突然私の前から姿を消した。

 人づてに聞いた、彼女が海を見下ろす絶壁からその身を投げ出し藻屑と消えたと。

 今でも思う。私の慟哭は海に沈む彼女に届いただろうか。それ以降女性と肌を合わせることなく暮らす私を憐れんで、魂だけでも戻ってはくれまいか。

 ヤータと出会ったのは丁度そんな時だった。憔悴しきった私の肩に突然止まり寄り添ってくれた。龍の国を旅立とう、生涯の友ユミルとヤータが私の心を抱きしめてくれる…


 おぞましい供物を早く処分したい、全部捨てよう。こんな物、心を静めれば浄化できようが彼女との思い出まで汚れてしまいそうで、見るのも触れるのも嫌だ。

 人のかけた呪いなど火で滅却すれば無効化できようが、何しろ量が多い。森林火災の心配があるので土魔法を使いフェンリルに深い穴を掘らせ、その奥底で放り投げた供物を燃やし尽くす。火力が足らなければ風魔法で火力を強め、消火は水魔法、その後は土魔法で穴を元通り。完璧だ。私の日々の平穏を取り戻すため、何としても魔法を早急に習得させねば。


「今はそれぞれの部位に粒を集めることに意識しているが、すぐに部位を意識すれば魔法が発動するようになるよ。ヤータは羽と嘴、フェンリルはしっぽと両耳、前足だったね」

 かつての神々は、長い大げさな詠唱を唱えなければ魔法を発動出来なかった。発する言葉でイメージを固める方法だ。実は無詠唱での魔法は私しか使えなかったのだ。

 しかしこの素直で可愛い私の使い魔たちは、見事に無詠唱で魔法を発動している。彼らに言ってはやらないが、すでにお前たちは神を超えた存在なのだよ。

「じゃあ最後に魔法の実践だ。フェンリル、此処に深くて大きな穴を掘って、勿論土魔法でね」


 4)少し手ごたえのある討伐依頼のはず

 翌朝のギルドは少し変だ。私がドアを開けた途端、ザザザという音とともに依頼書が張られた壁面までの、道が出来た。それに外にまで漏れていた声やざわめきが消え、今は異様に静かだ。というか冒険者たちが口を閉ざし、一斉に両側に飛びのいたのだ。ドワーフの息子でさえ私が通り過ぎるのを竹馬の上で待っている。

 どうした。私は壁面最前列の不自然にできた空間で、それでも有難く依頼書を眺めながら、どの冒険者の腕も依頼書に触れることなく硬直しているのを不思議に思った。

 前回は笑われていたのに。よほど誇張された噂が流れたのか、たかだか骨を成敗しただけの話だろう。

 やがて私のすぐ後ろに控えていたフェンリルの鼻先が、1枚の依頼書を指し示す。ヤータも頷きで同意を示す。ホント可愛い奴ら、私が人前で話してはいけないと注意したことを今も守っている。

 しかし不思議だ、いつの間に文字まで読めるようになったんだ。私は教えていないぞ。それにフェンリルなんて生まれて、まだ3年にも満たない子供オオカミだぞ。


 私たちが選んだのは、森近くにある幾つかの村からの合同依頼だ。

 森の中にオークが巨大集落を作った。オークを殲滅し集落を破壊してほしいという内容だ。しかし魔物の数は千匹にものぼり、最上異種のオークキングまでいるため、集落の破壊までとなるとS大金貨級の冒険者が数人は必要だ。なのに今、街には一人も居ないとのこと。オークキング相手ならフェンリルも喜んでくれそうだが、千匹のオークはちょっと邪魔くさいかもな。しかし彼自身が選んだ依頼だ、文句は言うまい。


 依頼を出した一つの村の村長に詳しい話を聞こう。

「毎年この時期はオークの繁殖時期でして、各村を襲っては備蓄食料や魔法陣とともに適齢期の娘を攫って行くのです。私の娘も攫われたまま戻ってきません」

 村長は窓の外を眺めながら呟く。隣に座る彼の妻は衣服で顔を覆うが、両肩の震えが彼女の悲しみを私に伝える。

「お前は寝室にお戻り、これからの話は私でもキツイ」

 妻の背中を見送りながら、村長は言葉を続けた。

「オークには雄しか生まれません。そしてその繁殖には人間の娘を使います。繁殖期のオークの性欲は凄まじいらしく、捕まった娘たちは子を宿したと判るまで、昼も夜も複数の魔物に犯され続けるのです。子供が生めなくなる年齢になるまで、何年も、何年も」

 村長は目頭を指で押さえ、声が震えぬよう深呼吸を繰り返す。

「これは小さなオーク集落を殲滅させた、ある冒険者から聞いた話です。幸い数名の女性を救助できたのですが、皆一様に精神を病んでいたそうです。日夜魔物に犯され、愛しいはずの腹を痛めた我が子はオーク。そんな環境下で清浄な精神を保つことなど無理でございましょう。

 暫くして落ち着いたのか一人の娘が、今お話した内容を語ったそうですが、語り終わると冒険者の腰にぶら下がるナイフを奪い自分の喉を搔っ切った。

 冒険者は首から下がるギルド加入証を見て、私の家にやってこられた。そうです、喉を掻き切ったのは私の娘です。その年の秋の収穫が終わったら結婚する予定でした。婚約者は同じ村の青年でしたから私たちとも顔なじみで、娘たちは幼い頃から愛を育んでいたのです。娘は攫われる前日まで、彼との結婚生活をそれは嬉しそうに話しておりました」


 森に入ると少しひんやりとする。村長の話を聞いて高ぶった神経が、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。婚約者は娘の死を聞いた後、静かにこの村を去ったらしい、私が龍の国から立ち去ったように。

「ヤータ、急ぎ集落を探してくれ、フェンリルはこのまま私と待機だ」

 両手から伝わるフェンリルの体温が気持ちいい。婚約者は娘を忘れられただろうか、幸せな人生を送っているだろうか。

「見つけた」

「二人とも聞いてくれ、オークは見かけのわりに知能が高い、集落内に罠を仕掛けている可能性もある。急所は胸中央にある心臓だ。今回は数が多い、ヤータは嘴でのアタック攻撃、フェンリルは身体を引き裂け。魔法は最後に使うから温存。奴らの武器は石斧と石槍、弓矢。

 特にオークキングには気をつけろ、相当数の味方がやられん限り表には出てこない。見たことがないので鑑定できないが何らかの能力は持っているとみていいだろう。以上だ、行くぞ」


 最初は張り切っていたはずのフェンリルだが、今は不満げな表情だ、彼にとって普通のオークは全く手ごたえがない。魔物の動きや攻撃が単調なのだ。数が多いだけでチームプレーが出来ていないし、危惧していた罠の存在も見当たらないなんて、規模のわりに集落の守りも杜撰だ。石斧が当たっても石槍でついても傷一つ付かないフェンリルに恐れ、今は逃げ回るオークも多い。

「ヤータ、1匹たりとも森へは出すな、フェンリルもちんたらするんじゃない、真面目にやれ。もし1匹でも逃がしたら、私は本気で怒るからな」

 いつもの私ならこんな風に怒声は上げない。いわば八つ当たりに近い感情が私の胸中に吹き荒れる。今みたいに2匹が本気で立ち向かえば、千体以上のオークなど半時もあれば壊滅できるんだ。


 オークキングはあの家に居る。しかし目にした光景は想像以上の異様さだった。己の体を全裸女性で包み込み、にんまりと笑っている。女体をまるで鎧のように鎖で身体に結び付け、頭には女体の兜、両手足にも。さあ、何処を攻撃する気だい?そんな声が聞こえそうだ。

「まずは女たちを助ける。フェンリル、女に傷をつけず鎖だけ断ち切れるか」

「もちろんだ」

 しかし突然フェンリルがその場に崩れ落ちた。見ると寝息を立てている。しまった。能力の確認を怠った私のミスだ。

 あいつは『睡眠』、目が合った相手を瞬間に深い眠りに誘う能力か。急所は目だ。奴は眠っているフェンリルをその巨体で押し潰すつもりだ。

「ヤータ、隠密を使って奴の目をつぶせ、両目ともだ。急げ」

 私はオークキングの注意をこちらに向かせるため、槍の舞を披露する。こんな奴に見せるには惜しい彼女の舞だ。勿論両目は閉じて舞う。しかし女たちが解放されないと迂闊に攻撃できない。ヤータ、早く目をつぶせ。


