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閻魔帳  作者: こたつぬま
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霊感商法疑惑

「さあ最後のゲストは弁護士のキツネ先生です。罪人席へどうぞ〜」

七三分けの黒縁メガネをかけた細身の背の高い男が入ってくる。黄色い声が観覧席から飛んだ。キツネは正義の社会派弁護士として多くの実績がありたくさんの詐欺被害者を救済している。誠実で律儀な雰囲気が漂っている。

キツネはソファーに座り足を組む。細い目でえんまちゃんをじっと見つめる。

「よろしくえんまちゃん。きみに会うのを楽しみにしていたよ。昨日は興奮して眠れなかった」

「よろしくお願いします。キツネ先生はロリコンですか?」

スタジオに笑いが起きる。キツネはクビを振った。

「いいやちがう。安心して欲しい。ぼくはきみとお話しするのが楽しみだっただけで、女性として好きだから眠れない夜を過ごしたいわけじゃあないんだ」

「地獄について興味があって地獄の専門家であるわたしと話すのが楽しみだったという解釈でよろしいでしょうか?」

「そういうことだね。この番組のおかげで世間は絶賛地獄ブームだ。ぼくもご多分に洩れず地獄に興味津々さ」

「わかりました。さっそく鑑定しましょう」

えんまちゃんは閻魔帳に向かってキツネの名前をつぶやく。

司会者はキツネに問いかける。

「キツネ先生はリアリストなので地獄なんて信じてないかと思いましたよ」

「信じてませんよ。人間は死んだら無です」

「魂が輪廻転生するという説もありますが?」

「そんなことありえるわけない。科学的な根拠のない妄想だ」

「わたくしはエンタメの異世界転生というジャンルが大好きですけどね。輪廻転生信じてます。地獄も魂も輪廻転生も信じていないキツネ先生がえんまちゃんと話すのが眠れないほど楽しみだったという真意はどこに?」

「彼女の嘘をあばきたいのさ」

「なんと!」

司会者が驚嘆の声をあげたのとほぼ同時にコツコツとガベルの音が響く。

「判決をくだします。あなたは・・・」

言い終わらないうちにキツネは動いていた。ソファーから跳躍すると一足飛びに裁判長席に飛び移った。一瞬のことでみんなあっけにとられている。野生の獣のような跳躍力を見せつけたキツネは閻魔帳に手をかける。

「鬼が見える?どこにも見えないよ」

キツネは細い目を軽く見開き凍りついた空気のスタジオを見回す。えんまちゃんは口を開いた。

「これはレプリカだから。本物はうちの金庫のなか。執事にわたしの身に何かあればすぐに燃やすように伝えているわ」

「なるほどね。盗まれて悪用されないように防犯対策しているのか」

「そうよ。ゲストの鑑定結果は暗記してる。演出で持ってきてくれって頼まれてるだけ」

司会者が口をはさむ。

「わたくしも番組プロデューサーからそう説明を受けております。関係者には周知の事実です」

「そうか。騒がせて悪かったね。席に戻ろう」

キツネは裁判長席から降りて席についた。

「あなたは天国行きです。幼き頃より善きことを成し、悪しきことを避けて生きてきた。弁護士として強気をくじき弱きを助けるすばらしい仕事ぶり。多くの人々があなたに深く感謝している。これほど魂のレベルが高い人間には生まれてはじめてお会いしました。あなたの魂はすでに神の域に達している」

「茶番だね」

「どういうでしょうか?」

「ぼくは今まで弁護士としてたくさんの霊感商法の詐欺を見破ってきた。被害者にお金を取り返してあげた。霊感のあるという占い師、霊視のできるという霊能者、死んだ人間を口寄せできるというカルト宗教の教祖、そういう詐欺師どもを撲滅してきたんだよ」

