弐話
……まあ、とりあえず、廃校舎から脱出成功。
よく考えたら、わざわざ廊下通る必要なんてなかったんだよな。
一階なんだから、窓から出ればよかった。
ゲームじゃ窓は、“ギミック以外では割れない・開かない仕様” だったけど、試しに開けたら――あっさり開いた。
「ゲームの世界だから、現実の常識が通じないかも」って疑ったけど……どうやら、これは現実らしい。
たしかに、元のゲームは物理エンジンとか結構凝ってた。
でも、今オレが感じてる空気、手触り、そして匂い……あまりにリアルすぎる。
だから判断した。
“ゲーム的に不可能なことも、現実なら通用する” と。
結果は――正解だった。
……もっとも、そうなると逆に、ゲームのギミックが機能するかどうかが心配になる。
けど、さっきのテケテケの反応や……今まさに校舎に突っ込んで来てる “あいつ” の存在を考えると――
ギミックは“生きてる”と信じたい。
ひょいっと避けて――ドガシャッ!
突っ込んできて校舎に人型の穴を空けた、二宮金次郎像。
校庭をランニングしてた二宮金次郎像は、ゲームではクソ硬いエネミーで、建物にぶつかっても影響無しだったが――
今は違うらしい。思いっきり壁ブチ抜いて、瓦礫の下でピクリとも動かない。
……影響、ありまくりだな。
しかし、挙動自体は変わってない。直進→直角ターン→また直進。
硬くて倒すのに時間がかかるだけの雑魚のままってことだな。
まあいい。今のうちに離れよう。
本当は裏技を使う覚悟もしてたが……助かった。
ちなみにその裏技、知る人ぞ知る “投げ”だ。
素手は論外。そう思っていた時期もありました。
投げは素手アクション限定、しかも対人型怪異にしか使えない特殊技。
二宮金次郎は人型だから、実は――投げられるのだ。
……数十トンの石像を。
知ったときはマジかよ!?って思ったけど、実際にやるのは主人公のキョウスケだからこそ成立する荒技。
オレにできるかわからんから、試せなくて良かった。
さて、次はバス停に向かうルートだ。
廃団地を抜けるのが最短だけど、あそこは死亡フラグの宝庫。
――避けたい。
できれば行きたくない。
でも、タイミング次第じゃ、三馬鹿の一人――ガリがいる。
ガリ勉でひょろいガリ。
動けるデブのピザ。
リアル太陽拳使うチビのデコ。
通称“三馬鹿”。公称も三馬鹿。
ミス研(ミステリー研究部)の幽霊部員たちで、イベント次第では救出対象にもなる。
……でも、スルーでいいな。
ヒロインのエリコやメガちゃんならまだしも、三馬鹿のために死地に突っ込むのはノーサンキュー。
メガちゃんは瓶底メガネの地味娘。
外しても美人化イベントは起きない、というガチ地味属性。
でもオカルト知識はトップクラスで、イベントすっ飛ばしても自力で生き残る。死亡フラグの無い、ある意味チートキャラだ。
……つまり、無理して助けに行く必要はない。
問題はエリコだ。
行動力だけはある、ツンデレポンコツ優等生。
ネットの評価も「可愛いは正義派」と「無能は処せ派」で真っ二つ。
オレは前者寄りなので、見捨てるのは気が引ける。
まあ、ツンデレの矛先はキョウスケで、オレには無関心だろうけど。
逆にそれがいいっていうか……うん、だから見捨てられないんだよ、リア充爆発派のオレでもさ……。
幸い、エリコの死亡フラグは少なめ。
回避は簡単な部類だが、それもキョウスケの行動次第。
――早く合流しないと。
どのルートで動いてるのか、把握する必要がある。
バス停に向かうには、廃交番を抜けるか、廃駅を通るかの二択。
どっちもリスクはあるが、選ばないわけにはいかない。
……その前に、近くにセーフポイントがあったはずだ……寄ってくか?
ゲームならセーブもできる安全地帯。
でも、今のオレにもセーブが――できるのか?
……できたとしても、ロードして再開した “オレ” は、本当に“オレ”なんだろうか?