 突然女性陣の壁が崩れた、眠りから覚醒したフェンリルが鎖を断ち切ったのだ。両目から血を流し怒り狂うオークキングの側からフェンリルが娘たちを振り払う。

「ヤータ、風魔法で女性たちだけを巻き取り、安全な場所に連れて行け、オークキングの巨体に踏みつぶされる」

「お安い御用だ」

「フェンリル、うたたねした罰だ。出来るだけ残酷にあいつを殺せ」

「承知」

 オークキングが振り回す太い腕を器用によけながら、先ずは頭部に爪をかすめる。頭の皮を半分剥がされたオークキングは逃げ出そうと駆けだす間際、片足が咬みつぶされた。あとはフェンリルの独壇場である。

「こいつ、食ってもいいか」

 オークキングは生きながら足や腕から食い荒らされる。今はもう声すら出せない。ヤータも啄みにやってくる。

「結構旨いな」

「新鮮だからな」

「俺は心臓が好みだな。死ぬ前に回復させてもう一度食う」

「もう今日は昼飯要らないな。王様、王様用に少し残しておこうか」

 私はしばらく肉は要らない、というか食えないだろうな。それに比べこいつらは、神獣といえど元々はオオカミとカラスだ。想像以上にワイルドだ。お陰で私の怒気はキレイさっぱり消えていた。


 オークキングの能力から解かれた女性たちは順次目を覚ます。しかし、どの女性も目の焦点が合っていない。魔物に犯され続けたんだ、正気でいることは反対に地獄なのかも知れないな。

「フェンリル、悪いが村長に村人を寄こすよう頼んできてくれないか、このまま女たちをここに残して帰れないからな。勿論人の言葉で丁寧に。

 その間にヤータはっと、結構魔力使ったな、よし休憩タイムだ」


 女たちが居なくなった後、2匹は魔法を駆使して集落を跡形もなく潰した。

「おいフェンリル、雷魔法で家々を潰して回れよ、その後風魔法で吹き飛ばすから」

「それより俺の土魔法で、一気に建物ごと飲み込むって方が効率良くねえ」

「馬鹿か、それこそ魔力切れを起こすだろうが」

「じゃあ俺が土魔法で大穴を開けるだろ、家は爪で細切れに切り裂くから、ヤータは風魔法で瓦礫を穴に放り込むってのはどうだ」

「俺、女助けるときに魔力40も使っちまったから、それは無理だ」

「俺ら、お互いショボイな」

「違いない」

「今回の片づけは中途半端で終わるけど、王様許してくれるよな」

「多分な」


 街の酒場は何時も喧騒に包まれている。客の大半は冒険者とドワーフだ。

 冒険者A「おいおい、トリアダ、またランク上がったってよ」

 冒険者B「あいつら依頼受ける度にランクアップしてねえか」

 ぬるくなったビールを喉に流し込む。ほんと羨ましい限りだ。俺たちなんて未だに初級だぜ。

 冒険者C「千体のオークとオークキングを討伐したらしいからな」

 冒険者B「千体とオークキングだろ、最早実力S大金貨クラスってか。ちょっと前まで見習いだった奴らがよう」

 冒険者A「金も相当に貯め込んだだろうな」

 冒険者C「でも未だに宿も借りずに野宿生活らしいじゃん」

 冒険者B「夜に町や村から外に出てくる女は居ないから、気楽なんじゃないか」

 ぬるくなったビールを喉に流し込む。男前で強くて金持ち。くそー

 冒険者C「歩く度美人に騒がれる生活って、男なら一度は経験してみたいよな」

 冒険者A「でもよう、髪の毛や爪なんかを入れた菓子やら料理を渡す女もいるって話だ。怖くねえか」

 冒険者C「そりゃあ呪いか何かの類だな」

 冒険者B「でも最近は使い魔が怖くて近づけねえって話だぜ」

 3人は知らないようだが、実はもう一つ彼らに関するうわさ話がある。実はギルドの女性職員で、彼への接近禁止令が出たって噂。俺は彼に会ったことがないが、彼の腕や髪を必要以上に触れる職員がいるらしい。彼はその行為を不快に感じているらしく、嫌気から街を離れられては困るってんでギルドマスター直々の指令だそうだ。

 真偽のほどは確かめようがないし客の会話を口外するのは御法度だ。

 今は使用済みの布巾を洗っているけど、これでも俺、この酒場のバーテンダーだからね。


 5)第3の目

 今日は食材や日用品を買おう。その前にギルドに寄って銀行で少しお金をおろす。預金高も相当増えたしレベルも1000まで上がっている。もう誰にも笑われることもないだろうから少しの間ゆっくり休んでもいいよな、新たな魔法を考えるのもアリか。

 本当は街の食堂も利用したいのだが、また料理の中に何か不吉なものを入れられたら困るので利用できない。恋愛成就の呪いらしいが嫌なものは嫌だ。

「あれ王様、メダルが金色に変わってる、俺の耳の色だ」

 野菜とフルーツは少し多めに仕入れておこう。この野菜はぬか漬けにすると旨そうだ、よし買っておこう。

「いいや俺の嘴の色だ」

 そうそうワインも買い足しておくか、蜂蜜もだな。

「ハイハイそこまでな。二人の色でもあり私の瞳の色でもある」

 後は調味料と香辛料だな、店は何処にあるのだろう。

「そう言えば額の瞳の色だな」

 コンブと鰹節、売っている店はないかな。海の傍だと有るかもだけど、海には近寄りたくない、今でも辛いから。

「王様のその目ってどんな役目があるんだろう、ヤータは知っているのか」

 そう言えば冒険者用の靴があるんだな、私だけだもんなサンダル履いてる冒険者。よし靴屋にも行こう。

「そう言えば俺も知らん。唯の飾りではあるまい」


 あらかた買い物を済ませた私たちは、何時もの野営地で夕飯を食べていた、今日のおかずは『肉じゃが』と『卵焼き』だ。これだけでは使い魔たちには物足りないかと、スライスして余ったロースト肉を出した。フェンリルは昨日あれほど生肉を食べたはずなのに、目の前の皿にくぎ付けだ、特に肉塊に。

「では食べようか、いただきます」

「いただきます」

 二人は声を合わせ、食事にむしゃぶりついた。おいおい、食材となった命への感謝と作ってくれた人への礼が含まれての『いただきます』なんだぞ、説明しただろう。お前たちのそこに感謝の気持ちはあるのか。

 時間がある時私が調理するのは、龍の国の料理が多い。味付けに必要な『醤油』と『みりん』は私が初めて目にする調味料だったので、製造方法を伝授してもらった。この国でもお目にかからぬ調味料なので、時間経過の有るアイテムボックスで今も熟成中だ。


「なあなあ、昼間ははぐらかされたけど俺たちにも教えられないほどの秘密なのか、それなら仕方ないけどよう」

「秘密というほどのものではないよ」

「じゃあ教えてくれるんだ王様」

 この話はちょっと自慢話に近いから、あんまり言いたくなかったけど、使い魔2匹にこう言われては教えないわけにはいかないな。直接いう事ではないが、ヤータにもフェンリルにも私は何度も助けられ支えられてきた。だから彼らには凄く恩義を感じているんだ、絶対言わないけど。

「これはね、真実の神の印なんだよ」

「真実の神?」

「そう言えば、龍の国からの帰りに立ち寄った国にも、仏といったかな、王と同じように3つの目を付けた像があったな」

「あれな、実はあれって長い毛を編みこんでくっ付けているんだよ。私の目を見た人間が考えたのかもしれない。私が神であることは周知していたから、少しでも神聖な箔を付けたかったのだろうね、その像に」

「なんだ、毛か」

「そう、だから私の目とは全く違う。私のは宇宙神が認めた者にだけ与えられる目なんだよ」

「王様より偉い神様がいるって事?」

 もたれているフェンリルの腹毛は凄く柔らかい。前足と後ろ足で包み込まれているこの態勢が一番安らぐ。

「私は自分自身がいつどこで生まれたのか親がいたのかも知らない。頭中に轟いた声で、初めて私は此処に居ることに気づいたんだ。それ以来ずっとこの姿だった訳」

 ヤータが枝から飛び降りて、私の懐へ滑り込む。私が一人ではないと知らせてくれるヤータの行為に幾度救われただろう。

「宇宙を統べる者だと告げた声は、その主の一部から私を作ったのだと、その証拠を額に付けるとも言った。何のために私を作ったのか、私に何をさせたいのか、聞いたが答えてくれなかった」

