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閻魔帳  作者: こたつぬま
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退行催眠

スタジオのセットが変えられる。中心に用意されたのは大きめのベッドだ。

照明はさらに暗くされて背景は見えない。ベッド脇のランプが唯一の灯りだ。

キツネはまだしゃべり足りないのか饒舌じょうぜつに語り続ける。

「きみはクラスメイトや教師や校長先生の身辺調査を自分で行なっていたんじゃないか?名探偵顔負けの情報収集力でホットリーディングしていた。新聞配達で鍛えた足腰と持久力が非常に役立っただろうね。テレビに出演するようになってからはお金に余裕ができて腕利の探偵を雇うようになった。ナマズ議員の事件は刑事からの情報提供っぽいな。ナマズ議員を疑っていた刑事がいたけど政治的な力で取り調べさえできなかった。ナマズ議員を深掘りしているうちにそういうディープな情報も入手できたんだろう。どうかな?」

「ぜんぶあなたの妄想だわ」

「犯した罪がすべてわかるなら冤罪事件はどうなんだ?五億円事件や皇銀事件、毒梅酒事件など古今東西のあらゆる未解決事件の真相がはっきりするじゃないか?」

「未解決事件の真相は語らないように警察に注意されているわ。証拠が出せない事件は真相を語っても世間が混乱するだけで信じるに値しない。わたしが趣味で真相を知って楽しんでるわ」

「うらやましいね。もしほんとうならだけど」

「ほんとだと証明する。まずこれを飲んでリラックスして」

キツネはえんまちゃんに渡された紅茶に口をつける。喉が渇いていたようだ。ゴクゴクと一気に飲み干すとティーカップを付近のテーブルに置く。

「つぎにこれを見て。あなたはだんだん眠くなる〜」

えんまちゃんは糸のついた5円玉をキツネの眼前で揺らす。

「ぼくは寝つきが悪いし、こんなのこどもだまし・・・くかぁ」

キツネはこてんとベッドに倒れ込み簡単に寝入ってしまった。えんまちゃんは問いかける。

「あなたの魂の記憶はどんどんさかのぼります。どんどん。どんどん。さあ、いまのあなたはだれですか?」

キツネはくぐもった声を出す。

「ぼくはイナリです。家出して博徒として誇りを持って生きてます。負け知らずでした」

「あなたの死因は?」

「いかさまチンチロで大負けして賭け金が払えずすまきにされて海にドボンです」

「文無しで博打をするのはリスキーでは?」

「その通りです。バカでした。あとからツレがお金を持ってくると嘘をつきましたがバレてしまい、便所の穴から逃げるのにも失敗してヤクザたちから凄惨なリンチを受けました」

「あなたは詐欺に気づいていた?」

「海に沈みながら気づきました。だから絶対に詐欺師は許せません!」

「なるほど。あなたが詐欺師を強く憎む気持ちはよくわかりました。死んだのはどこの海?」

「秋田。日本海です」

重苦しい雰囲気の中で観客は固ずを飲んで話に聞き入っていた。

スタジオのすみで見守っていた司会者がえんまちゃんに近寄ってくる。

「ただいま秋田の住民から電話です。昔の親戚に渡世人とせいにんのイナリという青年がいて古い写真が残ってるそうです。いまFAXでコピーを送ると」

「わかりました。待ちましょう」

スタッフが写真を運んでくる。ボロボロの写真のコピーをえんまちゃんと司会者は確認する。

「これは驚きましたね」

「みなさんにも確認してもらいましょう」

観覧席に写真のコピーを回す。観客たちは次々と驚きの声を漏らした。

イナリはメガネをかけず着物こそ違うもののキツネに瓜二つだった。

鼻ちょうちんがパチンと割れてキツネが目を覚ます。キツネは身を起こした。

「うん?ぼくは寝てしまったようだね。前世を証明する話はどうなった?」

「前世が存在することはあなた自身が証明しました。家で録画を確認されてみてください。前世があるなら魂も存在して地獄も天国もある。閻魔帳も本物よ」

「そんなバカな!」

「キツネ先生。もうくわしく説明する時間がないんですよ〜」

司会者はムリやり番組を締める。

「今週のさばいてえんまちゃんは終了です。ではではまた来週〜♩」

司会者は手を振る。えんまちゃんはぺこりと頭を下げた。


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