拾壱話
懸念は杞憂に終わり、無事、除霊には成功した。
厳密には “解呪” に近いのかもしれないが、細かいことはどうでもいい。
足元には、証拠となる──首のもげた小芥子が転がっている。
そう、除霊手段は一つ。
お寺にある仏像。正確には埋納された小芥子に触れ、助けを求めることだ。
ただし注意点もある。小芥子は七体しか存在しない。つまり、除霊も七回しかできない。
ゲームに登場する、取り憑くタイプの霊は四〜五体程度だから、“回数的に余裕じゃん” と思ったら負けである。
たとえば──メリーさんやバス停の少女。
これら固定イベントの霊は、一度取り憑かれても一回限りの処理で済む。
ババァもそうだ。
スマホで撮影などしなければ、そもそも取り憑かれることもなかった。
未知のエリアだからと警戒してスマホを構えたのが仇になった。まったく、余計なことをしたものだ……。
まあ、過ぎたことは仕方ない。
だが、真に厄介なのは──花子さんだ。
彼女はテケテケと同じく、ランダムエンカウントするワンダリングタイプである。
初登場は学校の女子トイレ。そこに近づかない限り、確定エンカウントは発生しない。
……しかし、ゲーム後半になると出没フラグに関係なく、量産型となってランダムエンカウントしてくるようになる。
それにより、何度でも取り憑いてくる。
本当に鬱陶しい敵だ。
だから、小芥子を使い切ったあとで出会ってしまうと──エンディングどころか、スタッフロールが流れ終わるまで、彼女と付き合う羽目になる。
オレの場合、下手をすると “生涯” の付き合いになる危険すらある。
なんとしても避けねばならない。
……いや、待てよ?
なんで学校にテケテケがいたんだ?
あれは廃駅の線路でエンカウントしなければ、ゲームの後半までは出てこない仕様だったはず……。
リアル化の影響か?
それとも、知らぬ間に後半戦のフラグを立ててしまっていたのか?
……分からない。謎が一つ増えた。
──まあいい。今はまず、ババァとオサラバできたことを素直に喜んでおこう。
前を見る。ババァはいない。白虎がいる。
上を見ても何もいない。
下を見ても何もいない。
左右を見ても、誰もいない。
……よし、オッケー。
……ん? いま、何か “変なの” が見えた気がしたんだが……?
──しまった。一休さんパロの屏風の前を通るとき、隠密に失敗してたか……?
よし、逃げよう。
白虎の追跡エリアは狭い。小堂から庭へ抜けるだけで十分だ。
むしろ逃げなきゃ死ぬ。まさか本物じゃないだろうが白虎と称されてるだけあって、二宮金次郎像並の強敵だ。
……二宮金次郎像、強すぎじゃね?
それはさておき、脱出ルート知ってる。
だから余裕余裕──そう思って振り返ったその先に、いたのは……
花子さんだった。
……ええっと、こんにちわ?
──って、このタイミングでエンカウントするのかよッ!?
――――
――
―
白虎からは逃げ延びた。
そして、視界の隅には──ババァからチェンジした花子さんがいる。
──まぁ、ババァよりマシか……。
虎をどうにかする手立てを手に入れるまで戻れないし……。
そもそもゲーム的には、花子さんに憑かれたら、あえて除霊せず終盤まで引っ張ることで小芥子の消費を抑えるというテクニックがあった。
つまりこれは、やむを得ない選択だと割り切って、しばらく付き合うしかない。
……しかし、アレだな。
ゲーム画面で見てるぶんには不気味ではあったが、可愛さもあって “アリ” だった。
だが──現実で憑かれるとダメだこれ。普通に怖い。普通にキモい。
まず、雰囲気がダメ。
ババァのときは不快感が勝ってたが、花子さんは “怖さ” が前面に出ている。
目付きがヤバい。
敵意とか殺意とかそういう次元じゃなくて、怨念が直に突き刺さってくるような視線だ。
……掲示板で「花子さん萌え〜」とか言ってた連中に、こいつを派遣してやりたい。
──そういや、掲示板といえば廃病院の掲示板も確認しておかないとな。
あそこに、トゥルーエンドに必要な情報が書いてあるんだよな。
……内容は知ってるけど、フラグを立てるためには行かなきゃならない……のか?
それとも無視して、先に進んだほうがいいのか?
……でもなぁ、あそこは、
三馬鹿の死亡フラグが集中する地獄エリアなんだよな。
放置すると──
……ガリは人体標本に、
……デブは水死体に、
──デコは焼死体になる……という定番ルートがあった。
だが、今は誰も来ていない。
つまり、スルーでいい。
……来ててもスルーしたいけどな!
だってあそこ、ゴーストの巣窟だぞ?
しかも霊体だけじゃない。怪異タイプが紛れてる、嫌がらせみたいな配置。
医者、患者、ナース、そして──鎧武者。
最後のやつだけ、なんかおかしいだろ!。
でも、実際に存在してるんだから突っ込んでも仕方ない。
考察サイトでは、
「落ち武者じゃなくて鎧武者なのは、院長が趣味で飾ってた甲冑が動いた説」
って言われてたけど──
正直、そんなのはどうでもいい!
要するに、非実体の群れの中に、半実体の中ボスが混ざっててランダムエンカウントしてくる、
地獄みたいな難所ってことだ!
──よし。後回しにしよう!!
今はトゥルーエンドの条件を満たすため、産廃場に向かおう。
なぁに、フラグが立ってなかったら改めて行けばいいだけさ!
……って、このセリフがなんかフラグに思えるのは──
ゲームのやり過ぎか?