 アイテムボックスからワインの水割りを取り出し、それぞれの器に注いだ。口の中に柔らかな香りが広がる。

「この目には沢山の役割がある。お前たちは私の魔法でなったのだが、私の不老不死は太陽や月から絶えず送られるエネルギーが原資なんだ。魔力の放出も此処から行う。

 ヤータとの視界共有もだ。フェンリルは視界を共有するとヤータの視界しか見えないが、私の場合は同時に2つの景色を見ることが出来る。

 直前の危険回避もできる。私が魔物と戦って怪我一つしないのも眼のおかげ。

 思念伝達もだ。声に出さずとも聞こえるだろ私の言葉が。まあこれは一方通行だ、私からしか送れない。ああ鑑定もこの目で見てるな。

 状態無効化も。

 あれ、もしかして私の能力って思っていた以上に多いな」


 今日のワインは奮発しただけあって、かなり旨かった。空を見上げると2つの月が目に留まる。今も優しく切ない波動が額に広がる。

 何故私が作られたのかなど思い悩む日々もあったが、今はどうでもよいと思う。助けを求める人がいて、助けられる私と仲間がいる。私たちは、無限の時間をこうして生きてゆくのだろうな。


 6)再びギルドからの依頼案件

 私たちの野営地は、草原や森であったり、川や山の傍であったりとその日の気分で場所決めをする。雨の日などはアイテムボックスの時間経過アリで寝泊まりすることもある。ただ、味噌やら醤油やらを熟成しヌカ漬けのツボやらが結構入っている。ボックス自体、開閉の頻度が少なく閉まった状態が長いので、何とも言えない匂いが充満している。特に鼻が利くフェンリルには何とも辛い場所のようだ。それでも私から離れないと我慢している姿は痛々しいが愛らしくもある。だが間違っても無しのボックスには入らない。時間が止まるということは中の空気も止まっていて、幾ら吸い込んでも僅かな空気すら入ってこない、つまり呼吸ができないのだ。死にはしないがずっと水中で溺れているような状態は流石に辛い。

 そんな私たちの野営地を探し回ったギルド職員が、額の汗をぬぐいながらギルドに来るよう告げる。そう言えば最近ギルドへの顔出しをしていない。ロングバケーション真っ最中だ。

 職員が言うには、ギルマスからの緊急案件があるらしい。

「駄目だ、王様以外は乗せない。特にその男、汗臭いし服も汚いし、もしも俺の毛並みに手汗なんかが付いたら、穢れを払うまで王様を乗せられなくなる。だから絶対嫌だ」


 ギルマスの部屋の椅子に腰かけた私は、フェンリルの毛並みを撫ぜている。かつて大戦の折に見せた忠誠心を疑ったりしない。フェンリルは真剣に私を思い職員の同乗を断ったのだろう。しかし今日の野営地は比較的街に近かったとはいえ、一人取り残されたギルド職員の呆けた表情。彼は無事に帰還できただろうか。

 ようやく書類の段取りが終わったのか、ギルマスが顔を上げる。

「この間のオーク討伐は助かった。僅かな時間であれだけの数をこなすなんて、お前たちの戦闘能力が如何に高いかを思い知ったぜ。

 救助された女たちは、まだ正気には戻らないが、親や兄弟が引き取った娘も居るし引き取り手の居ない娘は村全体で保護しようって話もある。

 実は俺から近隣の村長に声をかけて、付近の森や街道沿いに集落以外にも危険な魔物が居ないか、定期的に巡回しようって話があるんだ。まあ、あれだけの集落を見逃していたのはギルドの責任だ。運営費の半分をギルドが持ち、残り半分を各村が出し合うってことで話が纏まったんだがな。

 巡回初日にとんでもない魔物が見つかった、それも番でだ」


 ディールは整理棚から1冊の本を取り出した。魔物図鑑のようだ。ページを捲りながら

「確かこの辺に、おおあった。見てくれこいつ」

 ディールの指先が魔物を指し示す。『アイルーロス』ネコ科の魔物だ。基本は小動物を好むが雑食なので村を襲うこともある。

「こいつらは兎に角素早い、爪で高い場所に上り体の柔軟さを生かした回転技の爪攻撃もある。大概の冒険者は魔物の姿を見失い、上下左右からの爪攻撃と噛みつき攻撃を受け、傷だらけで逃げ去っている。殺傷能力はさほどないが、冒険者泣かせの魔物だ」

 図鑑を元の整理棚に戻しながら、大きく息を吐きだす。

「1匹でもそれなのに今回は番ときたもんだ。番ならいずれ子をなすだろう。1度の出産で5匹程度生まれるらしいから、あっという間に集団形成だ。

 普段なら森に居る鬼ネズミで事足りるだろうが、子供が生まれると森だけでは賄えねえ、今のところ被害は出ていないが、いづれ村を襲う可能性が出てくる」


 地図に記された発見場所を中心にヤータに正確な居場所を探らせる。出来ればねぐらを見つけたい。すでに出産済みの可能性もある。

「今回の依頼は攻撃のタイミングが重要だ。計画を伝えるから集まってくれ」

 ヤータの偵察の結果、やはり子供が生まれていた、5匹だ。視界共有し洞窟内の情況を見る。まだ独り立ちには少し早い時期だ。洞窟の薄暗い中では乾燥した藁の上で、兄弟同士がじゃれあっている。親の愛情の中で育てられる子供たち。ふいに生まれたてのフェンリルが父親に暴力を振るわれ、死にかけていた哀れな姿を思い出す。子供は親を選べない。辛く悲しい現実が私の胸を掻き毟った。

「まずは、1匹を外におびき出す。洞窟入り口でフェンリルが咆哮しろ。必ず1匹は外に出てくるが、もう1匹は子供を守るため洞窟の奥に連れて行くはずだ。

 出てきたところをフェンリルの土魔法で足を数秒で良いから固定しろ、瞬時に私が首を切り落とす。

 次に洞窟内に残る1匹も外に追い出す。狭い空間では槍が振りづらい。奥からヤータが風魔法で押し出してくれ。出た来たら最初と同じ手順を繰り返す。

 これからギルドに戻り檻と首輪を準備してもらおう、子供5匹は生け捕りだ」


 アイルーロスの皮は楽器に貼ると、素晴しく美しい音を響かせるらしく、楽器マニアの垂涎の的らしい。それなら今殺すより首輪をつけて暫くギルドで飼育し、適度に育ってから皮を剝げばよいと進言した。

 私はディールが言うように残酷なのだろうか、だけど、せっかくこの世に生まれてきたのならば、痕跡を残さず消滅するよりも人の喜ぶ姿となって残る方があいつらのためだ。


 街の酒場は何時も喧騒に包まれている。客の大半は冒険者とドワーフだ。

 冒険者A「おいおい、トリアダ、またやってくれたな」

 冒険者B「あいつら、ギルド依頼2度目だぞ」

 冒険者C「今回は、2体のアイルーロスを討伐したらしい。首を切り落として皮に傷なし。ギルドに売りが出る前なのに予約が殺到しているらしいぞ」

 冒険者B「しかも子供は5匹生け捕りだ。これも成獣したら皮を売る予定だろ。ギルド大儲けってか」

 冒険者A「しかし今回の魔物、動きが素早すぎて姿見失うし攻撃も半端ないらしいのに、よく依頼受けたよな。しかも首チョンだぞ」

 冒険者C「しかもトリアダのメンバー、傷一つないってな」

 冒険者B「信じられねえ」

 冒険者C「まあこれからも難度高い案件、トリアダへ行くだろう。奴らならどんな依頼も断らないような気がするぜ」

 冒険者A「それによう、俺たちとは違いすぎて依頼、重なることはないだろうから、良いんだけどよう」

 冒険者C「なんか同じ冒険者として、それもどうよって思うわな」

 冒険者B「違いねえな」

 3人は知らないようだが、実はもう一つ彼らに関するうわさ話がある。

 親魔獣を討伐後ギルドの檻などが搬送されるまで、彼らは猫じゃらしやフェンリルのしっぽなどで子魔物と仲良く遊んでいたのに、成獣に育ったら皮を剝いで売ればよいと進言したらしい。それも笑顔でだ。

