仮面の視線②
部室を出た後、廊下を歩きながら僕の胸はざわつき続けた。仮面の部員たちの視線、霧島の真剣な瞳、そして「放課後までに決めて」という言葉が何度も脳内で反響する。普通の学校生活に戻っても、心は落ち着かない。
階段を降りると、校庭では立花がいつも通りベンチに座ってスマホをいじっていた。「お、風見。どうしたんだ、今の顔」と声をかけられる。普段なら軽口で返すところだが、今日は言葉が出ない。立花の明るさが、逆に重く感じる。
「……なんでもない」
つい小さな声で答える。
立花は眉を上げ、少し不満そうに「そっか、まあいいけどさ。最近お前、妙に黙ってること多いな」と笑う。
「いや、別に……なんでもないんだ」
笑顔で返す立花を見ながら、僕は考える。部に入るべきか、やめておくべきか。
頭の中で霧島の言葉がぐるぐる回る。「君は“見つける”人だから」「拒めば平穏は保証されない」……平穏を失うリスク、得られる特典、どちらも現実的な重みを持つ。
立花との会話の途中でも、僕の意識は部室のことに引っ張られる。授業中に見た小さな校内の違和感や、誰もいない廊下の音……。あれも、これも、部が関係しているのだろうか。
昼休みはいつもと変わらぬ雑談を交わす。理科のテスト、購買の完売ドーナツ、立花の早弁……。すべてが普段通りなのに、心の奥では決断を迫られている自分がいる。
「……どうしよう、俺」
つい小声でつぶやくと、立花は肩をすくめて笑う。「お前らしいな。でも、決めるのはお前だろ? 焦んなよ」
その言葉に少しだけ落ち着きが戻る。放課後まで時間はある。ゆっくり考えよう。部に入るか入らないか、その答えはまだ出せない。
風見の胸には、緊張と期待、そして少しだけ好奇心が混ざっていた。秘密の部活、仮面の部員、霧島の瞳……。すべてが未知で、すべてが自分を変えるかもしれない。




