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初めての片鱗
肩がぶつかった瞬間、思わず息を呑む。
「……わっ、ご、ごめん!」
相手は一瞬よろめき、そして立ち止まった。
手には、先ほどぶつかった衝撃で落ちた僕の本を持っている。
「大丈夫?」
声は柔らかく、落ち着いているけれど、どこか好奇心が混じっている。
見上げると、彼女の目はきらきらと光り、自然に視線が合った瞬間、胸の奥がざわついた。
――これが、意図的に作られた青春体験なのか。
一瞬の接触で、心がこんなに動くなんて、予想もしなかった。
「え、あ、はい……すみません」
動揺して言葉がうまく出ない僕に、彼女は微笑みながら本を差し出す。
「はい、落ちたわよ」
手渡された瞬間、ふと何かが僕の中で光った気がした。
本を受け取る動作一つにしても、バランスや反応の速さ――
沙月の言う“素材”としての資質が、無意識に表れていたのかもしれない。
「いいわ、その反応」
後ろから聞こえる沙月の声。
「風見くん、あなたにはまだ自覚のない才能があるわ。さあ、これから少しずつ引き出していく」
胸の奥のざわめきとともに、初めての“青春っぽい感覚”がゆっくり染み込む。
戸惑い、少し恥ずかしさを感じながらも、確かに自分の中で何かが芽生えた――
そんな瞬間だった。