 俺は彼に会ったことがないが、彼は見た目ほど麗しくも優しくもなく、実は人間的にとても残忍な男なのかもしれない。

 真偽のほどは確かめようがないし客の会話を口外するのは御法度だ。

 今は使用済みのコップを洗っているけど、これでも俺、この酒場のバーテンダーだからね。


 7)息子の帰還

 俺は、妻が暮らした村をアンデッドから取り戻すために、この職に就いたといっても過言ではない。街どころか国さえも利用するには権力と信頼が必要だ。街や近隣の村々の悩みや相談を聞き対処して、地域の信頼を勝ち得た。ギルマスの会合には1度も休まず参加し、積極的に具体的な対策案を提示し、存在感をアピールした。

 私の愛する家庭を、幸せな未来を壊した魔物に一矢報いたい、その一存で今日まで来た。あの夜から酒は一切飲まず、時間があれば剣の鍛錬も行った。


 空から神の国が落ちてきて、神々は全て死に絶えたと聞かされても私は祈り続けた、祈らずにはいられない。何とか知恵を、アンデッド討伐の方法を教授くださいと願い続けた。

 しかし神が不在となった世界では人々の絶望感が渦を巻く。この渦に飲み込まれてはならない。神が居なくともギルドがみんなを守る。私は町中を駆け巡り訴え続けた。幸いにも街への実質的な被害がなかったせいか1年ほどで混乱の時期は過ぎ去った。


 そして翌年には彼の存在を知り、私の胸中は張り裂けそうになる。彼は祈り続けた神と同名を名乗り、神の国で暴れまくったオオカミと同じ名の使い魔を従え、私の前に現れた。

 祈りが通じたのだ、神は形が消えようが存在は残っている。


 彼から借りた劔を手にした途端、体中の気が劔に集まるのを感じ恐怖した。彼はこれも神器だといったが嘘ではない。まるで剣が意識を持ち我に同調せよと襲い迫るようだ。気をしっかり保たなければ、俺自身が飲み込まれる。

 事が終わった後、彼は土地を浄化すると言った。そんなことが人間にできるのか、彼は神の何なのだ。呼吸が落ち着くとともに妻や友人の笑い声が聞こえた気がした。ああ本当に終わったんだ。


 みんな、10年も待たせてすまなかった。お前もようやく静かに眠れるな。

 お前は花が好きで、特に雑草のような小さな花が好きだったな。「花なんて腹も膨れん、どうせなら果実やキノコを探そう」そう言った俺に「あらあら知らないの、お花は心の栄養なのよ」って笑っていたっけ。大きな花が好きな奴も居るだろ。俺は村人全員のお骨を共同墓地に納骨し数種類の草花を植樹した。気に入ってくれると良いな。


 久しぶりに帰宅し、残された僅かな妻の遺品を整理していた。俺が結婚の記念に送ったネックレス、アンデッドになっても大切に持っていてくれたんだな。この髪飾りは…

「村の噂を聞き、堪らず来てしまった。父さん久しぶり」

 玄関のドアが開き、8歳で生き分かれた俺の息子が立派な青年の姿で駆け寄ってきた。母親譲りの優し気で大きな瞳が印象的である。

「あの時、僕は父さんを恨んで憎んで、悲しみから逃げ出した。でも父さんは違った。この苦しみに立ち向かい勝ったんだ」

 俺の手元にある髪飾りを見つめ

「それ、母さんが大切にしていたモノだ。父さんからのプレゼントだよね」

 村の再興はこれからだ。瓦礫を取り除くことから始める。多くの人手と金が必要だがギルドからの補助金は僅かだ。全然足りない、俺は俺の全財産を村復興に差し出すつもりだ。

「僕が帰ってきたのは、村の立て直しに少しでも役立ちたいからだよ。爺さんも婆さんも、村が運営する老人向けシェアハウスに住むから心配せずに行って来いって」


 8)ギルドへのクレーム

 ある朝、金貨メダルの冒険者が数名でギルマスの部屋にやって来た。

「ギルドは最近の高難度案件の全てを、トリアダに依頼していますよね」

「俺たちにも案件回してくれないと不公平ですよ」

「これは俺たちだけが言っているわけではないです。大金貨の方々も同じ意見をお持ちです」

 ふう、これは困ったな。

「俺たち金貨レベル以上は、今更壁の依頼書のようなショボい依頼は受けられないんです、ギルマスなら判るでしょう」

「俺たちにも生活があります。このまま不公平な対応が続くなら、俺たち他の町に行くしかないんですよ」

 このレベルは、やたらプライド高い系が多いし自己顕示欲も半端ないから、さてどうしたものか。


「ギルマス大変です。街道筋に『ルコス』の群れが現れました。その数約50体、商人の荷馬車が襲われています。早急に指示を」

 オオカミ型の魔物はリーダーを核として群れで行動することが多い。

「丁度いい。出番だお前たち、早急に現場に駆け付けろ」

「50体だろ、俺たちだけじゃあ無理だ」

 これくらいで尻込みするなら、最初からクレームたれるな。

「至急トリアダに要請を。お前たちも行って怪我人の確保を頼む」


 目の前に現れた白銀の風

「あれが噂のフェンリルか。確かに強そうだ。あんなの連れて歩いたら注目の的にもなるよな」

 金貨メダルの冒険者が怪我人や避難民の誘導を行う。

「後のメンバーって槍使いの優男とカラスだぜ。カラスなんて戦力外だろうし、あのモテ男の惨めな場面でも見れたら皆で笑おうぜ」

 怪我をした冒険者を含め誰もトリアダの戦う姿を見た者はいない。

「今まで奴らの功績は、あのオオカミが作っていたんだろうな」

 特等席で観戦と洒落込みますか。

「今回はヤバいだろう。1匹だけ強くても相手はルコスだぞ」

 本当にヤバヤバの時は、俺たちを頼っても良いんだぜ。

「フェンリルと私は攻撃に回る、ヤータは怪我人の治療を頼む」


 ギルマスが冒険者たちに声をかけた。

「よく見ておけよ、すぐに何故トリアダに依頼が集中するのか、その理由が嫌でも判るだろう」

 避難した人々が一塊に集まった。護衛についていた冒険者のすべては傷を負い、うめき声をあげる者もいる。その上空にヤータと呼ばれるカラスが居た。拡げられた翼から突然まばゆい光がほとばしる。それは全ての者たちの傷が一瞬で癒された瞬間だった。

「王よ、治療は済んだ。上空から視察する」

 青年とフェンリルは馬車を挟む形でルコスに向かって歩く。青年は槍で華麗な舞を披露しながら馬車へと近づく。その後には血しぶきを上げるルコスの群れ群れ。馬車の反対側では白銀が走り去った後にやはり切り刻まれたルコスの肉片が散らばる。

「1分もかからず倒しやがった」

 冒険者の一人が呟く。

「王よ、ルコスのリーダーが逃げていく」

「フェンリル、頼んだ」

「お任せを」

 街道の端には、今では虫たちの餌となり果てた細切れの肉片が転がっていた。


「ギルマスよ、もう少し手ごたえのある魔物はいないのか。同じオオカミ種だから少しは期待していたのに、まるで弱い者いじめをしている気分だ。運動にもなりゃしない」

「そう言うなよ、怪我人が居たからヤータの練習にはなっただろう。まあ確かに魔物に対しては、私が居なくてもいいかなとは思ったけど。なあディール、わざわざトリアダを呼ばずともそこにいる金貨レベルの彼らだけで充分だったんじゃあないか?」

 そう言ってやるな、彼らもそうしたかっただろうよ、できるならな。


 9)宝石商からの依頼

「街中をリサーチしていたら、面白い話が聞こえてきたんだ」

 ヤータはたまにフラフラと何処かへ飛んでゆく。急用の際は私からの思想伝達があるだろうから安心して出かけられるらしい。そして結構面白い情報を仕入れてくる、今回の話もそんなとこか。

「どんな話だ、この間みたいに、ビールとワインしか置いていない酒場で、洗い物しか任されていないのにバーテンダーを気取っているオッサンがいるなんて話じゃないだろうな」

「あああのオッサン、この間クビになったぞ。理由は知らん」

 ええ、私的には面白かったけどな、その手の話。身体はデカいけどフェンリルはまだ3歳だから理解できないのかもだな。

「この話なら、きっとフェンリルも気に入ると思うぞ。なんせダンジョンに関する話だからな」

「王様、ダンジョンってなんだ」

「私も知らないよ、ヤータは詳しいのかい」

「昔一度だけ入ったことがある、入り口付近だけな。冒険者たちの話から推測すると、魔物を仕留めたり宝箱を見つけたりして色々なお宝をゲットする場所みたいだ。何でも宝石商がギルドに宝石収集の依頼を出したらしい。これからギルドに行こうぜ」