「わたしがやってることが霊感商法だと?」

「単純なホットリーディングだ。きみは探偵を雇い事前にゲストの情報を徹底的に調べ上げてる。身内や親戚や友だち、同級生、もと恋人、近所の住民などにリサーチしてテレビ局のスタッフもきみにゲストの情報を渡している。ホットリーディングとは恐ろしいもんでゲストの部屋に勝手に侵入したりもする。部屋のゴミ箱に何が入ってるか当てたり本棚で倒れてる本の色を当てられると千里眼だとだまされてしまう。誰にも話したことがない秘密だと言っても酒を飲んでぽろっとしゃべっていたり、寝言で呟いたり、友達に話したことを忘れたていたりする。亡くなった相談者の父親がどんな口調だったか聞いて真似したりもする。お父さんがこう言ってますよって同じ口調で言うと父親の霊が見えてるように思うからね。近所の子供たちに今夜の夕飯をあててあげると言った霊能者は先に子供の母親に夕飯のおかずを聞いてたんだ。でも子どもは当てられて本物の超能力者だと信じた。そこまでするか?ってぐらい徹底的にゲストを調査するんだ」

「わたしがそんなことをする人間に見えますか?」

えんまちゃんはキラキラした純粋な瞳でまっすぐにキツネを見つめた。

「見えるね」

キツネはバッサリと切る。

「詐欺師は相談者を調べあげておいて、それを「お見通し」のように装い「的中」させることで信頼させ、高額な商品購入や金銭を要求する。相手のことを調べるのに時間がかかるから客が多過ぎてすぐには占えないといって繁盛しているお店を信用するバンドワゴン効果も与えているんだ」

「わたしはゲストにお金を要求していません。テレビ局には出演料だけしか頂いてない。相談依頼は世界中から届いているから順番待ちになるのは当然でしょ。邪推よ」

「テレビ以外でも相談依頼を受け付けているはずだ。相談者がお礼で高額な品物や金銭をきみに渡している。だからきみは大豪邸に住んでいる」

「家の大きさは防犯のためと住み込みの執事やメイドさんもいるし、祖父母にはお世話になったから広い家に住ませわせてあげたかっただけ。文句を言うのはこの世にあなたぐらいだわ」

「多額のお礼を受け取っていることを認めたらどうだい?豪邸の中にはブランド品や宝石、金の延べ棒で溢れかえってるんだろ?」

「受け取ったお礼は貧しい人たちへの寄付や捨て犬や捨て猫に保護に使ったりしているわ。私利私欲のために使ってなんかない」

キツネは前傾姿勢を取る。

「きみの過去を調べさせてもらった。きみの両親は詐欺師にだまされて仲良くクビを吊って亡くなっている。祖父母の家に引き取られたきみは貧乏な暮らしをしいられて小学生ながら新聞配達のアルバイトをしていた。霊感商法を生業なりわいとする詐欺師の多くが幼少期に大きな不幸に遭遇し、極端な貧乏生活を味わっている。不幸な事故・事件、貧困、わずらった重い病気などが心を歪ませて人をだましてでもお金を奪って良いんだ、という考えになり、見えないものが見えると言い出すんだ。両親からの愛情の欠如のせいで承認欲求も強い。愛されたい目立ちたいのさ」

「わたしの心は歪んでないし愛に飢えてもない。モテる人生だったから愛に満ち満ちているわ」

「霊感商法で稼いだ詐欺師どもは肥え太り豪邸に住み骨董品やブランド品を買い漁り、高級な服を着てグルメざんまい、異性関係も派手なクズが多かった」

「わたしにはあてはまらないわ」

「あてはまっているように見えるね」

2人はにらみ合う。えんまちゃんはため息をついた。

「わたしが何を言ってもホットリーディングだと騒ぎ立てるのでしょう?ならば、あなた自身の口から前世があることを証明してもらうわ」

「そんなことできるのかい?」

「できるわ。前世があるなら輪廻転生があり魂が存在し、魂の行き場である天国と地獄があるということも信じられるでしょう」

「信じるよ」

「準備をするわ」

えんまちゃんは立ち上がりポケットから糸のついた5円玉を取り出した。


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