青春の代償と約束
霧島沙月はテーブルの上に数枚の紙を広げた。
「これが、部活に入ったら受けられる特典よ」
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僕は紙を手に取った。
そこには、ひとつひとつ丁寧に書かれた特典のリストが並んでいる。
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「まずは図書室の最新書籍を、一般利用者よりも先に借りられる優先権。受験や課題で新しい情報が必要な時、これは結構助かるわ」
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「それから、文化祭や学園祭の実行委員会への推薦。これがあると、行事の企画や運営に関わることができて、学校内での評価も上がるのよ」
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「さらに、学校側のイベントや行事での優先参加権。部員ならば、例えば体育祭の特別チームへの参加や、発表会での目立つ役割を任されることもあるわ」
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僕は素直に「すごいな」と思ったが、どこか冷めた気持ちも隠せなかった。
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「でも、俺は別にそういうのには興味がないんだ」
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霧島は淡々と続ける。
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「特典は魅力的だけど、それだけが理由で入る人はいないわ。私たちはただ、青春を作り出す――そのための仲間を探しているの」
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そして、彼女は声を落とした。
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「ただし、条件がある」
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「この部活の活動内容は絶対に口外しないこと」
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僕が眉をひそめると、霧島は真剣な表情で説明した。
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「もし秘密を破れば、進路や日常生活に深刻な悪影響が及ぶかもしれない」
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「例えば?」
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彼女は少し間を置いて答えた。
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「推薦や評価の取り消しはもちろん、試験や課題の扱いが厳しくなることもあるわ。親や先生からの信用も失いかねない」
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「日常的には、学校内での立場が悪くなったり、周囲からの視線が変わったりね」
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その言葉には、部活の“秘密”を守ることの重みが詰まっていた。
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僕は無言でその紙を見つめる。
得られるものと失うもの、どちらも大きい――そう感じた。
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「返事は急がなくていい。ゆっくり考えて」
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霧島は優しい笑みを浮かべながら、そう告げた。