「では早速ギルマスに聞きに行こうぜ、魔物ってどんな奴がいるかも聞きたいしな、王様早く行こうぜ」


 印の付いた地図を片手にディールが私の前に腰かける。

「お前たちが来てくれて助かったよ。大店の息子が結婚するとかで、挙式の時に宝石が付いた豪華なネックレスを渡したいらしく宝石商に注文が入ったはいいんだが、肝心の宝石が無いんだわ」

「宝石商なのに宝石が無いのか」

「小粒の宝石ならあるらしいがメインとなる大粒の宝石が無いらしく、急ぎギルドに依頼が入ったってわけだ」

 私はその手の類に興味は無かったのだが、かつての国の大臣クラスは挙って大粒の宝石をジャラジャラ付けていたっけ。

「宝石なら鉱山で発掘すればいいんじゃないか」

「うちの街は宝石鉱山を持っていないし、他の街の鉱山は採掘権やら何やらで採算が採れないんだとよ。そこでダンジョンで大粒の宝石を探してくれないかと依頼が来たわけだ」

 おお、ここでダンジョンか。

「うちらが受け持つダンジョンがここ。まだ完全踏破のされていない深いダンジョンだ。俺のパーティも15階層までは行ったんだが、あいにく食料切れでリタイヤだ。どうだ、種類は問わないから大粒の宝石探してくれないか、お前たちなら行けそうな気がする」

「何を隠そう私たち、ダンジョン自体何なのかも知らないド素人集団だ。もう少し詳しく話してくれ」


「そこからか仕方ねえ。魔素が魔獣を作ることは知っているよな、ダンジョンとは、簡単に言えば人間を食いたくて大口を開けている洞窟型の魔獣だ。

 人間を誘い込むための餌が宝石だったり珍しい武器だったりする。下の階に行くほど魔獣のレベルは上がるがお宝の価値も上がっていく。ただし全ての魔物がお宝持ちではない。

 ダンジョンはいわば魔物の腹の中だ、ここで死んだものは、魔物であれ人であれすべて消化されて消えて行く。お宝もしばらく放置すると溶けてしまうから注意だ。

 しかしダンジョンは全ての人間を殺したりしない。冒険者が素晴しいお宝を持って無事生還したら皆に吹聴するだろう。まあ新しい人間を誘い込むための撒き餌みたいなものだ。こうして需要と供給のサイクルが出来上がるってわけ」


「取り敢えず私が鑑定でお宝持ちの魔物を探すから、フェンリルは私が指示した魔物だけ狩ってくれ。ヤータはドロップ品の回収を頼む、ああショボいのはスルーでかまわない。

 ディールが言うには、ダンジョン内は魔物の種類が多いから、倒した魔物のポイントは随時加算される仕組みらしい。目指せ大金貨メダルって感じか」

「王様はそう言うが、5階層ごとにあるボス部屋までこんなショボキャラ相手では、俺の爪が泣くぞ」

 確かに、スライムやら鬼ネズミ、牙ウサギ相手ではフェンリルが不機嫌になるのも判る。3階層からはユニーク個体が出てきたが、それでもフェンリルにはショボショボだ。ドロップ品も小さな魔石が出るだけだ。

「ヤータ、ボス部屋にある外への転移魔法陣に小さな魔石が要るらしいから、少し集めておいてくれる」


 そう言えば、ボス部屋の手前にはセーフティスペースがあるんだった。休憩いる?要らないな、疲れるほどの魔物は居なかったし。

「5階層のボス部屋ってユニーク個体が30匹ほど居るだけじゃん。ちゃっちゃと次行こうぜ、俺、なんか期待していたのと違う」

「下に行けば行くほど、強い魔物が出てくるから、今は辛抱な」

 確かにこの程度の数なら、フェンリルの爪2振りで片付いちゃったし、小さな魔石を集めているヤータもため息をついちゃってるけど、私の槍も出番を待っているのだよ。


 6階層からは犬頭のコボルトやゴブリンが居た。こいつらは、どちらもユニーク個体が群れを引き連れ、弱いながらに連携した攻撃を仕掛けてくるので、普通の冒険者には嫌がられている。

 前方にゴブリンと対戦しているパーティがいる。助けを求められない限り、手出ししてはいけないらしい。フェンリルは彼らの頭上を軽々と飛び越え、その先の魔物に襲い掛かった。12匹いたコボルトは一瞬で骸と化し、消化されて消えて行く。お宝は…、無いのか。

 下層へ行くにつれ、群れの構成魔物数が増えて行く。10階層のボス部屋では、ゴブリンキングとコボルトキングが、それぞれ100匹づつの魔物を従え鎮座していた。キングならチョットは期待できるかドロップ品。

「この宝石、小さいよな。宝石商が言う大きさの宝石って何階層に有るんだろう」

「最終階まで行けば見つかるよ、王様」


 11階層からは洞窟内の様相が様変わりしていた。まるで城の中だ。そこへ頭を片腕で持つ首なしの騎士が現れた。結構頑丈な鎧を付けているので普通の剣ではなかなか倒しにくい魔物だとディールが言っていた奴だ。やっと私の槍の出番かと思っていたが、フェンリルがあっさりと倒してしまった。

 しかしそこからは出るわ出るわ、剣や槍を持った者、弓矢を射かけてくる者、マントを纏っているのは騎士団長クラスの魔物か。

 15階のボス部屋にはデュラハンと呼ばれるネームドの王が玉座に鎮座し、その周りを回りを近衛騎士団が守っていた。その他の騎士は100体ほどか。

 王が手に持つ頭には、額部分に大きなダイアをはめ込んだ兜が被られている。

「今度は期待できるかな、宝石」

 私がアイテムボックスから槍を取り出す間に、早くもフェンリルによって100体の騎士は消えていた。

「私にもチョットは残しておいておくれよ、身体が鈍ってしまう」

「王よ、玉座の後ろに宝箱発見」

「了解、近衛は私がやる、フェンリルは王と楽しめ」

 私は槍で鎧の関節部分を全て解体していった。ほんの3分ほどで全ての近衛が消えたので、ゆっくりとフェンリルの戦いを鑑賞する。

 フェンリルの爪が真横に王の胴体を切り裂くが、流石ネームドだ。すぐに再生してしまう。

「フェンリル、奴の弱点は頭だ、額のダイアモンドを狙え」

 返事とともにフェンリルの爪がダイアモンドを打ち砕いた。

「初めての宝石箱だよね、なんか楽しみだな」

 中には期待通り、数種類の大きめの宝石と金貨が入っていた。

 宝石箱の装飾も綺麗だし、箱ごとゲットだな。


 16階層からは前人未到の階層だ、洗練された城内から一転、ヤータとの視界共有で目前に広がった景色は、まるで在りし日の巨人国だ。幾つかの火山から流れた溶岩が地表を覆い、噴石が至る所で姿を見せるが、地表浅くしか根が張れなかった木々のそれでも逞しく育つ姿には感銘を受ける。

 木々の隙間から、幾匹かの巨人が確認できた。この階層は特にトロールが多いようだ。この魔物は知能が低く動きも鈍い。到底フェンリルの敵ではない。

「ヤータ、フェンリル、どんなお宝をドロップするのか確認出来次第、ちゃっちゃと下に降りるぞ」

「これから20階層までは巨人族の魔物か、他は知らないが5階層ごとに同系列の魔物の数を増やすだけって、結構ダンジョンとは単調なものだな」

「そう言うなよフェンリル。知識も能力も持たない、所詮は洞窟型の魔物だ。俺はこれでも頑張って考えたと褒めてやりたいぜ」

 トロールのユニーク個体が思念で繰り出す投石岩を、ヒョイヒョイと身体をくねらし軽々とよけるフェンリル。巨人の魔物は比較的大きな魔石をドロップした。

「なあ、ボス部屋まで来たが、一旦あそこのセーフティスペースで食事採らない?俺、腹減っちゃった」

「俺も飛びまくったけど、確かにフェンリルが一番動き回ったからな」

「ディールから、食料不足で途中断念なんて話を聞いていたから、私は張り切って沢山の料理を準備したけど、ここまで半日で来れるなら、昨日あんなに頑張らなくても良かったのかと今は思っている」

 実際昨日1日でこなした調理は、塊肉を焼きまくり、幾つかは甘辛のタレに漬け込み、肉じゃがや細かく粉砕した肉で作ったハンバーグと肉団子やワインベースのデミグラスソースも作ったし、卵焼きや目玉焼きやゆで卵も準備した。あとは、キャベツの千切り・玉ねぎスライス・ポテトサラダ。玉ねぎの味噌汁や漬物の具材も仕込み済み。大量にパンも買い占めた。

