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01.プロローグ1

「ご領主様!大変です!」


窓の外では海風が柔らかく木々を揺らし、遠くで鳥の鳴き声が聞こえていた。

しかしその静寂を破るように、慌ただしい声が廊下から響いてきた。


侍女に身支度を整えてもらっている最中、部屋の外から最近雇ったばかりのメイドと思わしき声が慌てた様子でドア越しに報告しにきた。


はぁ……またメリルが何かしでかしたのだな……。


「メリル様のお部屋に入りましたらもぬけの殻でございました!どうしましょう、誘拐かもしれません!」

「とりあえず部屋に入ってきなさい。それとメリルについては心配いらぬ。そろそろ帰ってくる頃合いだろう。」


「しかしご領主様!」


新人メイドは今にも泣き出しそうな声である。

ふと外を眺めると屋敷の門の辺りに騎士が数人集まって騒がしくしている。

噂をすれば、帰ってきたか。


「そんなに心配ならば共に迎えに行こうではないか。たった今帰ってきたようだぞ。」


門前では騎士たちが微妙な表情で立ち尽くしている。

驚き、困惑、そしてどこか呆れたような顔と様々な反応だ。

その視線の先に立っていたのは・・・


「おはようございますお父様!こんな気持ちのいい朝ですが、お目汚し失礼しますわ。」


右手に長剣を持ち、左手でオークを引きづり、頭から血を被ったように体中を朱殷に染めた、愛娘であった。



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ここは・・・?


目の前に真っ白な空間が広がっている。

上下も左右もわからない。

地面があるのかさえ曖昧で、ただ無限に続く白の世界。

まさにあれだな、漫画の『龍の玉』の気力と時間の部屋みたいな場所だ。

そして不思議な事に、今まで耐えていた体の不調をまるで感じない。

長時間のデスクワークで凝り固まっていた肩も、慢性的な頭痛もない。


「・・・様。海田寧斗(かいだねいと)様。お目覚めになられましたか?」


「あなたは・・・?ここは一体・・・」


声のする方へ振り返ると、そこには羽の生えた光の玉が浮かんでいた。


「ここは輪廻の間。そして私は役目を終えた魂を癒し、次の役目を与え羽ばたかせる者です。」


「・・・まるで異世界ファンタジーモノの導入みたいですね。」


そうか、これは夢か。

冷静に思い返してみれば、僕はさっきまで会社のデスクで仕事を・・・


「その通り。海田寧斗様、あなたは3日間食べず寝ずで働き続けて倒れ死んでしまいました。

あなたの想像した【異世界ファンタジーモノ】と呼ばれる物語と、この現状は相違ないですよ。

正しく認識されているようで、お話が早くてとても助かります。」


あまりにも淡々とした説明で告げられたのは、実にくだらない自分の最期と僕の乾いたジョークに対する真面目な返答だった。


「・・・?待ってください!夢じゃないんですか!?」


「夢ではございません。」


「本当に死んでしまったんですか・・・。」


胸の奥が重くなる。


高校卒業と共に親元を離れて13年。

ロクに連絡も取らず、仕事漬けの毎日だった。


何一つ良い報告もできずに。

でも、いつか晴れやかな気持ちで帰省できる日が来ると信じて、がむしゃらに働いてきた。


なのに、こんな終わり方なんて。


「・・・ここは、僕が生きていた世界で死んでしまった人間はみなこの空間に訪れるのですか?」


「その通りです。本来はここで次の運命を与えあなたの世界に返すのですが、実はあなたの世界とは別に最近新たに世界を創造しまして・・・。

文明がある程度進んだのは良かったのですが、所謂【中世】ほどで停滞してしまいまして。信心深い信者達に何度か啓示を行ったのですが改善されず。

そんな時に目にしたのがあなたが先程口にした【異世界ファンタジーモノ】の書物でした!

いくつかの作品に目を通しましたが転生者が別世界を発展させていくといった大変興味深い内容で、とても参考にさせていただきました。」


光の玉はどこか嬉しそうに語る。

まるで新しい玩具を見つけた子供のような調子だ。


・・・ん?この流れは本当に異世界転生?もしかして、異世界転生第1号!?

でも、残念ながら僕はしがない下請けプログラマー。

世界を驚かせるような知識チートなんてできるとは思えない。

どうして僕なんかが・・・。


「それは偶然なのです。書物を参考にしたと先程ご説明しましたが、

あなたの部屋に並んでいた書物でして。先ほども読みふけって・・・いえ参考にさせていただいていたところ

勤務先にいるあなたの魂が肉体から離れていくのを感じましたので、いいタイミングと思いこちらに招待させていただきました。」


つまり、たまたま本を読んでいた神様(らしき存在)の目の前で、僕が過労死したということらしい。

あまりにも軽い理由に思わず苦笑いが浮かぶ。


「そうだったんですね。あっ、よろしければ心の中を読むのはご遠慮いただけますか。

意識すると変な事を考えてしまいそうなので。」


「承知いたしました。それでは続きの話を。

何分初めての行いですので、あなたの要望をできる限り取り入れたいと考えています。

そうですね。【出自】【容姿】【祝福】に分けて決めていきましょうか。まずは【出自】から。

生まれる家にご希望はございますか?」


突然始まるでゲームのキャラクリエイトのような流れに、一瞬思考が停止する。

あ~もう夢でもなんでもいい!どうにでもなれ!


「そうですね・・・。平民だとある程度行動に自由は聞くけどあまり派手な事をすると貴族に目を付けられる。

貴族や王族だと裕福な暮らしは保証されるけど陰謀が~ってのが鉄板ですよね。

そうだ、海のある国がいいです!釣りがしたいので。」


僕は小さい頃から釣りを趣味にしていたけど、就職してからは時間がとれなくなってしまった。

だから次の人生があるなら、今度こそ趣味の釣りを存分に楽しみたい。


「ん~、転生して生活水準が下がるとストレスになりそうなのでやっぱり貴族ですかね~。」


少し図々しい気もするが、どうせ夢みたいな話だ。言うだけ言ってみてもいいだろう。


「それでは、海沿いを領地にしている辺境伯はいかがでしょうか。他の貴族からの圧力が掛かりにくく、

首都から離れた自然あふれる領地です。」


「いいですね!」


「では次に【容姿】を決めましょう。」


「生まれ変わるなら女性になりたいです。見た目は・・・あまり綺麗だと周りの目を引いてしまうのがお決まりなので平均より良いくらいでいいです。

もし可能でしたら筋肉がつきやすい体質にしてほしいです。騎士になりたいので。」


「騎士ですか?それでしたら男性の方が都合が良いのではないでしょうか。」


「女性に転生したいのは決定事項なんですけど、でも僕が女性として生まれ変わり育ったとして男性を好きになれる自身はまだないんですよね。

変に好意を向けられずに、剣と魔法にひたむきになれるのが騎士だと思ったので。」


恋愛よりも、まずは自由に生きてみたい。そんな気持ちの方が強かった。


「お考えはわかりました。【女性】で【貴族の中では普通よりは良い見た目】で【筋肉の発達が早い体質】ですね。

それでは最後に私から与える【祝福】についてご説明いたします。」


光の玉は少しだけ声色を改める。どうやら、ここからが本題らしい。

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