青春の舞台、はじめの一幕
正式に入部を決めた翌日、僕は放課後の旧校舎へと足を運んでいた。
昨日と同じ部室。けれど、扉を開ける手はほんの少し震えていた。
中に入ると、例の仮面をつけた部員たちが待ち構えていた。霧島は相変わらず落ち着いた笑みを浮かべている。
「さて、風見くん。今日から君も部員よ。記念すべき最初の“シチュエーション”を体験してもらうわ」
「……体験?」
「ええ。“青春”は机上の空論じゃない。実際に作ってみて、そこに飛び込むことが大事なの」
霧島の合図で、仮面の部員たちが立ち上がる。彼らは机の上から何枚もの紙を広げ、役割分担のメモを確認しているようだった。
「今日のテーマは……『廊下での偶然の衝突から始まる恋』」
僕は思わず顔をしかめた。「はぁ!? なんですかそれ?」
霧島は涼しい顔で説明を続ける。「青春の定番シーンよ。漫画やドラマでよくあるでしょ? 本当に偶然で起こることは少ない。でも、私たちの部活なら――演出できるの」
僕は半分あきれながらも、妙に胸が高鳴っていた。
演出? 本当にそんなことをやるのか?
仮面の部員のひとりが紙袋を持って近づき、中から本を取り出した。
「じゃあ風見くん、これ持って廊下を歩いてね」
「……え、まさか」
「そう。その角を曲がったところで、わざとぶつかる“役”の子が待ってるわ」
僕は本を抱えながら深いため息をついた。
「俺、なんでこんなこと……」
霧島は楽しげに笑う。
「大丈夫。青春は、照れと戸惑いから始まるのよ」
廊下に立たされ、本を抱えて歩き出す。
角の向こうには誰がいるのか、もちろんわからない。
心臓がやけにうるさく感じる。
――曲がり角の直前。
僕は小さくつぶやいた。
「……平和第一、なのになぁ」
次の瞬間、角を曲がったところで「ガツン!」と衝突する音が響いた。
「きゃっ!」
目の前で、長い髪がふわりと揺れる。
本が床に散らばり、視線が交錯した――。
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まさか、これが僕の“青春の一幕目”になるなんて。