 腹が膨れ活力満載のフェンリルに敵う魔物って存在するのか、一つ目の巨人サイクロプスはユニークスキルで天井を落下させかけたが、フェンリルの爪の閃光がそれ以上に速く、あっけない幕切れとなった。ドロップは岩でできたハンマーと盾だったが、部屋の隅にあった宝箱は忘れず頂戴した。邪魔くさいので、中身の確認は外に出てから行おう。


 21階層からは森林の風景だ。ヤータの視察では毒蛇型の魔物が中心らしい。毒蛇型は、噛みついて毒を注入する型と毒の霧を噴霧する型、その両方を使う型の3種類だ。私はアイテムボックスから、今回全く使う事のなかった愛用の槍を手に持った。

「毒蛇クラスは私に任せてもらおう。この中で状態無効化の能力を持っているのは私だけだからね。フェンリルはしばらく魔物感知のみだ、ヤータは引き続き空からの監視をお願い」

 小型のアスビスが大量に湧いてくるが、フェンリルの毛並みに邪魔されて牙が肉まで届かない。私から魔物感知のみと言われているので、爪こそ出さないが、それ明らかに狙って踏みつけてるでしょう。

 ドロップ品は蛇皮と毒入りの瓶だ。毒は、薄めて麻酔やら消毒液やら医療系に使うほか、食用にならない魔物を狩る際に剣先や槍先に塗って使うらしく意外に需要が高い。人相手に使う輩もいるらしいが、そこは私が関与することではない。

「そこの角曲がるとメデューサがいるぞ、奴の目を見てはならん、石に変えられてしまうからって言ってる傍から石像かフェンリル」

 視覚共有している私の叫び声よりも、フェンリルの走りが速かった。ヤータは天井に摑まり目を閉じている。私に石化能力は効かないよ。

 髪の毛は噂通り蛇に違いないが、顔は普通に美人だぞ。まあ誰もメデューサの顔を直視できないから誤った噂が流布されたんだな。戦闘中に覗く盾や鏡なら、奴の姿をじっくり見ることもできないし、弱点が目というのもイケない。討伐後の顔面など傷だらけだろうから仕方がないか。

 フェンリルが私の傍に歩み寄りうなだれている。私はフェンリルの首に両腕を巻きつけ、美しい毛並みに頬を寄せた。

「お前は石像になっても格好良かったが、今の柔らかくて暖かいお前の方が私には好ましいな」

 25階層のボスはヒュドラだ。この魔物が持つユニークスキル無限増殖、これは切り落とした首の2倍の首が生えてくるという厄介な能力だ。毒霧を噴霧し、相手が弱ったところを噛みつき毒を注入してとどめを刺す。奴を倒すには、全ての首を同時に切り落とし、なおかつ心臓を抉らなければならない。

「私は前方から首を狙う。フェンリルは背後に回りこいつの心臓を切り刻め。ヤータは自分とフェンリルに解毒の治癒魔法を発動し続けろ。すぐに毒の噴霧が始まり部屋に充満するぞ」


「そうか、あのダンジョンは25階層までだったんだ。しかしラスボスがヒュドラとは、俺たちでは攻略できなかったな」

 今、私たちはギルドの買取部門に来ている。ディールが招集をかけた宝石商を始め、ダンジョン攻略の話を聞き、魔石商、薬師、武器商人、皮の取り扱い商店主などが多数集まった。

 私はといえば、そんな彼らを尻目にテーブル一杯に今回のドロップ品を淡々と並べている。商人たちはそれぞれ欲しい品物と買値希望額を言い、ギルド職員がその商品を商人別のテーブルに置いてゆく。購入希望が重複する場合は高値で買い取る商人への販売となる。全てのドロップ品が展示されたのち、商人との金額交渉は専門のギルド職員に一任されており、買取金額の2割が手数料としてギルドに入る仕組みだ。

 確かに冒険者たちには、その品物がどれ程の価値を持つものか判断が難しい。識字率が低く簡単な足し算程度しか出来ない冒険者は意外に多いのだ。

 たった1日で25階層のダンジョン攻略を果たし、加入から僅かの間に大金貨メダルになったトリアダの噂は、自称バーテンダーの居ない街の酒場を駆け巡った事は言うまでもない。


 10)大戦

 私は夢を見ていた。私が犯した最悪の罪。しかし私の心に後悔や罪悪感はない、あるのは達成感だ。


「王よお喜びくだされ、我が娘があなた様のお子を生みましたぞ、王子誕生ですぞ。なにとぞ名を御与え下さい。」

 謁見を申し出ていた重鎮の一人が、飛び跳ねるように私の前にひざまずき、声高く叫んだ言葉がこれだった。

「トールと」

 茶番である。かの娘は多分父親の手引きであろうが無断で私の寝室に入り込み、書類を片手に思考を巡らしていた私の目の前で着衣を脱ぎ捨てると体をくねらし踊り始めた。私が踊りを鑑賞することを好むのは周知の事だからか。くだらん。

 私が豊満な乳房を揺らし妖艶な動きを見せる腰つきに吐き気を催しかけた頃、寝台横の床に寝そべっていたフェンリルがむくりと起き上がると、娘に向かって牙をむき威嚇の唸り声を上げる。咄嗟に怯えから私に縋りつこうと近づきかけた娘の鼻先に、今度は煌めく長い爪が伸びてくる。

 短い悲鳴の後しゃがみ込んだ娘は、あろうことかその場で失禁し気絶していた。これでも一応大臣の娘で品の欠片も無いが女神なのだ。

「助かったよフェンリル」

 仕方がないので小間使いを呼び軽くお灸をすえるように申し渡したあと失神した娘を担いで退室させたのだが、その後娘は複数の小間使いに美味しく食べられたとの報告をヤータから受け取った。


 かつてまだ女体に興味を感じていたころ、私は巨人のユミルとともに世界中を旅していた。

 悠久の昔、この大地の礎を築いたのは彼の先祖だ。海から大地を引き上げ何度も火山を噴火させては、大地をより強固な土地に変えていった。邪気のない巨人たちに、妖精たちも木々を育て森作りを手伝った。こうして今の大陸が出来上がったのである。

 古の巨人の気質を受け継いだユミルが私は大好きだった。

 共に荒海に船を浮かべ東の最果て、原始の龍神が守る国へも旅をした。龍の国の住民はドワーフほどではないが皆一様に背が低い。顔面に彫り物があるのは主に漁師らしい。海であれ森であれその日に得た食料の一部は、税や備蓄として貯蔵し残りを皆で平等に分配する。だから動けぬ老人や病人でも飢える事はなかった。

 味噌や醤油、漬物など、かの地で美味しい食文化を学んだことは楽しい思い出として今も心に残っている。一人の女性を愛し、愛される喜びを知ったのも、この身が引き裂かれるほどの苦痛を感じたのも、この国であった。

 要人の道案内が終わり暇になったと傷心の私の肩に留まり、そのまま旅に同行したのが八咫烏のヤータだ。当時は真っ黒の普通より一回り大きいカラスだが、知能が高く私を理解し人の言葉でユミルに助言を与えたりした。私が涙を流すたび、懐に滑り込んではその涙を艶やかな羽で受け止めた。

「お前に力があるのなら、俺に永遠の命を与えてくれよ」

 ある日ヤータがそんなことを言った。

「俺は、弱っている者を見捨てておけない性分なんだ。あの要人を道案内したのも、そう。でも今は不滅の命を持つお前のこの先の孤独が俺には耐えがたい」


 世界を一周し終わった後、私とユミルは龍の国のような平和で平等な国を作ろうと天空に、私はアース神国をユミルは巨人神国を建国した。やがてユミルは混沌を好む巨人たちの策略によって権力を奪われ惨殺されてしまった。争いごとや謀略を好まず穏やかで気高かったユミル、その無念さが私の心の奥に驕りとなって沈んでいく。

 やがてユミルの神力が消えた巨人神国は天から地上へと落下し、謀略を張り巡らしユミルから権力を奪った多くの巨人が、その報いを己の死という形で受けた。千年ほど前の話である。

 しかし落下の衝撃は凄まじく、世界中が洪水に襲われ多くの人命が奪われた。文字を持たぬ人々はその歴史を言葉で伝えていったのだが、やがて他のおとぎ話とともに記憶は静かに埋もれて行った。


