陸話
首吊り警官撃退後、交番内の壊れた金庫から拳銃を入手。
しかし、考えてみたら、霊力の無いオレが使ってもテケテケすら倒せないんじゃなかろうか?
……いや、まあ良い。
主人公のキョウスケに渡せば良いし……自分に使うにしても殴るよりは確実に強いから無駄にはなるまい。
さて、寄り道しすぎた気もするが、目的地であるスタート地点。
厳密にはスタート地点である農道から、最初に来れる場所であるバス停に到着した。
ここには廃車となった廃バスが、バス停の後ろに配置されてる。
その車内にはアイテムは無いが……三馬鹿の一人。デブが倒れていて。
起こさない、または車内に入らないなどしてスルーしたら、デブはバスと一緒に、行方不明となる。
デブはオタ芸に長けた動けるデブで、戦力としては微妙だが、囮としては有能な上に、ヒロインの死亡フラグの1つをへし折ってくれるので、仲間にする価値はある……あくまでもゲームの話だが。
……ふむ、バスがあるが。車内には誰もいないな。
やはりゲームスタート前か?
取り敢えず、スタート地点までいってみるか?
停留所のベンチに、全身びしょ濡れで座ってる小学生くらいの女の子がいるが……それをスルーして、農道に向かう。
なぜスルーするのか?
それはメリーさんと同系統の怪異だからだ。
話しかけたり接触すると、取り憑かれて視界が制限される。
しかも、メリーさんと重複するので、そうなるとイベントで除霊するまで、視界制限がヤバい事になる。
まぁこっちもそれなりに可愛いので、敢えて取り憑かれるのが、一部の猛者や、縛りプレイの定番だったりはするが……断固スルーだ。
スルーしたまま農道を歩く。
赤い霧で視界が悪いが、道を歩く分には問題はない。
左右の田んぼだけ不自然に霧が晴れてるが、そっちを見てはいけない。
田んぼにはクネクネがいて。視界に入れただけで勇気りんりんゲージが大幅に削られるからだ。
初見は大抵、ここでゲームオーバーになる……これもクソゲーと呼ばれる要因の1つで、
スタート直後に即死級のトラップがあるのはどうよ? って話だ。
周りの風景的に……恐らく此処がスタート地点だな。
やはり誰もいないし……今更だがBGMも聞こえない。
まぁBGMは流れてきたらビックリだが……さあて、どうしたものか?
現実的に考えるなら、このまま農道を逆走すれば、脱出出来る可能性はある。
ゲームでは、仲間を探さなくては、って感じのメッセージと共に、見えない壁に阻まれてたが……。
どうやら、見えない壁は無さそうだ。
しかし、試しに少し進んだだけで赤い霧の濃度が増して視界が利かなくなるのを考えると……やみくもに突き進むのはヤバそうだな。
無限ループとか以前に、崖とか段差で足を踏み外してアウトだろう。
……無理するより、ここで、ちょっと待って、何もなければ引き返して、普通にゲームクリアを目指すべきだな。
あとは待ちすぎて、姦姦蛇螺が出ないように注意しないとな……。
ピーヒョロロ……♪
……って、この笛の音……姦姦蛇螺の登場BGMじゃねえか!?
まてまてまて!? 出るの早すぎだろっ!!
いやまて、もしかして単なるランダムエンカウントで外れ引いただけか?
ランダムエンカウントとしては、花子さんや人面犬とかもいるが……よりによってこいつかよ!?
特攻武器的な拳銃はあるが……多分、効かないな。
全弾ぶち込んで怯ませれたら上出来って感じじゃないかな?
ハハハッ……チクショーメっ!?
全力ダッシュの耐久レースの始まりだぁ!!
走る走る、ひたすら走る!
ゲームならスタミナゲージが尽きても歩けたが……現実は無理だ!?
姦姦蛇螺に限らず、ランダムエンカウントの敵は、エリアを跨げば振り切れる仕様がある。
だから、エリアの境でランダムエンカウントを待ち、敢えて出現させて即座に振り切るってテクニックもある。
が、撃退した場合よりリポップのクールタイムは少ないので、撃退できるならした方良いが……姦姦蛇螺はキツイ。
ちな撃退のベストプレイスは、例の死亡フラグだらけの廃団地だ。
彼処なら4階からノックバックで突き落とせば一発で撃退できるからな!
まぁ、勢い余って一緒に転落してゲームオーバーもあるあるだが……こんな平地で遭遇するより遥かにマシだろう。
くそっ……停留所から最短の次のエリアは……廃駅舎!
駅舎の影は見えてるんだか……脇腹が痛くてもう動けん!
回復が早いか追いつかれるのが早いか……駄目だな追いつかれる方が早いな。
ダメ元で銃弾ぶち込むか?
それとも……ああ、考える時間もねぇな!
カチッ……カチカチッ……
引き金が……って、セーフティか!?
コレか? これだな! よし外れた!!
ターン!
タッタッタッターン!
5発中、4発命中!
ゲームだと射程距離内なら必中だったんだがな……。
まあリアルで、八割当てれれば上等か?
……だがまあ無駄か。やっぱ大して効いてないな。怯ませただけ上等だな。
足は……良し動く。走るのはきついが……少しでも離れないと……。
ぜい……ぜい……。
だめだ、あと数メートルなのに、追いつかれる!
くっそこっち来んな!!
恐怖に負け目を閉じ、デタラメに木剣を振り回す。
それが姦姦蛇螺にヒットして折れた感触が伝わる。
「ひぎぃぃ!?」
「えっ?」
このダメージボイスは、痛打。つまりクリティカルが出た時の奴だ!
……ああそうか。
ゲームでは非効率なので、木剣で姦姦蛇螺を殴ることなんてなかったが……効果自体は高いんだった。
だがそれも、一発で倒せるほどじゃない……が!
ーーこれで逃げ切れる!!
最後の力を振り絞り、転がるように……といか、ほぼそのまま駅舎に転がり込む。
乱れた己の息が煩いが、それでも聞き耳を立てる。
よし…笛の音が遠ざかっていく……無事、振り切ったよう……だ……。
……って、いかん、気が抜けて意識が飛びそうになった!?
ここは安全地帯じゃないぞ!!
ああ、今だけは、主人公よりメガちゃんに来てほしい。
ウェルカム、カムヒアーメガちゃん!
しかし、視えるのはただの暗闇。
雰囲気ぶち壊しのあのピラミッドが、本来ならすぐそこにあるはずなのに……。
「じ……ざ……電……危険……ホームの……お下がり……」
いや、お前は呼んでねーよ、猿夢!?