えんまちゃん
閻魔帳
現世で行った善悪のすべてが一銭の狂いもなく記されている閻魔大王の持つ帳簿である。
これを参考に地獄行きか天国行き、来世の運命までも決まる。
その閻魔帳を持つ少女がいた。
テレビ局にて大人気番組「さばいてえんまちゃん」の生放送が始まった。
番組ではゲストを呼んで12才の少女えんまちゃんに天国行きか地獄行きを占ってもらう。
スタジオのセットはお寺の地獄絵図で見かける閻魔王庁のイメージで作られていた。
照明は暗めに調節されている。裁判長の席は少し高めに作られておりゲストを見下ろせる演出がほどこされていた。閻魔大王のコスプレに扮した黒髪ロングの目がぱっちりとした色白の美少女は微笑している。
司会の男性アナウンサーはゲストを呼び込んだ。
「1人目の罪人はアイドルグループキャロットのセンターうさみんさんです」
観覧席からきゃーっと歓声があがる。うさみみをつけた美少女アイドルが手を振りながら登場した。
「こんにちはぴょん♩よろしくぴょん♩」
はねるように歩いてぴょこんとゲスト席に座る。えんまちゃんと向き合ったうさみんはウィンクした。
「えんまちゃんの大ファンぴょん♩今日は会えるのすっごい楽しみにしてたぴょん♩」
「わたしもあなたのことを知ってます。曲も大好きです」
「うれしくて泣きそうぴょん♩」
「さっそく占いますね」
「おねがいぴょん♩」
えんまちゃんはうさみんの本名をつぶやき閻魔帳をめくった。本名は事務所と本人の許可を得てテレビ局から聞いている。パラリパラリという音のみがスタジオに響く。
「この時間はいつも緊張しますね」
司会者の言葉に小さな笑いが生まれる。
「うさみんはドキドキして死にそうぴょん♩」
胸をおさえるうさみんの仕草に大きな笑いが起こった。
コンコンとえんまちゃんはガベルを鳴らした。
「判決を言い渡します」
「はいぴょん♩」
「地獄行きです」
「なぬーーぴょん!」
観覧席がどよめく。
「えーー!?」
司会者はずり落ちたメガネを直しながらえんまちゃんに問う。
「くわしい内容を聞いてよろしいですか?」
「うさみんは十六小地獄のひとつ屎泥処いきです。沸騰した銅と煮えたぎっている糞尿が沼のようにたまっており、亡者達はその中で苦い屎を食わされ、金剛の嘴を持つ鳥に体を食い破られます」
「きたないくさい熱い痛い!ぜったいいやぴょーん!」
うさみんは絶叫して飛び上がる。
「しかたありません。あなたメンバーの子をいじめて今まで3人も追い出してますね。動機は自分より優れた子にセンターをとられるのが嫌だった。楽屋泥棒の罪をなすりつけたり、みんなでシカトしたり、衣装を破いたり、誹謗中傷のメールをたくさん送りつけたり、ひどいもんですね。発覚しなかったのはみんながあなたを恐れて告発しなかったから」
「そんなのウソぴょん!」
「ウソじゃありません。あなたは幼稚園の頃から気の弱い子や容姿の醜い子をいじめていましたね。小学生3年生でアイドルになってからは可愛い子や歌やダンスやお芝居の上手な子をいじめて芸能界から追放した。弱いものいじめだけでなく自分より優れた才能の持ち主までいじめる。いじめないのは絶対服従の子分だけ。最悪の人間性ですね。こんなクズ見たことありません」
「名誉毀損ぴょん!訴えるぴょん!」
うさみんは立ち上がって激高した。うさ耳もぴーんと立ち上がる。
「裁判になれば被害者がたくさん名乗りをあげるでしょう。あなたは敗北します」
「裁判所で待つぴょん!」
「あなたのいじわるな性格はご両親の影響です。2人とも大きな犯罪を犯して今も服役中。あなたは虐待されていた。弱いものはいじめてもいい。邪魔者は排除してもいいという歪んだ性格が形成されたのです」
「虐待なんて受けてないぴょん!」
「ご両親が塀の向こうに落っこちてからは孤児院で暮らす。ご自分でアイドルオーディションに応募。あなたの経歴はすべて閻魔帳に書いてあります。7才の時に孤児院で飼っていたウサギが誰かに踏み潰されて殺されてから人間不信であるということも。あなたはとくにそのウサギを可愛がりこっそりうさみんと名付けていた」
「どうしてそれを!だれも知らないはずぴょん・・・」
「悪業だけでなく善業も書いてありますから」
うさみんはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「ワタシはどうしたらいいの?地獄なんて行きたくない」
「被害者に謝罪してまわりなさい。会いたくないと言われたら手紙を書きなさい。いまからは弱いものいじめをやめて弱い人を助けてあげなさい。才能あるものを嫉妬で潰してもいけません。美しい花を踏み潰すようなものです」
「・・・はい」
「動物には愛情をそそがれているようなので捨て猫や犬の保護活動や寄付は続けるといいでしょう。いままでの悪行を帳消しにするには馬車馬のように善行しなければムリですよ」
「わかりました。みんなに許してもらえるように命がけでがんばります」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらうさみんは決意表明した。スタジオは静まり返っている。うさみんは立ち上がりふらつきながらスタジオを後にした。うさ耳も折れ曲っている。司会者はカメラの向こうの視聴者に声をかけた。
「いやぁ、1人目のゲストから強烈な罪状でしたね〜。わたくしもショックを隠しきれません。CMのあと2人目のゲストをお呼びします。それにしてもびっくりしましたね〜」