 堕落したのは巨人国だけではない。巨人神国にはユミルと同程度の力を持つ巨人が多くいたので反乱が起きたが、アース神国には私と同程度の力を持つ者はいない。神々を作ったのは私だからだ。人間の様々な祈りや希望を叶えるため役割を与え統治してきた。しかし彼らは人の祈りを聞き取ることより己の欲望を優先させた。

 魔力に雲泥の差があり誰もが私に歯向かえずヘリ下り、私を取り込もうと策略を繰りかえした。威光をかさに商人や町人からお布施と称して金品を巻き上げては権力維持のため他の神々にばらまき派閥を作り有力な神同士の醜い権力闘争が始まった。

 モラルは崩れ不貞は容認され、やがては親子であろうが兄弟であろうが構わず、ふしだらで乱れた関係を送る。私はその間、誰一人とも肌を合わせることなく暮らしていたのだが、私の妻だと名乗る多くの女神、息子と騙る若い男神が次々と現れた。


 もう無理だ、やり直そう。

 今やユミルなき巨人国は遊びや退屈しのぎに天変地異を繰り返し、神国の女神や人間界の女性を連れ去り子を孕ませる。

 両国とも一旦リセットしよう。

 しかし私の思い違いではあるまいか。偏った考えで事を起こすわけにはいかない。今一度自分の目と足で両国の情報を集めようとヤータだけを連れ旅立った。


 そんな旅の道中、巨人が黒い何かを蹴り上げている。

「ありゃあ、生まれたてのオオカミだな」

「生まれたて…」

「ああ、濡れて見えるのは羊水だ、今生まれましたってとこ」

 なるほど、そこには土や砂にまみれた小さなオオカミが震えている。

「止めろ、これ以上やったら死んでしまうぞ」

「ああ殺すんだよ、こんな出来損ないが俺の息子なんてあり得ねえ」

 巨人はオオカミに唾を吐きかける。赤子のオオカミはもう虫の息だ。多分あと一蹴りで本当に死んでしまうだろう。

「それとも何かい、お前さん、これを買い取ってくれるかい。普通のオオカミだけどよ、もうすぐ死ぬかもだけどな」

 私は腕輪を1本外し巨人に突き付けた。巨人はしばらく腕輪を手に取り眺めていたが、やがてニンマリと笑うと砂埃をを立てながらその場を後にした。

 私は赤子オオカミを抱き上げ、急ぎ治癒魔法をかけながら木陰の草むらに横たえた。今は呼吸も戻りただ眠っている。怖い夢でも見ているのか時折体を震わせる姿は痛々しい。

「王も物好きだな」

「そう言うな、お前と同じで弱っている者は見逃せない性分だよ。それに何故かコレは今後の私の計画に必要な予感がするんだ」

「王がそう言うならそうなんだろう。では名前を付けてネームドの魔物にしてはどうだ。王もこいつが強い方が多分助かるだろう」

「うんヤータのいう通りだ。名前だが、泥だらけのこの姿からはフェンリルしか思い浮かばないかな」

「湿地で暮らす者か、その通りだ、いい名だ」


 流石は巨人族の血を引くオオカミだ。フェンリルは1か月足らずで仔馬ほどの体格に成長した。知能が高いヤータが話すこと自体は自然と受け入れていたが、オオカミが人語を話すことには正直驚いた。その上、巨人族一の頭脳の持ち主であるこれの父親の影響か私の言葉をちゃんと理解もしている。何の教育も受けていない1才にも満たぬオオカミがだ。

 この子がもう少し大きくなったら、私は計画を進めよう。神国と巨人国以外の種族や国に出来るだけ被害が及ばぬよう、もっと綿密な計画をたてよう。


「フェンリルや、お前には気に入らない神々が居るよね」

 今この部屋全体には何人たりとも入れず完全に遮音された結界を張った。部屋には私以外ヤータとフェンリルしか居ない。フェンリルはこの2年で立派な雄馬ほどの大きさに成長した。

 この計画の要は彼だ。

「いや、俺はいくら罵詈雑言を浴びせられようと、王様に繋がる神々に恨みなど持たない」

 いくら真摯な表情で答えても、フェンリルよ、私にはお前の心中での葛藤が判るのだよ。

「あいつらのフェンリルをあざ笑う声は、俺でも吐き気がするほどだぜ」

「そうだろう。そこでフェンリル、次に馬鹿にされた時には迷わず暴れまくってほしいんだ。神々を傷つけても殺しても構わん」

 真摯な表情が崩れ驚愕に代わる。低い唸り声が聞こえた。

「ここからが大事な話だ。2人ともよく聞いておくれ」

 私はこれから話す内容に少し興奮しながらも言葉を続ける。

「神々は当然フェンリルを拘束しようとするだろう。私の側使いであるフェンリル殺害を私が良しとするはずが無いと彼らも判っているからね。その拘束を2度破り、3度目にわざと拘束されてほしい。一度で捕まると占いの信ぴょう性が薄れるからね。

 3度目の拘束の際、私は神々に味方するから、思い切り恨みがましい目で私を睨みつけておくれ。恨み言を吐いてもいいぞ。

 実は、国一番の占い師が『フェンリルは神国に大きな災いをもたらす』と占いおってな、それで以前からお前を排除するよう進言する者たちが居る」

 フェンリルが異議を申し立てようと口を開く前に、すかさず手で制する。

「話を最後まで聞いておくれ。

 神々は、フェンリルが拘束されれば災いが1つ消え、そして残る災いは巨人国だけだと確信するだろう。そこでフェンリル拘束後3日目に、私は巨人国との全面戦争を公言する。そしてその足で私は国中の兵士を引き連れ巨人国へ向かう」

 悲しげな表情、垂れ下がったしっぽ、ゴメンねフェンリル。お前はこれからもっとつらい思いをするよ。

「フェンリルの拘束紐に小さな亀裂を入れておくから、後は自力で解除して私を追ってこい。その際には大声で私への恨み言を吹聴せよ、国中に響き渡るほど叫び続けろ。

 私はお前に食い殺されなければならない、そしてフェンリルお前もその場で神々に殺されてくれ」

 私の言葉が理解できないのか激しい衝撃を受けたのか一瞬フェンリルの体が硬直した。

「私の居場所はヤータが教える。

 元々私とヤータは不老不死だ、お前に食われても死ぬことはない。お前にもこの後、不老不死の魔法をかけるから案ずるな。

 神々の姿が完全に見えなくなったらヤータはフェンリルに合図を送れ。フェンリルは私を腹に入れたまま急ぎその場を離れよ。エルフ国との国境付近にある洞窟に身を隠す。

 洞窟に入ったら私を吐き出しておくれ。その後お前たちの見た目を変えて幾つかの魔法も与えよう」


「おおお、お前はこれほどの傷を負いながらよくぞここまで走り切ってくれた。すぐに治してやる」

 私は心臓に突き刺さるロングソードを抜き、引き割かれたフェンリルの口を優しく閉じさせた後、治癒魔法を全身から発令させる。幾ら不死とはいえ痛みは感じる、だからフェンリルは私を嚙むことなく丸呑みにしたのだ。

「あいつら数人がかりでフェンリルの口を引き裂き、激痛に痙攣するフェンリルを笑いながら全身滅多切りにしやがった。最後にあんな太っい剣で胸から背中まで貫きやがって。

 ほんとフェンリルはよく頑張った」

 日ごろ誰のことも褒めたことがないヤータの、少し甲高い声が揺れている。確かに気高く優しいフェンリルが、あれほどの痛みと屈辱に耐えながら死んだふりを続け、なおかつこの洞窟まで走り切ったのだ。お前の心には深い傷が残るだろう、お前の父親が与えた仕打ちよりも深い傷が。

「3日ほど此処に滞在するつもりだからこの洞窟には結界を張っておいた。フェンリルもヤータも疲れたろう、安心して眠るといい。その間に私は自分の姿を変えておこう。髭を無くし髪の色を変えたら食事の用意をしよう。食後にはお前たちの姿も変えような、魔法も譲りたいし」


 3日後私は天空を仰ぎ神国の現在位置を確認する。

 ユミルよすまない。アース神国を巨人国の真上に落とすよ。前回のような大津波は起こさせない。二つの国からは何人も逃れられぬよう結界を張ってある。神国の落下によって全ての神や巨人そこに住まう住民は押し潰され死に絶えるだろう。

