伍話
……怪異と亡霊の違いは、わかりづらい。
どちらも物理攻撃無効で、対霊属性の攻撃しか効かない。
そして、どちらに攻撃されても精神ダメージ――つまり “勇気りんりんゲージ” が削られる仕様だ。
普段は見えないが……。
カメラで一度捕捉すれば、以降は目視で確認できるようになる――という親切設計。
……に見せかけた心折設計でもある。
姿が見えるようになる=ロックオン状態ってことで……。
つまり、カメラに映した時点で、“どこまでも追ってくる” ようになるのだ。
ここで、怪異と亡霊の差が出る。
怪異は、近づくだけで不意打ちを仕掛けてきて、その瞬間に “見える” ようになる。
対して、亡霊は、こちらが “認識” しなければ基本無害。
つまり――
姿を消した怪異を警戒してカメラを使う=亡霊を発見=ロックオンされる、という最悪のルートを踏むことになる。
かと言って、初見で怪異をカメラ無しで見つけるのは困難だ。
ヒント的な痕跡はある。たとえばこの交番の首吊り警官なら、天井から下がるロープが“ユラユラ”揺れているという演出がある。
……いや、それで気づけってのは無茶振りだろ!?
要するに、初期装備のスマホには罠が仕込まれていたわけだ。
ライトは便利だが、敵に見つかりやすくなるし――
電話機能は……なぜかメリーさん専用回線。
どこにかけても、番号を問わず、繋がるのはメリーさんのみ。
しかも、こっちからかけなくても、一定時間ごとに向こうから着信が入る。
一度でも会話したらアウト。以降、メリーさんはロックオン状態で接近してくる。
以降は着信にでなくても、メリーさんは近づいてくるので、一度でも会話したなら居場所確認のために出た方が良い。
メリーさんは内部処理がちゃんとしてるようなので、移動ルートから離れるように移動すれば接触を避けれる。
ただ、たまにバグって違う方向に行ったりするからソコは注意が必要だが……さほど問題はない。
接触されてもダメージはないからだ。
そう画面内に常駐して視界を塞いで邪魔な “だけ” で、直接的な害はない。
しかもこのメリーさん、妙に可愛いんだよな……。
見た目の評価も高く、ネット上では「敢えて取り憑かれるプレイヤー」もいるくらい。
バグで迷子になったりもするから、愛されキャラ枠だったりもする。
オレも嫌いじゃなかった。
――けど、今はノーセンキューだ。
可愛くても、リアルに取り憑かれるのはシャレにならん。
さて、本題に戻ろう。
この首吊り警官は、姿を消す怪異のチュートリアル的存在。
だから、近くに対処法が用意されている。
それが――壁に飾られた “木剣”。
お土産品らしきチャチな作りの「洞爺湖」と書かれた護身刀。
見た目は完全にネタ武器だが、実は対霊最強クラスの専用装備でもある。
ただし、注意点もある。
二宮金次郎など “物理系怪異”に使うと、即座にポキッと折れてゴミになる。
初見だと、大体テケテケあたりに使って、へし折って絶望するのが定番ルートだ。
――というわけで。
オレにロックオンして、じりじり迫る首吊り警官をスルーしつつ、隙を突いて交番へ突入。
「うぉっ、掠った!?」
背筋を凍らせる寒気が走り。思わず立ち止まりそうになるが――
振り切って飛び込むっ!
そのまま壁にかかった護身刀を掴み取り、返す刀で一閃。
振り返りざま、首吊り警官の胴を叩き斬る!
「んーーごぉ、ぁ……!」
効いた!
しっかりダメージ通ってる!
霊力がないからって、無効化されるわけじゃなかった……良かった。
いまさらだが、バクチだったな……勝ったから良し!
そら、怯んだ隙に、さらに連撃だ――!
「ん…あ…ぁ……」
よっしや、仕留めた!!
苦悶の声を残して消えていく首吊り警官。
その姿を見届け、ようやく息をついた。
……やべーな、これ。
掠っただけで、あの怖気かよ。
勇気りんりんゲージとか茶化してたけど、直撃したら、冗談抜きで発狂しそうだ。
幸い、怪異の配置はある程度把握してる。
亡霊はカメラさえ使わなければ出現しないし、奇襲さえ避けられれば問題ない。
……ランダムエンカウントの花子さん以外はなっ!!
……トイレ以外でも出てくる花子さんって反則じゃね?