肆話
――廃交番。
ここには、ゲーム最強武器である“拳銃”がある。
そう、警官が所持している“アレ”だ。
廃交番に拳銃が残ってる理由は謎。
でも、あるものは仕方ない。使えるなら使う、それだけだ。
予備弾はなく、5発限定の使い捨て。
だが姦姦蛇螺ですら2発で撃退できる、文字通りの最強兵器。
二宮金次郎には通じないが……それは、問題はない。
問題は別にある。
交番内にいる“怪異”をどうするか。
オレはスマホを構え、カメラを起動する。
肉眼では無人。だが――
カメラ越しの画面には、天井から首を吊った警官の姿が映っていた。
このゲームの仕様だ。
霊体は基本肉眼では見えず、スマホのカメラだけが唯一の“視える手段”になる。
霊力を持つ主人公・キョウスケも、序盤でこれを使っていた。
オレには霊力が無い。でも、スマホの仕様は機能した――少なくともこれは、霊力に依存しないシステムらしい。
通話もネットも圏外。
だが、ライトとカメラ。これがあるだけで、どれだけ救われたか……。
――思い出す、最後の記憶。
ギャルゲをプレイしながら、寝落ちした。
目覚めたらこの世界。ホラーゲームの中。
ギャルゲに転移してたら完璧だった。なんでよりによって……!
本当に“よりによって”だよ。
しかもこの世界、バカなクソゲーと名高い
【本当にあった怖いフォークロア】 だぜ?
まあ確かに、オープンワールドのホラーというレアさと、
アクション性の高さにはカルト的な人気があった。
オレも一時期はハマっていた。
だが――この世界に行きたいと願ったことは、一度もない。
そもそも、ホラー好きでも “その世界で生きたい” なんて覚悟キメた猛者、どれだけいるんだ?
……まあ、来ちまったものは仕方ない。
泣いても喚いても現実は変わらない。
ここが “ゲームの世界” であると同時に、“現実でもある” ことは、もう確定した。
懸念していたことがある。
――もしこれがゲームなら、トゥルーエンドだろうと何だろうと、クリアしたらゲームは終わる。
つまり、世界そのものが終わる可能性があった。
だが今は、それは違うと断言できる。
理由は、背景。
ゲーム中ではただのオブジェだった普通の民家。
入ることすらできず、バグ技で侵入しても “中は何もない” はずだった。
……だが、試したら普通に入れた。
家具があり、生活の痕跡があり、家族構成が推定できるほどの “リアリティ” があった。
複数の家を確認した。どれも異なる構造、異なる雰囲気。
ランダム生成じゃない、“実在” の空気があった。
この世界は、ゲームのステージじゃない。
その外側に、ちゃんと広がっている。
――そう、信じたい。
でなければ、希望が潰えてしまう。
そういえば、このゲームにはスタミナとライフ以外にも、独自要素として “勇気ゲージ” があったな。
別名:SAN値。
減ると視界が暗くなり、0になると発狂=ゲームオーバー。
アイテムで回復すると、りん♪ っと鈴の音が鳴り、連続使用すると「りんりん♪」とうるさいことになる。
だから俗称は――「勇気りんりんゲージ」。
くだらねぇ……。でも、そういうネタで笑える未来のためにも、生きて帰らなきゃな。
――さて、問題はここからだ。
首吊り警官の“攻略方法”。
霊体である以上、物理は無効。
しかもこの世界では、どこぞのホラーゲーと違って “撮影” しても封印にはならない。
……いや、そもそもオレには霊力が無いから、その仕様でも無意味だな。
だから、こいつが、ただの “亡霊” なら、スルー推奨だった。
でも――
こいつ、“怪異” なんだよな……。