 おとぎ話とされていた天空の落下を目にした者は何と思うだろうか。しかも逆さまになった天から落ちてくる神々を見て、再び神への信仰心は生まれるのだろうか。

 今更だな。

 一度深呼吸をしてから、私は持てるありったけの魔力を込めて発動した。1万年に1度しか使えぬ魔法、その名は『究極魔法ラグナロク』

 落下させた国を隙間なく密着させ、直後に森が形成され泉が湧き動物が集まる大地へと変貌させる魔法だ。

 しかし私は知っている。大地に挟み潰された神々や巨人の恨みがこの豊かな森を魔素で埋め尽くし、やがて魔物の森に変わりゆくことを。


 11)噂の拡散

 昨日ギルドで貰った大金貨メダルが首からかかっている。それに伴い銀行メダルまで大金貨に変わった。記入される金額の桁数が多いのでスペース的に今までのメダルだと足りないらしいが、寝転ぶ度にメダルが背中側に廻ってしまい一々戻すのが邪魔くさくなってきた。それに流石に2枚は少し重い。仕方がない、あまり人前に出す物でもないしアイテムボックス行きだな。

「せっかくの大金貨メダル、仕舞っちゃうのか」

「首輪代わりにフェンリルに付けたらどうだ。王のペットだぞって印、きっと似合うぜ」

 フェンリルは少し後ずさり3本のしっぽを全て股の間に巻き込んだ。すっごく嫌だが私に命じられれば従うだろう。安心して、お前の嫌がることは決してしない。

「オオカミに首輪を付けたら大型犬になるじゃん。本来オオカミは森の守護者だけど、フェンリルは私の守護者としての立ち位置に誇りを持っている。ヤータもフェンリルも私の対等な家族だ。飼い犬じゃない。だからヤータの意地悪もほどほどにな。

 それに戦闘時にも邪魔だし。第一チェーンが切れて無くなったら…私泣いちゃうよ」


「近頃街に来ても、女性陣や冒険者たちが私たちを避けて通る感じで静かだ、視線は痛いほど感じるが」

 今日は食材だけでなく、少し上等な食器を揃えようと街に繰り出した。二人には言っていないが、私と同じ形状の器ではなくオオカミや鳥仕様の使いやすい器を準備したいのだ。無ければ特注をオーダーしてもいい。

「女性陣に関しては、ギルドからお達しが出ているぞ。

 王に近づく際には事前にギルドの承認が要るし、もし守らない場合は銀行メダルの停止なんて罰則がある」

 フェンリルの背に停まるヤータの口調は少しお道化ていて、広い背中をトコトコと動き回っている。今は私の歩調に合わせているのでフェンリルの歩みは非常にゆっくりだ。

「冒険者の場合は、そうだな。たぶんフェンリルの影響だ。王の強さを知る人間は少ないからな」

 嘴で背中を軽くつつく。私も髪の毛を良くつつかれる。じゃれる際の仕草だ。ヤータが何歳なのか私は知らないが、いつまでたっても悪戯好きは収まらない。

「俺の身体が大きいから皆の目を引くだけだろう、実際王様と戦ったら俺は勝てる気がしない、ヤータ相手なら楽勝だがな」


「おお、珍しい処で会うな。今はギルドも暇なのか」

 私の声に答えるように片手を上げ、前方から歩いてくるのはギルマスのディールだ。

「いやいや反対だ、お前たちトリアダの働きでギルドは大盛況だぞ」

 何か情報を持っているのだろうヤータが、落ち着きなく背中を移動する。以前私が『人前で人語を話すな』と言ったことを律儀に守っているのだ。

「この街の皆がお前たちが人の言葉を理解し話せることを知っている、なので今から人前での会話をOKするよ。これまで我慢させてゴメンね」

 少しトーンの高いヤータの声が矢継ぎ早にギルド情報を話し出す。

「王が掘削権をギルドに渡したことから、見習いや初心者がギルドに押しかけている。新規加入の収益だけでも相当なものだ。

 そして魔石が集まるとなると、この街に魔法陣の製作者や販売店が増える。人が増えれば宿屋や食堂も大流行り、土産物屋も近々できるようだし街中が活気にあふれている」

 ディールの口が半開きのまま固まった。

「現在ギルドでは地下2階の拡張工事をドワーフに頼んで進行中。職員の増員も行われているし、確かディールの息子も雇われたはず。

 俺たちがダンジョン攻略をして、その全貌が明らかになったお陰で、冒険者も殺到、ドロップ品に関係する商人や買い手が街に出入りするから宿屋や食堂の収入も右肩上がり。売り上げの2割はギルドに入るのだからウハウハ状態だよな」

 お金とレベル上げのために始めた魔獣討伐、少しは人の役に立ったのだな。

「そんな中街自体が手狭になって外壁の拡張を計画、今もドワーフと工事計画や見積もりを相談しての帰り道」

 ようやく硬直が解け、両手を振ってヤータの喋りを遮ろうとディールがあたふたしている。

「もうそれ位で勘弁してくれ、トリアダの強さは魔物殲滅だけでなく、情報戦においてもって言うのがよく判った、理解した」

「俺たちの噂が国中に広がり、他の街のギルマスから羨望ややっかみの目が向けられていることも、お前の息子がお前の村の復興責任者になったことも、お前の下にサブマスターが付いたことも知ってるぜ」

 ディールは嫌な脂汗を感じていた。このカラスはギルドで起こった全てを知っている。いやギルドだけでなく街中の出来事を把握しているのかもしれない。

 絶対に、絶対に敵対してはならない者たちだ。


「お前って元々知恵者ではあるが、いつの間にギルド情報仕入れていたんだ。ギルマスのおっちゃん焦りまくって、俺はちょっと可笑しかったぞ」

「情報というものは、色々なところから仕入れるんだよフェンリル。例えば夜の酒場に行けば、工事関係はドワーフたちが話していたし冒険者たちも情報交換をやっているし、酒が入ると人間って口が軽くなる」

 なるほど、為になる話だ。私もヤータほどの行動力があれば、あの国が腐敗しきる前に対処できたかもしれないな。ユミルが殺される前に助力できたかもしれない。今更だがな。

「それにギルド職員のおしゃべりや行動を観察して、言葉の断片を繋ぎ合わせると、自ずと答えが出てくる。今日のギルマスの表情だけで、公開OKの情報かNGなのかの判別もできた」

 龍の国を出て以来、私は他人との接触を極力避けて過ごしてきた。人と深く関われば、また深く傷つくと私は逃げていたのかもしれない。神国の神々にとっても私は気持ちを寄せない冷酷な王に見えていただろうな。

 ヤータは一生懸命フェンリルに説明しているが、実は私にもっと人との関りを持つよう暗に伝えているのかもしれない。

「俺たちの噂はもう国中の街に知れ渡っているぜ」

「じゃあ、いずれ他の街からの討伐依頼も来るかもしれんな」

「実はもう幾つかの依頼要請が届いているんだがな、ディールが俺たちをこの街に留めておくために理由をつけて断っている」

「なんで」

「そりゃあこの街の安全のためよ。どんな魔物でも断らんでしょ俺たち」

 かつて龍の国には、兄と弟が敵対する大きな戦があり、その片方が山中で迷っている際にヤータが道案内をし勝利へと導いた。

 平均10年前後と言われるカラスの寿命。その短時間の中で過酷な条件下の要人に道案内できるほどの知恵や知識を、如何にして手に入れたのか。

 宇宙神から生を受けたのは、実は私だけでなくヤータもそうなのではないか。ふとそんな思いが頭の中を駆け巡った。私の終わることのない命の道案内役を果たすよう命じられて。

「それでは行きますか冒険。そもそも私たちは冒険者だし困っている人々は助けないとだな」

「この街にも慣れすぎた感があるし俺は賛成だ。それに次の街までの道中にも問題を抱えた村々が幾つもある」

「俺は皆が居て、狩りができれば何処でも行くぜ、強い魔物が出ると良いな。楽しみだ」

「食材も作り置きもたっぷりある。明日の朝ギルドに出立の届けを出したら出かけよう。新たな出会いと冒険に」

ギリシャでも日本でも、神話の神様って妙に人間臭くて、愛くるしい。だから創造神がトラウマを持っても良いかなと。フェンリルは古代ギリシャ神話では悪の化身みたいな書かれようですが、オオカミ好きの作者としてはこんな役割を与えたかった、八咫烏にヤータの名は少々手抜き感がありますが、呼びやすいのでご容赦ください。とにかく最後までお読みいただきありがとうございました。

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